第23話 後輩の実家
「先輩!“どこにでも旅行出来る券”使いたいです!」
俺が以前後輩にあげた鬼の勉強会のご褒美チケットを後輩が使ってきた。
俺はそれを承諾し、旅行プランを一緒に考えた結果、来週に2泊3日で行くことに決まった。
旅行をするために一時的にクイーンを預けないといけない。俺は母に連絡をとろうとすると、後輩がせっかくなら実家で預けたいと提案してきた。
どうやら後輩の四女はクイーンが大好きらしく、面倒を見たがっているらしい。
「いくら後輩の家族でも俺は会ったことがないからなぁ。預けるのがちょっとだけ不安かな」
「じゃあ今から私の家に行きましょうよ!今日はみんな家にいるらしいですよ!」
そう言い放ち早速後輩は電話で連絡をとり、許可をもぎ取ってきたので後輩の家にいくことになった。話を聞いている限り楽しそうな家族なので会うのが楽しみだ。
後輩の家にクイーンと俺と後輩の3人で案内してもらう。
「ここが私の実家です。家から結構近いでしょ」
確かに意外と近かったな。20分ほど歩いただけで後輩の家にたどり着いた。
外装はごく普通の2階建ての家だ。俺が外装を眺めている間に後輩は慣れた手付きでインターホンを押す。
「ようこそいらっしゃいました。粗末な家ですが我が家だと思って気楽にくつろいで下さいね」
後輩の母は綺麗に折り目が入ったジャケットとズボンを着て、凛としたと表情で迎えてくれた。
「お母さんちょっと気合い入り過ぎだよ。いつも家ではダボッとしてる服しか着ないじゃん」
「ちょっと!先輩さんの前でそういう事言わないの!」
後輩の言葉に鋭く否定する後輩の母。
俺は後輩と一生人生をともにするつもりでいるので、この人が義理の母となるだろう。
お義母さんは警察官の仕事をしているらしく、細身だが姿勢が良く筋肉質で意思の強そうな顔をしている。姿勢がいいからかとても若々しく、後輩と並んでも姉妹にしか見えない。
俺たちはお義母さんに案内されてリビングに行き荷物を置いていく。
「じゃあ自己紹介するから全員集合!」
お義母さんがそう言うと後ろで控えていた家族が前に出てきた。
「じゃあまず私から。後輩の母をしています。こんな駄目な娘をもらってくださり本当にありがとうございます」
「じ、次女です!高校2年です!あ、あのえっと。先輩の大ファンなので会えて嬉しいです!」
「三女です。中学3年です。よろしくお願いします」
「四女です。中1です。どうも」
一気に紹介されたので覚えにくいな。
後輩は俺のそういう思考を汲み取ったのか再度説明してくれる。
「先輩にわかりやすく説明すると、上から少女趣味、オタク、守銭奴、プロゲーマーです」
「「「ちょっと!!!」」」
お義母さん、次女、三女が即座に否定する。四女はプロゲーマーであることに自信を持っているようで自慢げな顔をしていた。
「あの!私は全然少女趣味なんかじゃないですよ!若い頃そうだっただけですから!」
もじもじしながら顔を赤くして答えるお義母さん。なんだかこの人から仕事ができる後輩っぽさが感じられて可愛がりたくなる。
後ろで後輩達姉妹が、嘘ついてる、見栄張ってる、などと小声でコソコソと言っているが、お義母さんは気づいていない。
「お義母さん。たとえ少女趣味でも引いたりしませんよ?可愛らしいじゃないですか」
「そう?ごめんね見栄張っちゃって。いい年して少女趣味なのが恥ずかしくて…」
どんどん声が小さくなっていく。やっぱり可愛いな。後輩が俺をジトっとした目で見てきたので俺は一度気を取り直す。
遠くの方から次女も後輩の言葉を否定してくる。
「わ、私も全然オタクなんかじゃないですよ!というかお姉ちゃん!私は全国模試で上位なんだからそっちを説明してよ!」
手をバタバタさせて早口で否定する次女さん。それにしても全国模試で上位というのは凄いな。
次女さんは野暮ったい眼鏡と髪型のせいか、どこか垢抜けていない雰囲気がある。服装もシンプルなチェックシャツにズボンなのだが、後輩が言うにはあの格好の時は次女なりに全力でおしゃれした格好らしい。素材の良さが見て取れるので垢抜けたらもっと可愛くなりそうだ。
どうやら女子校に通っているらしく、この中で特に男に免疫がないらしいので俺と距離をとって遠くから話しかけてきていた。
「別にオタクなことを隠さなくていいでしょ。そういえばあなた達の絵をファンアートとして投稿していましたよ。ほらこれ」
お義母さんがスマホで絵を見せてこようとするのを次女さんが止めようとする。でも次女さんの力は弱いらしく、軽くあしらわれていた。
見せてくれた絵を見てみると、悪魔化した俺がクイーンを横に侍らせながら豪華な椅子に足を組んで偉そうに座り、後輩を模した小さいうさぎに命令している絵を見せてもらった。
たしかにファンアートを巡回していた時に見たことがある絵だ。完成度が高かったのでかなり評価されていたことを覚えている。
「ごめんなさい私みたいな陰キャがこんなもの書いてしまって…迷惑でしたよね…」
「ううん。凄く嬉しいよ。描いてくれてありがとう」
次女は顔から火が出るくらい顔を赤くして恥ずかしがる。
ファンアートではよくあるのだが、俺を悪魔化して描く絵師さんがやたらと多い。ひどいときには魔王として描かれることもある。不思議だなあ。
「ちょっと!なんで私をこんなミニマムなうさぎとして描くの!納得できません!」
「だってお姉ちゃんだし…小さくて性欲強い所とか、寂しいと死にそうな所がうさぎっぽいんだもん」
後輩の事は多少ナメているようだが仲は良さそうだ。ちなみに後輩は背が低いわけではない。俺と同じくらいなのだが何故か小さく見られがちだ。
三女も俺に気楽に話しかけてくる。
「先輩さん。私は守銭奴だってことは否定しませんよ。でも私も中学の時柔道で全国にいっているんだからそっちで説明してほしかったかな」
柔道をやっているからか体格が良く、話しながらニカッとした笑い方をするので爽やかさを感じる。
三女とは俺と会話していても気負いがなく自然体だ。しっかり会話のキャッチボールが出来るので話していて心地いい。
「なんで守銭奴って呼ばれているの?」
「私将来価値が上がりそうなものを探すのが得意なんです。そういうものを大切に保管して価値が上がったときに売るのが楽しいんですよね」
具体的にはゲーム、グッズ、おもちゃ、雑誌、カードなどを集めているらしい。
そう話していると、余裕そうな態度ムカつく。ちょっとモテるからって。男の趣味悪いくせに…などと後輩たちが囁いているのが聞こえてくる。
「聞こえてるからね。あと私の男の趣味は悪くないから。ただクマさんみたいなデカい男性に魅力を感じるだけじゃん」
たしかにクマみたいなでかい男なんてほぼ絶滅危惧種だろう。くまなく探せば1人くらいいるのだろうか。
三女は俺を見てなにかに気づいたような顔をしてから俺の体を触ってくる。
「なるほどなるほど。ほほう。なかなかの筋肉ですね。先輩さん、もう二周りくらい体が大きくなったら私と付き合って下さい」
そう言うと三女は後輩に頭を殴られる。
「ちょっと!先輩は私だけのものですよ!」
「うん。もう後輩のものになっちゃったからごめんね」
三女は断られてもあまり嫌じゃ無さそうだ。本気で言ってはいなかったのだろう。
ふと四女の方を見てみると、四女は俺をあまり気にせず、マイペースにクイーンにべったりとくっついている。やたらとクイーンは子供に好かれる。
「四女は去年プロゲーマーとして私より稼いだんですよ!」
お義母さんがそう自慢げに話す。
「私が得意なゲームが去年たまたま流行ってくれたおかげ。この先は去年みたいに稼げない」
そうぶっきらぼうに言いながらも四女は嬉しそうだ。
俺も軽く自己紹介し、一旦自己紹介が終わった。
「もうすぐお昼ですし、出前を取ったので良ければ一緒に食べませんか?」
「もちろん良いですよ。わざわざありがとうございます。ちょうどお腹も空いていたんですよ」
「なんの出前取ったの?」
「せっかくだから奮発してお寿司を頼んだわよ」
「「やったあ!!」」
特に後輩と三女が喜んでいる。俺も寿司はなかなか食べられないのでかなり嬉しい。
わくわくしながら寿司が来るのを雑談しながら待っていると、すぐに出前がきたので机に広げて皆で食べる。
「「「「いただきます」」」」
俺とお義母さんと次女と四女は味わいながらゆっくり食べているが、後輩と三女はガツガツと食べている。お義母さんはそんな姿を呆れた目で見ながら俺に話しかけてくれる。
「長女が1番出来が悪いと思って心配していたんですが、こんなかっこいい人を捕まえるなんて思いませんでした」
次女と三女も同じ気持ちのようでうんうんとうなずいている。
「でも私最近モテ期がきてるんだよね。ふふふ。やっと私の魅力が世に伝ったのだよ!」
後輩が自慢すると、次女とお義母さんが後輩に羨望の眼差しを向ける。
「まあ先輩は渡しませんけど先輩の手料理くらいなら食わせてあげてもいいですよ!良いですよね先輩?」
羨望の眼差しに嬉しくなって勝手に俺の行動を決める後輩。迂闊にそんなことを言うから期待した目で見られてるじゃん。
「まあ料理くらいなら良いですよ。じゃあお義母さん、今晩一緒に作りましょう」
「良いんですか!是非お願いします!」
お義母さんは嬉しそうだ。俺もお義母さんと料理するのが楽しみだ。
「じゃあ先輩!せっかくなら今日は泊まっていって下さいよ。私の部屋で2人で寝ましょう!」
後輩がそう言うと四女は羨望の眼差しを俺に向ける。
俺にそういう目を向けるということは四女も後輩と一緒に寝たかったのだろう。どうやら四女は後輩が大好きらしい。そういえば今もしれっと後輩の隣の席に座っているな。
「泊まってもいいならありがたく泊まらせてもらうけど…良いですか?」
「もちろん良いですよ!是非泊まって下さい!」
ということで今日は後輩の家に泊まることになった。
「「「ごちそうさまでした」」」
食べ終わって一息ついたところで四女が俺に若干の敵意をはらんだ目で近づいてきた。
「話がある。私の部屋に来て」
四女が俺にそう言う。あの目は戦おうとする人の目だ。おそらく俺に勝負を挑もうとしているのだろう。
勝負を仕掛けてくるなら全力で受けて立とう。
今は少し敵意を向けられているが、勝負が終われば後輩のことが好きな人同士で仲良くしたいな。
西野鈴音
【先輩が私の実家にいるのが新鮮!家族に仲いいところを見せまくってうらやましがってもらおうかな】