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第1話 密かに告白された彼女のSNSを調べる

 告白された後輩の名前は知らないが、顔は知っていた。彼女は男子生徒の中ではちょっとした有名人だ。悪い意味でだが。


 彼女は野球部なのだが、男を見かけると所構わず声をかけに行き、顧問の先生に毎回怒られるというのが、この学校の名物のようなものになっているのだ。

 

 野球部は雨の日など、グラウンドが使えない日には校舎の中で筋トレをしているのだが、


「先輩お疲れさまです!頑張れって私に言ってください!」


「筋トレしすぎて太ももめっちゃ硬いので触ってください!」


 などと、俺もこんな言葉をかけられた覚えがある。


 俺が覚えている範囲での彼女はこんな娘だ。


 そんなわけで、他の男子生徒からはあまり好かれていない。


 この世界の男は、基本的に大和撫子のような自己主張が少ない娘を好む傾向にあり、積極的で明くて行動力がある女性は、好みの真反対の存在だからだろう。


 そんなことを思いつつ、俺は自室でパソコンを起動し、SNSを開く。


  SNSをやっているのが周りにばれると面倒なので、「そういうのよくわからない」、「SNSはやっていない」と周りに伝えているが、実は閲覧用にアカウントだけつくって、母校の生徒の投稿を普段からよくみている。


 そこから人づてに辿って探していると、彼女らしきSNSを発見した。



 西野鈴音

【先輩に告白したらデートしてくれるって約束もらった!!!!!勝ち組確定!!!!!】

 *返信*

 嘘乙www

 先輩…正気か!?

 まあデート行っても十中八九フラれるだろうから、先に慰めておくね!


 ~8時間後~

 西野鈴音

【あああああああああ!よく考えたら先輩に連絡先を渡すのを忘れてる!連絡手段ない…人生終わった。】

 *返信*

 ざまあw

 バカすぎワロタ

 私、先輩の家知ってるよ。おめえには教えねぇけどな!


 …うん。本人だろう。

 

 なんか面白いから、来週のぎりぎりまで放っておこう。


 まあ、野球部の誰かは俺の連絡先を知っているだろうし、大丈夫か。


 こんな彼女の投稿をみていると、自然と笑みがうかんでくる。


 自分でも知らなかったが、どうやら底抜けて元気でバカみたいな娘が、俺の本来の好みだったのだろう。


 いろいろな告白をされてきたが、あんな非常識な告白が今までで一番グッときたというのが、自分でもびっくりだ。


 ちょっと意地悪な返答をしてみたときの、あたふたした姿もとても好ましく感じた。


「もしかしたら、これが初恋なのかもしれないな…」


 今まで数人と付き合ったが、こんな気持ちにはなったことはない。


 昔は漠然と、恋人ができれば楽しくて刺激的な事がいっぱいおこると思っていた。だが、実際にいざ付き合い始めるとそんな良いものではなくて、想像より楽しいことは起こらなかった。


 そしていつしか、恋人に気をつかうのが面倒くさくなって別れてしまう。


 だからか、恋愛はつまらないものと結論づけ、高校では一切恋人をつくる気にならなかったし、実際つくらなかった。


 生意気な考えだなと思うかもしれないが、この世界の男は基本的になにもしなくてもモテる。なので、おそらく他の男だろうが、俺の考えと大差ないだろう。


 というのも、この世界の男女比は1:5で男の数が極端に少ない。


 そのため、この世界の男は圧倒的に需要が高く、女性の方から積極的にアプローチしてくるのが当たり前となっている。


 結果として、男は女に養ってもらうケースが、今ではすっかり一般的となった。


 そのせいか、男はどうせ養ってもらえるのだからと考え努力を怠ったり、態度だけ大きくなったりしがちで、ただでさえ少ない男の質が悪い事が多い。


 おかげで、俺のような表面上だけでも取り繕えるような男は、他の男よりモテる。


 まあ、俺はモテたくて外面を良くしていたわけではなく、卒業したら社会に出て働こうと考えていたから、最低限常識的に行動していただけだがな。


 そんなことを考えつつ、俺は自室で机の引き出しを開き奥底に隠してある“前世の記憶”と書かれたノートを開いて、パラパラと読む。


 何故か俺は、夢でだけ自分の前世らしき男の人生を見ることができる。


 前世はこの世界とほぼほぼ同じだ。ただ一つ違ったのは、男女比だ。この世界では男女比が1:5だが、前世では驚くことに、男女比が1:1で、男女の数が釣り合っていた。


 そんな世界で前世の自分が、喜んだり、怒ったり、悲しんだり、楽しんだりしているのを夢で見て、朝起きてその出来事をノートに書くというのを、俺は習慣としている。


 前世があるからといって、特に何か役に立つようなことはなかった。


 結局俺は俺。染谷隼人だ。


 もし前世の価値観に影響されていたなら、周りの女性に優しくしたり、アイドルになったり、たくさんの女と付き合ったりとしたかもしれない。


 ただ、俺は面倒なことが嫌いなので、全くそんなことをやりたいと思わなかった。


 言い方は悪いが、前世の自分なんて、俺にとって他人とそこまで変わらない。


 癖のない顔と声。高くもなく低くもない身長。それが俺である。


 そんな特に個性のない容姿だが、俺は自分の容姿が気に入っている。


 癖がないということは、どんな格好も似合うということだ。


 メガネや眉毛、髪型や服装で変幻自在にいろんな姿になれるのが良い。


 でも、そんな見た目以上に気に入っているのが、自分の”要領の良さ”だ。


 前世の影響か、体のスペックが良いだけなのか、理由は分からないが、何か新しいことを学ぶ時、俺は人より上達が早い。


 まあ、上達するのが早いだけで、ある一定の上手さになると行き詰まるのだがな。


 要するに、どんなことでも70点を取るのがうまいだけで、ずっと同じことを努力し続けている人には基本的には勝てはしないということだ。

 

 そんな程度の要領の良さだが、個人的に70点取れれば十分満足できてしまう性格なので、要領が良くて本当に良かったと思っている。


 逆に自分のだめなところをあげるとすれば、まあ性格だろう。


 お世辞にも俺の性格は良くない。


 基本的にあまり人に対しての思いやりがないし、なにより、人の不幸は最高の娯楽だと思っている。


 そんな性格だからかもしれないが、俺が男にしては珍しく高校までいろんなことに努力してきた理由も、決して純粋なものじゃなかった。


 努力するのは将来への投資という建前こそあったが、それ以上に、自分が人より優れているというのが気持ちよかったのだ。


 心の中ではいつも「へぇ、そんなこともできないんだ。男の俺でもできるのにねぇ」と、優越感に浸る。それが何より楽しかった。


 そうやって人を見下したり、煽ったりすることにちょっとした快感を覚えるタイプの人間なのだ。


 まあ、社会に出て働こうと思っていたから、そんな内面は表には出さなかったがな。


 性格は悪いが、外面は良い分だけまだマシだろう。


 そんなことをつらつら考えながらも、西野鈴音のSNSの昔の投稿を遡っていく。


「ふふっ、そうだ、良いこと思いついた。ちょっと後輩を振り回す事になるだろうけど、彼女の性格なら楽しんでもらえるかな。」


 ふと俺の中で、今まで全く考えていなかった将来の道筋を思いついてしまった。


 将来は受付業務でもして軽く働きつつ、都合のいい女と結婚し、ダラダラと自由に生きる。これが今までの理想の人生設計だった。



──だが、そんな計画は全て白紙に戻そう。


 そうだな、なんの準備もしていないから、いまから計画を立てないとな。


 下準備も必要だな。


 これなら、将来的にお金も稼げるだろう。


 何より一番は、最高に楽しそうだ。


 まあ、少し後輩には覚悟してもらわないといけないだろうけど、彼女はタフそうだしなんとかなるだろう。


 ふふっ、デートの日が楽しみだな。




 西野鈴音

【なんとかして先輩の連絡先ゲットできそう!憧れの先輩とデートできるのめっちゃ楽しみなはずなのに、何故か少し寒気がする…なんでだろう???】


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