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第10話 1日限定の弟

 負けた…

 俺は朝からとても大きい敗北感を感じていた。


「やったー!!先輩!私の勝ちです!」


 後輩は飛び跳ねながら喜んでいる。


 何があったのかというと、後輩と1日1回“不条理2択クイズ”という勝負をやっていて、ルールはまず最初に先行後攻を選び、次に家の前を通る人が男か女かを当てるという単純なゲームで、勝ったほうが1つ相手にお願いをきいてもらえる。


 だが、男女比が1:5とそもそも数が違い勝率が平等じゃないので、お願いの軽さ重さが変わってきて先行を選んだ方が軽いお願い、後攻を選んだほうが重いお願いが出来るルールで、お互いのお願いを聞きどちらも了承したら勝負成立となる。


「ふふっ、私のモットーは人生一発逆転!大穴狙いこそ至高!」


 後輩の喜ぶ姿を見て俺は悔しさを噛みしめる。


 この勝負をする時、後輩は常に後攻を選び、俺は常に先行を選んでいたので、今まで俺は勝ちをどんどん重ねていたので、部屋に掃除機をかけてもらったり、ゴミ捨てに行ってもらったりと数々の少し面倒くさい家事をやってもらっていたが、たった1度の敗北がこんなに屈辱的だとは思いもよらなかった。


 …何故今日に限って男が通るんだ!


 このゲームは単純な男女比の確率だけではなく、世の中の男はそもそも朝早くに起きなかったり、家に引きこもりがちだったりする人が多いと俺は睨んでいたので、そこも考慮して俺はいつも女と答えていた。


 その結果俺は今まで負けることはなく、後輩もなんとか勝とうとして先行を選んだ俺に言葉で男を選ばせようとする戦術を仕掛けていたくらいなので、まさか普通に男が通るとは思わなかった。


「じゃあ先輩!学校言ってきますね!私昔から弟が欲しかったので今日帰るのが凄く楽しみです!」


 後輩はルンルンと楽しそうに登校していく。


 後輩は自分なりの勝利のジンクスなのか毎回違うお願いをしており、今日お願いが“1日私を実のお姉ちゃんと思って弟として過ごしてほしい”というものだ。


 今回も負けるはずはないと思っていた俺はそれを了承してしまったが、負けた今日に限って少しハードなお願いになってしまった。


 よし、徹底的にやってやろう。


 そう決めた俺はまずは弟の設定から考えていく。


 後輩の口ぶりから自分よりも年下の弟を可愛がりたい、懐かれたい、お姉ちゃんぶりたいとなんとなく想像できたので、お姉ちゃんが大好きでいつでもかまってほしいキャラでイメージをふくらませてみる。


 そういうキャラにはギャップでヤンデレな性格だったり、腹黒い性格だったりすることが多いが、後輩は年下にはそういう黒い要素を求めて無さそうなのでそういうのは無しとする。


 それでも多少のギャップは欲しいので強がって本人的には好意を隠しているつもりだけど、はたから見たら好意がダダ漏れなキャラが良さそうと結論づけた。


 大体の性格が決まったので見た目もイメージに合うように変えていく。


 以前買い物デートで後輩が俺に買った大きめのパーカに下はシンプルなズボンにして少しあざとく見えるように着こなし、髪型や眉を格好に似合うように整えていく。


 その後、弟系キャラがでてくるアニメや漫画を見まくり表情や仕草を時間をかけて研究する。


 よし、これでばっちり演じることができるだろう。


「後輩を悶えさせてやるか」


 研究したことを実際に練習していると、もうそろそろ後輩が帰ってくる時間となっていたので改めて気合いを入れ直す。


「ただいま!先輩!帰ってきましたよ!」


「おかえりなさいお姉ちゃん!というか先輩ってなんだよ。いつもは隼人って呼んでるじゃん」


「あ、なるほどなるほど。そういう感じですね。分かりました!隼人ただいま!」


 後輩はすでにお姉ちゃん気分のようで優しい目を俺に向けてくる。


「お姉ちゃん俺もうお腹空いてるから早く一緒に晩ごはん食べたい。さっさと荷物置いて着替えてきてよ」


 俺は少し突き放すような言葉を言いながらも、態度や表情はお姉ちゃんへの思いやりがあるように見せる。


「お腹空いてるのにわざわざ待っててくれて隼人は優しいねぇ」


「うるせー!今ちょうどお腹すいたんだよ!」


 後輩に俺の演技がしっかり伝わったようなので、俺はこのまま演技を続行して図星をつかれたような表情と声色を出す。


 後輩はしょうがないなあというような表情をして部屋に行ってすぐに着替えてきた。


「おお!私が好きなものばっかりじゃん!隼人が作ってくれたんだよね!ありがとう!」


 俺が晩ごはんを用意しながら待っているとそう言われたので、少しだけ悪態をつきながら嬉しそうな顔をして後輩のご飯を盛り付けていく。


「どう?おいしい?」


 不安そうな表情と上目遣いでそんなことを聞いてくる俺のことを後輩は可愛く思ったようで、心臓を手でおさえながら一息ついて答える。


「うん、おいしいよ!さすがは隼人だね!」


「ふん!当然だろ!」


 俺は言葉では強がりながらも表情は凄く嬉しくてニヤニヤしてしまうというような表情を後輩に見せる。


 どんどん後輩の目が優しいものを見る目になってきているので、後輩はすっかりお姉ちゃん気分だろう。


 他にも苦手なものを食べてもらおうと甘えたり、そっけない態度をとりつつチラチラ後輩を見たりしながら夕食を食べ終える。


 今までの行動で後輩は俺を構い倒したくなったのか食べ終わると頭をなでてきたり、ちょっかいをかけてきたりするので、俺は小さい声で嫌がりながらも満更でもないような顔でされるがまま過ごす。


「お姉ちゃん、勉強で分からない事があるから教えてほしい」


「もう!しょうがないなあ隼人は!」


 後輩は俺を構い倒すのが楽しいのかいつまで立っても動こうとしないので、俺はそんな提案をしつつ勉強道具を持って後輩の部屋へと行く。


 後輩はもう俺が何をしても許しそうな雰囲気だ。


「ここ教えて欲しいんだけど…」


「なになに…ちょっと待ってね…ここはこの公式を使って…」


 俺は事前に用意をしていた少し考えれば分かる程度の問題を後輩に聞くと後輩は丁寧に教えてくれる。


「もう分からない所はない?」


「うん。もう大丈夫」


 後輩はもっと甘えてほしそうだ。


 俺はありがとうとお礼を言い、用がなくなって部屋を出ようとするが、扉のギリギリのところで足を止める。


「せっかくだから今日はお姉ちゃんの部屋で勉強しようかなあ」


 俺はわざとらしくそう言い、もっとお姉ちゃんと一緒に勉強したいというニュアンスを暗に後輩に伝える。


「もう分からないところも無いんだし、私も勉強するから自分の部屋で勉強したら?あ!もしかしてお姉ちゃんともっと勉強したいの?」


「俺の部屋だと集中できないから勉強のためにここでするだけだからな!」


「うふふ、そうなんだ。じゃあ仕方ないね」


 俺は少し恥ずかしがりながらも、隣り合って一緒に勉強する。


 それからは普通に数時間勉強しただけだが、後輩はずっと妙に嬉しそうにしていた。


「そろそろお風呂入ってくるね」


 俺は名残惜しそうな表情をしながらも止める理由もないので行ってらっしゃいと渋々送り出す。


「昔みたいに一緒に入る?」


「バカ!変態!もう大人だから子ども扱いしないで!」


 後輩のイメージでは弟と小さい頃は一緒にお風呂に入っていたらしい。


 後輩が風呂に行ったので、アラームを24時にセットしてもうすぐ弟を演じる時間は終わるなあなどと考えながらのんびりくつろぐ。


 俺も風呂に入る時間を考えるともうあと5分くらいしか無いだろう。


 しばらくすると後輩が風呂から出てきたので、俺も風呂に入り髪を雑に乾かして薄着でしれっと後輩の部屋に戻る。


「ちょっと!男の子がそんな薄着でうろつかない!あと髪も全然乾いてないよ!」


 後輩はタオルで持ってくる。


「男の子がこんな無防備なかっこをしたら襲ってくれって言ってるようなものだからね!」


 そう言いながら髪を拭いてもらっていると、後輩は俺の薄着姿を見て段々といやらしい目になってきた。


「ちょ、ちょっと。お姉ちゃんの顔なんかこわいよ!」


「じゅるり…大丈夫なにも怖くないよ…全部お姉ちゃんに任せればいいからね…」


 流石に後輩が暴走しているようなので止めようかと思った矢先、ピピピピ、ピピピピと24時のアラームが成り響く。


 後輩は正気を取り戻したようだ。


「あー嘘嘘!今までの全部嘘!冗談でございまんがな!」


 慌てながら唐突に変な関西弁でごまかし始める後輩を見て、俺は演技をやめて意地悪な表情を浮かべて警告する。

 

「じゃ、お姉ちゃん?やり返される準備は出来てる?」


 一目散に逃げだした後輩を俺は追いかけていくのだった。


 


 西野鈴音

【弟の過剰摂取は大変危険です。用法用量を守りましょう!】


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