第17話 食べ比べ
俺は自分が今まで作った料理をまずいと言われたことがない。
今まで手料理を振る舞ったことがある人は祖母と母と後輩だけで、皆俺が作ったものならなんでも美味しいと言ってくれた。
俺は自分の料理は70点くらいの美味しさだと評価していて自分が食べる分にはそれで満足なのだが、人に食べさせる分には少し物足りないような気がしている。
家庭料理だから皆そこまで味にうるさく言わないのかとも思ったが、後輩は俺の料理を食べた時のリアクションが世界一美味しいものを食べた時のような反応を本心からしている。世の中にはもっと美味しいものがあるのにも関わらずだ。
俺はそれに疑問を覚えた。もしかして後輩って馬鹿舌なのではないかと。
そう思った俺は色々な食材を買ってきて後輩の味覚チェックをすることにした。
「第一回味覚チェックゲームを開催します」
「突然なんですか?味覚チェック?」
「今から後輩には目隠しして俺が出す食べ物を食べてもらいます。その後に問題を出すのでそれに答えて下さい。後輩が正解するたびに明日の学校のお弁当を豪華にします」
「味覚チェックってことは高い牛肉と安い牛肉を食べてどちらが高いのかを当てるクイズみたいなやつですか?」
「その通り。問題はだんだん簡単になっていくから後半は特に間違えないように気をつけてね」
まず最初は水道水と市販の天然水を後輩に目隠しして飲んでもらい、天然水の方を当ててもらう。日本の水道水はおいしいのでこれは俺がやっても当てる自信がない。
「全くわかりません!味に違いが一切無いです!」
うん。俺が飲み比べても一応多少の違いなら分かるが、後輩がそう言う気持ちもとても分かる。
「じゃあ最初に飲んだほうが天然水です!正直味に違いがなかったのでこれはただの運です!」
「おー正解!まあ勘で当てたっぽいけど正解は正解ね」
次に俺は高いプリンと安いプリンを目隠しで後輩に食べてもらい、高い方を当ててもらう。
1つは1個2000円で口当たりがなめらかで味の濃いプリン。もう1つは3つで100円で寒天で固めたことでゼリーっぽい食感が特徴のプリン。
「うん?今回は味の違いは分かります!美味しい方を当てれば良いんですね!」
流石に問題を簡単にしすぎたかもしれない。少し後輩を侮っていたな。
「よし!美味しかった方は2番目に食べたほうなので2番目が高いプリンです!」
自信満々に後輩が答えるが、1番目に出したほうが高いプリンなのでハズレだ。
「ええ!嘘だ!だって2番目に食べたほうが美味しかったですよ!」
後輩は普段食べ慣れているプリンの方が美味しく感じやすいのかもしれないな。
「寒天の食感とかで分からなかった?」
「全然分かリませんでした!きっと目隠しのせいです!」
まあ食事には視覚も大事というが、そんなに分からないものなのだろうか。
「じゃあ次の問題をだすよ。もうそろそろ外して欲しくないレベルの難易度だから頑張って」
次はオレンジジュースが100%果汁かそうではないかを当ててもらう。用意したのは3種類で20%80%100%の3つだ。
まずは80%のオレンジジュースを出す。
「香りは…うーん分かんない!味は…うん。ほぼ果汁100%くらいの酸味を感じる…よし!これは果汁100%ジュースです!」
うーん、おしい。酸味は感じられたようなので、次に出す100%果汁のオレンジジュースは当てられるだろう。
「うーん。これはなんか少し薄い気がします…だからこれは100%じゃない!」
うん。はずれだ。やっぱり何も分かっていないのか?
次は20%のオレンジジュースを出す。今までとはかなり違う味がするのでこれは正解して欲しい。
「うん?うーん。うーん。うーーん…分かりません!なんか味覚が麻痺してきました!でもなんとなく酸味が強い気がするので多分ですけどこれは100%のオレンジジュースです!」
これもはずれ、全問不正解だ。
「これは私が普段オレンジジュースを飲まないから分からなかっただけです!決して馬鹿舌じゃないですよ!」
後輩はそう言い訳するが、俺の中でかなり馬鹿舌疑惑が強くなってきた。
次は安く売っていた桃缶とスーパーで売っていた1番高い桃を食べ比べてスーパーの方を当ててもらう。
「缶詰の方はシロップの甘みがあるからそれでも分かると思うよ」
俺は最初にスーパーの桃を出し、2番目に缶詰の桃を出した。
「最初に食べた方が美味しくて2番目に食べたほうが缶詰っぽかった気がするけど…うーん…悩みますね……よし、決めました!私はさっきと同じ間違いはしません!美味しく感じた方が缶詰だと思うから逆に2番目に食べたほうがスーパーの桃です」
うーん。今回はいい推理をしていたのだが、最後に逆を答えてしまったのでハズレだ。
「ああ!自分の感覚を信じれば良かったです!」
後輩は頭を抱えて悔しがっている。
「ここからは外しちゃだめなレベルの問題だから外さないようにね」
次にキャベツとレタスを生で出し、キャベツを当てさせる。
「これは流石にわかりますよ!うん?食べてみると意外と味が似てますね。うーんでも流石にこっちがキャベツだと思います!」
おお!正解だ!流石にこれは分かって良かった。後輩も正解して安堵しているようだ。
「最後にもっと簡単だと思う問題も一応用意したけど、まあさっきのが分かれば余裕だと思うよ。鶏肉と豚肉と牛肉と魚のブリを全部照り焼きのタレで焼いたのを用意してあるけど違いは流石に分かるよね」
「余裕ですよ!これで間違えるような事があったら今度自腹で凄い高い肉を先輩に買ってきてあげますよ!」
正直間違えることは無いと思うが一応後輩に出してみる。
まずはブリの照り焼きから出し、今何を食べているかを当ててもらう。
「やっぱり余裕ですね!これは牛肉です!」
えっ。…えーと、ちょっとしたお遊びのつもりで魚を紛れ込ませたのにこれを外すことなんてあるのか。まさかこの問題を間違えるとは思っていなかった。牛肉と魚だよ?
後輩は不正解だと聞いて俺がなにか不正をしたのじゃないかと疑いを捨てきれないようだが、実際に目隠しを外してもう1度食べてみるとしっかりブリだったことを確認し動揺を隠せないでいる。
これは余談だがこの様子を動画に出してからしばらくの間、後輩のことを魚と肉の違いも分からない女としてネタにされ続けることになる。
俺は後輩が馬鹿舌だと結論を出すと後輩は自分が馬鹿舌と認めたくないのかある提案をしてくる。
「先輩!私が馬鹿舌じゃないことを証明します!先輩の手料理かそうじゃないかなら100%外しません!」
かなり自信ありげにそう言うので俺は近くのスーパーで卵焼きを買ってきて、間違えさせようとスーパーの味に似せて卵焼きを作る。
「ああ。匂いだけで分かりますよ。今先輩が私に出そうとしてきたのが先輩の手作りでしょ」
なんと当たっている。偶然かと思いもう一度同じ問題を出してみても自信満々に正解を即答される。
「私の女としての細胞1つ1つが先輩の手料理を求めているからすぐに分かりますよ!なんならこの問題を外す女はほとんどいないと思います。多分クイーンですら分かりますよ」
そんなわけないと、試しに後輩が作ったささみと俺が作ったささみをクイーンに2つあげてみると、明らかにクイーンは俺が作った方を選んでガツガツと食べ出した。
俺はこのことに驚愕する。俺からすれば何も違いなんて感じないのに後輩からすれば違いは一目瞭然らしい。
俺は女性の本能の想像以上の強さに怖さを感じたのだった。
「だからいつも言ってるじゃないですか。先輩の作るものは世界一おいしいって」
西野鈴音
【先輩が作った料理なら私は毒でも余裕で消化出来ます!】