第12話 初収益で焼肉
今日は後輩の期末テストも無事に終わり、数日前に動画投稿による収益が初めて振り込まれたのでその2つを祝うために個室の焼肉店に来ていた。
「テスト終わりと初収益に乾杯!」
お互いに年齢的にお酒は飲めないが、後輩は乾杯をしたいということで、ソフトドリンクで乾杯する。
最初から後輩はカルビやロースなどの肉肉しく味の濃いものを頼んで網いっぱいに焼いていく。
焼肉ではまずはタンなどの味の薄いものやスープなどのサイドメニューから頼むのが美味しく食べられるとされているが、1番大事なことは自由に楽しく食べることだと思っているのでそういう指摘をするのは野暮だろう。
そもそも後輩は食事の時にまず好物を楽しんでから最後に苦手なもので苦しむタイプで、苦手なピーマンやミニトマトだけを最後に嫌そうにしながらも頑張って食べているところをよく見る。
「いやーこんなに収益が出るとは思いませんでした!ずっとこのままいけば小金持ちですよ!」
後輩は頼んだ肉を焼きながらテンションが上りまくっている。
焼肉屋に来たこと、初給料でそこそこ貰えたこと、テストから開放されたことの三拍子で喜びも大きいのだろう。
でも後輩。個室だからってエア神輿を担ぎながらわっしょい!わっしょい!と言うのは恥ずかしいから辞めてほしいな。
俺は少し後輩を落ち着かせ、そろそろ焼いていたカルビとロースがいい色になってきたのでタレにつけて食べ始める。
「旨い!先輩美味しすぎます!」
「うん、焼肉はやっぱりいいね」
肉の濃い味と油がタレと相まってめちゃくちゃ美味い。ご飯が無限に食えそうだ。
後輩はまだまだ食べたりないとどんどん肉を頼むので、俺はサイドメニューのキムチ2種類を一緒に頼んでもらう。
焼肉屋の空気のおかげかいつもよりどんどん話が弾み、今まで投稿した動画の話で盛り上がっていった。
「私達の動画で再生数が多いと嬉しいものですね!」
「うん、嬉しいよね。今のところすこぶる順調だな」
「よく再生されるのは服を買った時の試着室の動画とか1日だけ先輩が弟になった動画は女子ウケが良くて伸びてますね!まあ私ですら何回も見直してますしそりゃ伸びますよ!」
個人的には俺をアイドルのように見るのではなく、後輩とセットで応援して欲しいがまあ多少は仕方ないだろう。
「逆に勉強を教えているだけの動画とか、1日かけて猛勉強させた動画とかは他と比べると控えめになっちゃうよね」
「私の学年では大人気なんですけどね。まあああいうのはじわじわ伸びていくタイプでしょう」
「うん、勉強系の動画も後輩の受験が終わるまでは続けていこう」
「でもこれだけ稼げるんなら他の投稿者がよくやっているような動画っぽい動画も撮りたいです!ほら、この前投稿した“男の痛い告白ランキング”って動画の伸び良いじゃないですか」
後輩は再生数が稼げる動画でいっぱい儲けたいようで欲深く笑う。
「うーん、まあ分かるけど一応このチャンネル名は“先輩と後輩カップルの日常”って名前だから日常系以外の動画をあげまくるのはちょっとなあ。企画系の動画はたまにあげるくらいでいいかな」
後輩は少し残念そうだが、受験が終わるまでは納得してくれるだろう。
「あとよくコメントで先輩は天使なのか悪魔なのか論争で揉めてますよね」
それは俺も見たことがあり、存在が天使と主張したり、意地悪な笑顔が悪魔と主張したり、堕天使派閥やもはや神なのではという派閥などが合わさりとても混沌としていた。
そんなどうでもいいい事で白熱するコメント欄は見てて面白いので結構好きだ。
あと何故か後輩はうさぎやら子犬やらハムスターやらと満場一致で小動物に例えられている。
「もちろん後輩は俺のことを天使だと思ってるよね?」
「ハイ、センパイハテンシデス!」
後輩は棒読みで言う。
別に正直どっちでもいいのだが、こういうときに後輩はノリがいいので意地悪したくなってしまう。
そんな話をしながら2人でどんどん注文し、来たものをガツガツ食べていく。
俺は少し口の中が油っこくなってきたので、ウーロン茶でリセットしつつ味に変化が欲しくなってきたので肉をわさびで食べてみたり、サンチュを頼んで肉をくるんだりして食べ続ける。
「先輩知ってますか?私達の影響で女性のおしとやかブームが終わりかけてるらしいですよ!」
後輩が自慢げに言う。
おおう。俺たちの動画にそこまでの影響力があったとは…
確かに最近街を歩いている女子のファッションの系統が少し変わってきているなとは思っていた。
「それは男にとっては嬉しくない変化だろうね」
「まあそうでしょうけど一部男の人も変わってきてますよ。先輩に憧れて色々頑張っている男の子が1人1年にいるらしいです!」
「ホントに?」
意外な事が分かり俺は少し驚く。
正直この活動は男からヘイトを買うと思っていたので、そういう人が1人でもいるのは嬉しいな。
「そういえばこれは最近のことなんですけど、古くから活動している有名な動画投稿者さんが1人カップルチャンネルという動画をだしてましたよ!」
何だそれと思いスマホを出して見てみると、カップルで動画投稿しているのが羨ましすぎた投稿者さんが、相手はいないけどカップルっぽいことをする動画だった。
古くから活動しているだけあってとても面白いし、動画の構成や編集の仕方も参考になる。
そんな話をしつつも食べ続けていたので、いつの間にか2人でかなりの量のお肉を食べていたようで満腹感が凄い。
後輩も肉は満足したようだが、デザートは別腹らしく抹茶アイスと柚子シャーベットを注文し、2つともぺろりと食べ終えた。
そろそろお会計ということで、今日の総括を後輩に任せる。
「じゃあ最後に後輩が締めて」
「分かりました!これからも2人で頑張っていきましょう!」
そしてお会計に行き、俺は表示された値段を見て今度は絶対食べ放題の店にしようと決めた。
西野鈴音
【もう私は立派なインフルエンサーらしい。インフルエンサー?流行病のやつ?】