第13話 保護犬カフェ
数日前にいつもは通らない道を気まぐれに通ってスーパーに買い物に行ったとき、近所に保護犬カフェという店を見つけたので試しに後輩を誘って行ってみることにした。
ネットでその店の情報を調べるとどうやら個人で開業し始めたカフェのようで、犬と一緒に遊んだり触れ合ったりしながらお茶を楽しめるらしく、現在6匹の犬が在籍して里親も募集していた。
保護犬の引き取り義務が発生することはないので気軽な気持ちで店に遊びに来て欲しいと説明書きがあったので気軽な気持ちで店に入り撮影許可をとる。
店内では5匹の小型犬が元気に店内を歩き回っており非常ににぎやかだ。
「おお!みんな小さくて可愛いですね!」
後輩は来てそうそうに子犬の可愛さにやられたようで、とろけた表情で色々な犬に赤ちゃん言葉で話しかけている。
このカフェの女性店員さんが案内もせずに俺の顔をずっと優しい顔でながめてくるので、どうやら俺も犬を見て自然と顔が緩んでいるようだ。
しばらくすると店員は正気に戻ったようで席に案内してくれた。
俺たちは犬と触れ合えるように低めのソファーに座り、ワンドリンクの注文をする。
犬は新しくやってきた俺たちに興味津々な様子でふんふんと匂いを嗅いできたり、撫でてもらおうと膝の上にやってくるような積極的な子がいたり、我関せずと自由に店内を歩き回ったりと様々だ。
そしてさっきから何故か1匹のチワワが後輩に向かって吠え続けている。どうしたんだろうか。
「私何故かこういうことがよくあるんですよね。私と相性が悪い犬がたまにいるんですよ」
「元気で可愛いけどずっと吠えられるのはちょっと圧があるな」
店員さんはすみませんといいながらチワワを店の奥に連れて行った。
いつもはこんなことをする子じゃないらしいので、店員さんは不思議そうな顔をしている。
気を取り直して俺は少し疑問に思ったことを店員さんに聞く。
「そういえば全部で6匹いるってネットで見たんですけど、1匹は引き取られました?」
「ああ、奥にいますよ。呼べば来てくれると思います。クリームちゃんおいで!」
名前を呼ばれて、のそのそと1匹の大きなゴールデンレトリバーやってきた。
「あの子はクリームちゃんといって3歳の女の子で、少し気難しいので自主的に甘えてきたりはしないんですけどとても賢くて頼りがいがある子なんですよ。あら?」
サラサラでクリーム色に光る毛並み、くりっとした目に端正な顔立ち、筋肉質でスラッとした大きい体。
そんなクリームちゃんが俺に目が合うと俺の方へとことこと歩いてきて、まあ撫でさしてやってもいいけど?というような顔で俺の真横で座って丸くなった。
俺はゆっくり背中を撫でてあげるとそっぽを向きながらもしっぽをふりふりする。
うん。決めた。心にビビッときたんだから仕方ないな。
「この子引き取ります!」
俺がそう言うとクリームちゃんは嬉しそうにしっぽをブンブンと振っている。
「ええ!先輩!まだ来たばかりですよ!そんな生き物をコンビニ感覚で飼うものじゃないですよ!」
店員さんも少し困った顔で説明してくる。
「大型犬の引き取りは大変ですよ。ご飯もいっぱい食べますし必要な運動量が凄く多いのでたくさん散歩をしないといけません。飼うのにはかなり覚悟がいります」
そもそも犬を引き取ろうと思って来たわけではないのでとりあえず一旦は引くが、俺はこういうピンときた時の出会いは大事にしたいと思っているので、正直もう何を言われようと飼うつもりでいる。
店員さんと話したり、後輩と話したりしていて少し撫でる手がとまると、鼻で俺の手をつんと突いてもっと撫でろと催促してくる。
「それにしてもクリームが甘えるなんて本当に珍しいですね。お客さんどころか私にも甘えてはくれないんですよ。賢いので言うことは聞いてくれるのであまり困っては無いんですけどね。」
今の俺に甘えるような姿は店員さんも見たことがないらしい。
クリームは俺を独占しようと思っているのか他の犬が俺に近づいてきたら体を入れて邪魔をするし、試しに俺が少し移動してもしれっとずっと横をついてくる。
「先輩!この子凄くおとなしいですね!」
後輩がクリームを撫でようとすると、おとなしかったクリームが俊敏な動きで俺のそばは離れずにひょいとうまく避ける。
後輩は一瞬唖然としたが、なんとしてでも撫でてやろうと意気込んで捕まえようとするが、クリームも俺の周りをくるくると上手く回って逃げている。そして店内で暴れないでと後輩は軽く注意されたので諦めて他の子を撫でに行った。
どうやらクリームは俺にしか撫でられたくないようで、俺にも他の犬を撫でてほしくはないようだ。
「もしかしてこの子男が好きなだけかしら…」
店員さんがそう言うとクリームは心外だなというような顔をしながらも俺に撫でられて満足そうだ。
うん。この子凄く賢いな。人の言葉のニュアンスをある程度理解しているし感情も豊かだ。
俺がクリームと遊んでいる間、後輩は犬のおやつを購入し子犬たちに見せびらかす。
「ふふふ、さあ犬たちよ!おやつの魅力には逆らえまい」
後輩はおやつに向かってどんどんよってくる犬に溺れて幸せそうだ。
そんな後輩を横目で見ながら、俺はクリームと正面から向かい合って顔や耳あたりを撫でてやると、嬉しくなってきたのか遠慮しがちにクリームは俺の口を少し舐めてきた。
「あー!ちょっと!私ともキスしてください!」
おやつをあげ終えた後輩はクリームが俺の口を舐めたことに嫉妬心をあらわにするが、クリームは意に介さず後輩を見て鼻でため息をする。
「この犬今私を見てため息を吐きましたよ!ぐぬぬ…」
「まあまあ、犬のすることだから」
俺はそう言うがおそらくこの子はかなり賢いので分かっててやっているのだろう。
クリームに対抗心を燃やした後輩は俺に撫でられようと頭を俺の肩あたりにぐりぐりして甘えてくた。
そんな後輩を撫でようとするとクリームが割り込んできて私だけを撫でろとアピールしてくる。
「先輩!この子は危険です!私のライバルになりそうです!」
後輩は撫でるのを止められて少しご立腹だ。
「まあまあ落ち着いて。俺はどっちも大好きだから」
俺は片方の手で後輩をなでて、もう片方の手でクリームを撫でると後輩は満足そうな様子で、クリームはまあ仕方ないかというような表情で撫でられている。
2人を仲良くさせようとクリームにもうちょっとだけ仲良くしてとお願いすると、渋々だが後輩が撫でようとしても避けなくなった。
「悔しいですけどこの子の撫で心地は最高ですね!」
クリームは当然でしょというような表情で大人しく撫でられている。
あたりも少し暗くなって来たので、再度俺はどうしてもクリームを飼いたいと里親を希望し、店員さんも了承したので別室で色々な審査を受けてから飼う上での諸注意やコツなどを聞き、今まで保護していてかかったお金を寄付という形で払う。
「新しく名前をつけてあげて下さい。犬は新しい名前でもすぐに覚えますからね」
高貴な佇まいをしているので俺はクイーンと名付けるとクイーンは嬉しそうにはしゃいでいる。
そうしてクイーンを引き取った俺は後輩をつれて2人と1匹で家へ帰る。
後輩はクイーンをライバルだとまだ思っているようで、見せつけるように俺と腕を組んで密着するとクイーンは邪魔しようと間に割り込んでくる。
元気な子が1匹増えたので、これからもっと家が賑やかになって楽しくなりそうだ。
西野鈴音
【今日唐突に犬を飼うことになった!でもクイーンには私の後輩犬として過ごしてもらうからね!先輩の1番の犬は私だから!】