プロローグ
高校の卒業式の日、顔は知っている程度の後輩から呼ばれ、彼女は一大決心をしたような顔つきでこう宣言した。
「先輩!好きです!時給500円でデートしてください!」
変な告白をする娘だなと思い、俺は面白がって少し意地悪をしてみた。
「それって交通費と食事代は経費で出る?」
すると彼女は少しパニックになったのか、目を回しながら
「あっ…ええと…自己負担でお願いします!」
絞り出すように、そう答えた。
あっ、そこは自己負担なんだ。
そう思うも、彼女とのやり取りが楽しくなってきた俺は、デートくらいならいいかなと思い、その話を受けることにした。
「わかった。じゃあ来週の日曜日とかどうかな?」
「よよよ、よろしくお願いします!!!」
そう言うやいなや、彼女は飛び出していってしまった。
あれ?連絡先とかお互いに知らないけど大丈夫なのかな?と思いつつ、彼女の後を追ってみると…
そこには辺りの友達に得意げに自慢するも、うっとうしがられていた後輩の姿が。
馬鹿だなぁと思いながら、どうやって連絡してくるのかを楽しみに、俺は迎えに来ていた母の車に乗り込む。
道中どうやら自分は、にやけていたらしい。
運転席の母が言う。
「なにか楽しいことでもあったの?」
「いや。なんでもないよ。」
そう言いつつ、散っていく桜の花びらを眺めながらこれからのことを想う。
──こんなにもワクワクするのは、とても久しぶりだ。
いつもと同じように吹く風が、今日はやたらと心地よかった。