第14話 声を出したら負けゲーム
我が家にクイーンが来てから家のフローリング部分に滑り止めとしてカーペットを引いたり、ケージを作って専用の部屋を作ったり、そこから離れた場所にトイレ場所を作ったりしたので我が家の雰囲気が少し変わった。
「クイーン!このひもで引っ張り合い勝負しよう!人間様の強さを見せつけてあげる!」
このように後輩とクイーンの関係もなんだかんだ良好で一緒に遊んだり競争したりしながら関係を深めていき、今では悪友のような関係になっている。クイーンも後輩もお互いに私が遊んであげていると思っていそうなのが面白い。
クイーンは寂しいのが嫌いなようで起きている時は1日中俺のそばにいて撫でられたりブラッシングされるのが好きだ。
そのせいで編集作業などがなかなか進まない時もあるが、ある程度かまってあげると満足して俺のそばで大人しく丸まってくれるので、その時に急いで作業を終わらせるように習慣がついて以前よりメリハリのある仕事をできるようになった。
そんなクイーンのおかげで普段投稿している日常動画に少しのスパイスと動画映えが加わり、最近は動画の伸びが以前より良い。
視聴者からも大人気で普段の行動や態度が大型犬なのにツンデレっぽいと話題になり、いじられつつも可愛がられている。
確かに俺に撫でられている時の姿は顔はツンとしているのにしっぽは振っているのでツンデレっぽいのかもしれない。
そうやってクイーンはあっという間に我が家に馴染みつつ人気も獲得していった。
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クイーンが我が家に来てしばらくたったある日、夕食を食べ終えてまったりテレビを見ていると俺と後輩でどうしても見たい番組の時間が重なってしまい、どちらかしかリアルタイムで見られない状況になった。
「先輩!私このバラエティがどうしてもみたいです!」
「俺も今どうしても見たいドラマがあるから譲れないな」
「「じゃあいつものように勝負しますか」」
俺たちはこういうことがあった時はいつも勝負をしてどっちのやりたいことを通すかを決めることにしている。
こういう勝っても負けてもリスクもリターンも少ない軽い勝負の時は、動画になっていることを考慮してお互いエンタメ性を忘れないように気をつけて勝負する。
今までこういう時はたたいて・かぶって・ジャンケンポンやストップウォッチで10秒をより正確に止められるか対決などの色々な勝負を繰り広げてきたが、どの勝負にもドラマがありいつも名勝負だった。
後輩が勝負内容を1つ提案してきたのでそれに決める。今回は声を出したら負けゲーム。ルールは簡単。先に声を出した方の負けである。
時計の秒針が次に0になった瞬間からスタートだ。
カチ、カチ、カチ。時計の音だけが部屋に響く。まだ始まってもいないのに静寂な時間が流れる。
クイーンも我が家に来てからどんどんノリが良くなっているので、空気を読んでシリアスな顔つきで勝負を見守っている。
58、59,0!スタートだ。
始まったと同時に後輩は強烈な変顔をしてきた。
かなり強いジャブに少し笑いそうになったが俺は気合いで我慢して余裕の表情を後輩に見せ、あくびが出るぜとジェスチャーして煽る。
ムッとした後輩は次にロボットダンスを披露する。謎の完成度の高さと凄い切れ味に俺は笑いそうになったが口を手でおさえてやり過ごす。
後輩はある程度攻撃が効いたのを確認して、今度はそちらから来て下さいと手のひらを上に向けて指先でちょいちょいと手招きする。
じゃあ少し驚かせてみようと近くにあったライターを持ち、火をつけて俺は火の中を横切るように指をスッと横に素早く動かす。
仕組みは分からないがライターの火は一瞬触れるだけなら全く熱く感じないのだ。
それを知らない後輩は驚きつつもどうやら心配が勝ったようで、俺の指が火傷していないか手にとって確認して無事と分かると安心していた。
どうやらクイーンも心配したようで俺の周りでウロウロしている。
うん。この攻め方は少し失敗したな。正直全く熱くは無いが後輩のように見る人によっては身を削るような攻め方をしたように見えてしまうことを考えていなかった。
違うアプローチでびっくりさせようと俺はデコピンの素振りをしながら後輩に近づいていく。
後輩を捕まえておでこの方に手を近づけると後輩はビクッとして構えたので、力いっぱいデコピンをすると見せかけてポンと軽く後輩のおでこをつつく。そして軽い衝撃に後輩が油断したところで俺は後輩のおでこにキスをする。
「っ!!!」
後輩は膝から崩れ落ちて声も出ないくらいに驚いて、その後に無言でニヤニヤしだした。
そんな後輩を見てクイーンは私にも同じことしてもいいよというような態度で俺を見上げてきたので、クイーンにもおでこにキスをする。
クイーンはキスが愛情表現だとわかっているようなので、キスをされると凄く喜ぶ。
今回の攻めは良いところまではいった気がするので、もっと攻めるべく次の仕掛けをするため俺はキッチンの方に行き塩を入れた水をコップに入れて持ってくる。
それを後輩の前に置いて、俺は優しい笑顔で飲んで欲しいとジェスチャーすると、後輩は警戒しているようですぐには飲もうとしない。
でも俺はこういうときに後輩は罠だと知りつつもなんだかんだ好奇心を抑えきれずに飲んでしまうだろうということを知っている。
「~~~!!!」
匂いや色を見て問題無さそうと判断した後輩は一気に水を飲むと、予想外の塩辛さにびっくりしてすぐにコップに吐き出してから舌を口から出してしょっぱさを軽減しようとしている。
だが結局今回も声は出さなかったので次の案を考えていると、後輩もキッチンで何かをしだした。
今度は後輩がチューブわさびを取り出してきて小皿に多めに盛る。
何をするのかと見ていると後輩はわさびを大量にスプーンで掬って俺に食べさせようとしてきたので俺は抵抗すべく口を力いっぱい閉じると、後輩は何故かスプーンを自分のところに引き戻して自分の口に入れた。
「…っ!くくっ…!」
辛くて涙目になりながら声を出さずにジタバタと暴れる後輩を見て俺はお腹がヒクヒクするくらい笑いそうになるが、死ぬ気で我慢する。
まさか食べさせようとするのがフェイクで自滅からのリアクションで笑わせに来るとは思わなかった。
後輩は今のアウトじゃないの?と目で訴えてくるがギリギリセーフと主張する。
なんとか有耶無耶にしたがそろそろ攻めないとやばいと思い必死で頭を回していると、後輩は最終手段として俺に急接近してきてこしょこしょとくすぐってきた。
俺もやばいと思いくすぐり返し、お互いの耐久勝負となっていく。
俺が後輩の背中を指1本で縦にゆっくり動かしたり、後輩は俺の脇をこしょこしょとくすぐったりしていると俺がこそばゆくて膝をついてしまったので後輩は俺を寝転して馬乗りの状態になった。
後輩は自分の有利な状態になったことで、楽しそうな笑みを浮かべて俺に乗ったまま手をワキワキさせている。
そんな俺のピンチにクイーンが混ざってきた。どうやら2人でくすぐり合っているのが楽しそうに見えて混ざりたくなったのだろう。
クイーンは楽しそうに俺と後輩の間にねじ込むように穴をほって進んでいく。
クイーンの揺れるしっぽが後輩の顔に何度もあたり、後輩はくすぐったそうだ。
「くしゅん!あ!」
「よし!はい。俺の勝ちね」
かなり劣勢だったがクイーンのお陰でなんとか勝てた。
勝負に負けた後輩は俺から離れて悔しそうにテレビのリモコンを渡してくる。
「でも先輩!途中でちょっと笑ったでしょ!ずるいですよ!」
「いいや。あれはギリギリ声を抑えたからセーフ」
俺はテレビをつけてドラマを確認すると、結構な時間が立ってしまったので俺が見たかった大事なシーンが終わっていた。
悲しむ俺をクイーンは顔をなめて励ましてくれる。
結局後輩が見たかったバラエティは途中から見ても面白かったので、そっちを2人で見たのだった。
西野鈴音
【負けちゃったけど見たかった番組も見れておでこにキスもされたから実質勝ち!】