第24話 四女と勝負
「お姉ちゃんも一緒に来て」
四女に連れられて俺たちは部屋に行こうとする。
「独り占めずるい!」「そーだそーだ!」
「1時間だけでいいからお願い」
真剣な表情でそう言う四女にブーイングをしていたお義母さんや次女もしぶしぶだが納得したようだ。
四女の部屋の中に入るとゲームのモニターやパソコンなどの機器や大量のゲームが置いてある。こういう部屋に入るとどうしても子供心がくすぐられてしまうな。
「さっきはあんな目を向けてしまってごめんなさい。先に言っておくけど、お姉ちゃんもクイーンもあなたと居ていきいきとしているから別にあなたのことは嫌いじゃない」
別にあんな目線程度で傷つくような繊細な人間ではないので謝る必要なんて全くないのだが、四女は律義に謝ってくれた。中学1年なのに人間が出来ているなあ。
「なにか俺と勝負したいんだよね」
「うん。お姉ちゃんをかけて勝負したい」
「俺は誰になんと言われても後輩と別れたりはしないよ」
「お姉ちゃんが悲しむからそんなことは言わない」
四女は俺に少し嫉妬しているようなので正直そう言われると思っていた。じゃあ何がしたいのだろうか。
「お姉ちゃんが家を出ていってしまって凄く寂しかったから、今日はどうしてもお姉ちゃんと一緒に寝たくなっただけ。でもあなたも一緒に寝たいだろうから、私と勝負して私が勝てばお姉ちゃんを譲って欲しい。」
思っていたより可愛らしいお願いだった。それを聞いた後輩も嬉しそうに四女の頭を撫でている。四女も撫でられてまんざらでも無さそうだ。
「俺に勝負をふっかけたら絶対に乗ってくる事は知ってるよね?良いよ、勝負しよう。で、なんの勝負をする?」
「私が得意なのはゲームだけ。だから勝負もゲームで勝負する。でも1対1で勝負したら絶対に私が勝つからお姉ちゃんと2対1でかかってきて」
凄い自信だ。だがこの子はプロゲーマーなので四女の言っていることは正しいのだろう。
四女は勝負するゲームを見せてくる。俺はやったことがないゲームだが、かなり有名なゲームだということは知っている。
「私はこのゲームが上手くてプロになった。このゲームなら私のプライドにかけて絶対に負けない」
このゲームはシューティングゲームで、銃で撃ち合って相手をたくさん倒した方の勝ちだ。
まずお互いに縦長いステージの端からスタートし、移動しながら1分以内に回復アイテムや投げられる爆弾などを拾って準備し、真ん中で戦闘が始まる。相手を全員倒すか、自分が倒されればスタート地点に戻され、またゲームが再スタートされる。
通常は4対4で制限時間内に多く倒したチームの勝ちなのだが、手早く終わらせるために今回の勝負は2回倒された方の負けの特別ルールで始める。
プロゲーマーと対戦できる機会なんてそうそうない。気合い入れていこう。
「あのー?私は3人で一緒に寝ればいいだけだと思うんだけど…」
「「お姉ちゃん(後輩)は黙ってて!」」
「ええ~!私何も変なこと言ってないよね!」
確かにそうだが俺たちはもうやる気になってしまった。一度始まった勝負は最後までやり抜くのが鉄則だ。
後輩は俺たちが引く気がないのを察し、しぶしぶ俺と作戦会議をする。相手の出方もこのゲームのセオリーもまだ分かっていないので、最初は様子見しながらプレイしようと決めた。
ある程度操作方法を確認したので、ゲームを開始する。まずは数十種類ある銃から各々好きな武器を選んだらスタートだ。
俺は中距離武器を選ぶ。この銃は射程や弾の威力やキャラクターの移動の速さなどの値が全て平均のオールマイティな銃だ。俺は柔軟に動くことが得意なので何でも出来るこの銃を選んだ。
後輩はサポートのために長距離武器を持ってもらった。かなり遠くから撃てるが弾の威力が低くキャラクターの移動能力が弱くなってしまう銃だ。
試合が始まると相手がどんな武器を選んだのかが表示される。
四女が選んだのは接近戦しか出来ないピーキーな性能の銃だ。
射程が全く無いかわりに持っているキャラクターはスピードが早くなり、弾が当たれば相手を一撃で倒せる威力がある。
相手の出方を見るために俺はコソコソと隠れる。後輩には最初は自由に動いて欲しいと指示している。
四女は俺と違い隠れる気はないようで、凄いスピードでフィールドを駆け巡っていく。
「ちょ、ちょっと先輩!相手が早すぎて弾が当たりません!」
後輩が遠距離攻撃出来る利点を生かして遠くから銃を撃っても、遮蔽物を利用したり移動にジャンプなどを織り交ぜて不規則に移動するせいで狙いが定まらない。
「弾の音を聞けば大体の位置は分かる。お姉ちゃん見つけた」
四女がものすごいスピードで後輩の方に突っ込んでいく。
このまま行くと後輩はやられてしまうだろう。隠れていた俺はタイミングを見計らい不意をつくように姿を出し四女の横から銃を撃つ。
「よし!ドンピシャなタイミング!」
「おっと。なかなかやるね。でもこのキャラはこんなことも出来る」
不意をついたおかげで一発は弾が当たったが、それだけでは倒せず弾を避けながら一旦四女は遮蔽物に隠れた。
おそらく事前に拾っていた回復アイテムを使って体力を回復しているのだろう。
なるほど、スピードが早い分逃げるのも速いのか。だからといって回復されないように近づけば一撃でやられるリスクがある。かなり厄介だ。
「もう2人の位置は分かったから絶対に負けることはない。めんどくさいお姉ちゃんから倒す」
そういうと四女は俺から斜線を通らないように動きつつ、どんどん後輩と距離を詰めていき、あっという間に後輩を倒した。
そうして次に四女は俺の方に向かってきたので、俺は後ろに引きながら撃つがことごとく弾を避けられだんだん距離が詰まっていき、ついに攻撃が当たり一撃でやられてしまった。
なるほど。不意打ちなら多少の効果はありそうだが、正面から戦っても勝ち目は無さそうだ。初心者があの動きに弾を当てる事はそうとう難しいだろう。
二人共やられたのでお互いにスタート地点に戻される。俺たちは再度作戦会議をして次の勝負に移る。次負けたら勝負に負けてしまうので今回は勝ちに行く。
最初にアイテムを拾い終わり、バトルが始まると先程と同じ様に四女はステージを駆け回りながらどんどん近づいてきたので、俺は後輩に合図を出す。
「あれ?今回はお姉ちゃん撃ってこないね」
四女は長射程の後輩が全く姿を見せないことに少し困惑している。
その後輩はというと今はステージの端で棒立ちしている。それもそのはず、後輩は今コントローラーから手を離しているのだから。
こっそりと後輩は現実で四女に近づいていくが、画面に集中している四女は気づいていない。
そう。俺たちがやろうとしているのはプレイヤーへの妨害だ。
「くらえ!これがお姉ちゃんの実力だ!」
「ちょっ、ちょっと。あっははは!それはずるい!あははははは!」
後輩は楽しそうに四女をくすぐり、四女も笑いながら後輩にくすぐられて幸せそうだ。
四女のキャラクターは隙だらけになったので俺が銃で倒す。これで次に倒した方の勝ちだ。
「はあ…はあ…今回は許すけど次からは現実での妨害は無し」
「うーん。まあそうだよね。分かった。」
この1勝が認められなければゴネるつもりだったが、1勝さえくれるのなら好都合だ。
俺は初見のゲームで普通にやって勝てるわけがないと思って最初から卑怯な手で1勝はさせてもらうつもりでいたが、それで勝っても四女は納得しないだろうから、元々最後は真っ向勝負で決めるつもりだった。
俺もこのゲームに慣れてきたのでここからが本番だ。気合いを入れ直そう。
まず最初の1分で投げられる爆弾を大量に集める。相手が1撃で倒してくるので回復アイテムは無意味だ。なるべく大量に爆弾が欲しいので後輩が集めた爆弾も全てもらう。
この爆弾は遠距離に投げられるが、見てから簡単に避ける事が出来るので牽制にしかならない。でもこの爆弾が作戦の肝だ。
戦闘が始まると、とにかく俺は時間稼ぎをするように爆弾を投げる。当たらなくても上手く時間が稼げれば良い。
「そんなのにあたるのは初心者だけ。爆弾は本来銃を当てるためのサポートで使うもの」
やはり四女は簡単に爆弾を避けながら進んでくる。だが確実に進みは遅くなっているはずだ。
そうして俺の手元にある1つの爆弾以外の全ての爆弾が投げ終わったところで俺たちの準備が完了した。
「なるほど。あの場所に行きたかったのか。考えたね」
この間に後輩にど真ん中の高台に移動してもらった。そこはたどり着くのは時間がかかる場所だが、そこからなら四女がどんなところにいても斜線が通る。後輩にはそこからちまちまと撃ってサポートしてもらう。
この作戦ならば四女に回復できる隙はないだろう。
「お姉ちゃんはうざいけどダメージは低いから一旦無視する」
四女は厄介がりながらも勝つために俺にまっすぐに向かってくる。俺は爆弾を投げまくっていたので場所はバレていた。
この状況になったのなら後輩にじわじわ削ってもらいながらも、俺も引き撃ちして逃げながら撃つのが理想なのだが、あえて俺は前に出る。
きっとこうするほうが勝率は高いはずだ。
「もうエイムには慣れたよ!くらえ!」
まさか俺が前に出てくると思っていなかった四女は少し隙を見せたので俺は銃を撃ちまくる。この銃はなんでも出来る武器なので接近戦も出来ないことはないのだ。
俺はそこそこのダメージを与えたが、体勢を立て直した四女は凄い動きで弾を避けながら接近してきた。
もう倒されると思った瞬間に俺は持っていた残り1個の爆弾を起爆させて自爆する。接近しなければ倒せない武器の四女には自爆は効くはずだ。
「やったか!?」
「危なかった…音が聞こえなければ負けていたかも」
どうやら四女は爆弾の起爆する音を聞いて瞬時に距離を取ったらしい。ここで仕留めきれなかったのはかなり痛い。
四女に少しだけ爆風ダメージが入ったおかげであとは後輩の弾が1発でも当たれば勝ちなのだが、窮地に立たされた四女は凄い集中力を見せる。
四女は体力がギリギリの状態でも臆することなく鋭い動きで後輩に近づいていき、結果一発も弾が当たることなく後輩を倒した。
そもそも真っ当に戦っても弾が当たらないので不意をついたのだから、1人に集中した四女に弾をあてるなんてことなんてまあ無理な話だ。
うん。完敗だ。悔しいな。
四女は勝負にかなり熱くなっていたのか勝利して思わずガッツポーズをとっている。
「初心者にあんなにダメージを食らうとは思わなかった。なかなかセンスあるよ」
「四女もさすがだね。あの異次元のキャラクターコントロールはかっこよかったよ」
負けてしまったがいい勝負だった。お互いを称えるように俺たちは握手を交わす。
「ちょっと待った!なにいい雰囲気で終わろうとしてるんですか!私は3人で一緒に寝たいからもう1勝負して下さい!私が不利な条件で良いですから!」
もう。せっかくいい感じで終わったのになあ。しょうがない奴め。
後輩は1人で俺と四女を相手にして1回でも2人を倒せれば私の勝ちにしてほしいと条件を出してお願いしてきた。
正直2人に勝てるわけがないと思うが、もう少しこのゲームを楽しみたかったので了承する。
「やった!実はさっき使ってみたかった銃があるんだよね!」
俺と四女はさっきの使い慣れた銃を選び、試合が始まる。
後輩が選んだ銃はギャンブル性の高い銃だ。
試合が始まると射程、玉の大きさ、威力など全ての値がランダムで決まる特徴がある。たとえいい値になったとしてもスタート地点に戻るたびに再抽選されてしまうので、俺は総合的に判断してゴミ武器だと判断した。
「あの銃は色んな人が面白がって研究した結果、ネタ武器だと言われている。その証拠にガチ対戦であの銃を使っていい成績を残した人はいない」
このゲームに詳しい四女がそう言うなら間違い無いのだろう。
「多少強い銃になったとしても2人で挑めばなんとかなるでしょ」
そう思っていた矢先、長距離から大砲みたいな大きい弾が何発も飛んできた。俺は避けきれるわけもなく当たってしまうと、なんと一撃で倒れてしまった。
「クソゲーじゃねーか!」
「ふふふ!大当たりですよ!やっぱり博打は良いですね!人生大穴狙い!」
四女もあまりの連射力と弾の大きさに避けきることが出来ずにやられてしまう。
「クソゲー」
四女もあまりの理不尽さに呆れている。
「よし!私の勝ち!今日は3人で寝ましょうね!」
ウキウキの後輩にムカついたので、腹いせに再スタートされて今度は全てが弱い値が出てしまった後輩を2人でタコ殴りにした。
後輩をいじめて爽快な気分になったところでゲームをやめ、俺は四女と連絡先を交換する。
四女は俺を異性として見ていないようなので、友達のような感覚で遊べてかなり楽しかった。今後もちょくちょく遊びたいな。
ふと四女が後輩を見る目を見て、何故俺を異性として見ていないかが分かった気がする。
どうしても気になったので後輩がトイレに言っている間にこっそりと聞いてみた。
「もしかして後輩のこと異性として好きなの?」
「恋愛とかそういうのはよく分からない。けど今までお姉ちゃん以外にドキドキしたことはない」
そう答えた四女は少し顔が赤くなっていた。
うん。自覚はして無さそうだがおそらくそうなのだろう。後輩を好きになるとはセンスがいいな。いい友達になれそうだ。
西野鈴音
【もしや私は豪運なのでは!ギャンブルしたら億万長者になれちゃうかも!】