そのころ実家では
「すまないミカエラ、家を壊してしまって……」
「すごい! 今のどうやったの! 私にも教えて!」
「え? いや、今のは霊の記憶をもらって再現しただけだから、人には教えられない。それより、家、大丈夫か?」
「大丈夫。イエラ様が亡くなってから作った仮住まいだから。もうすぐ出て行くつもりだったし」
屈託のない笑顔で告げられ、俺は若干驚いた。なんという人の良さだ。
「そうか。すまない」
「じゃあ、一緒に旅に出よっか。私はイエラ様の遺した教えを体現するため、修行に出たい。それと、イエラ様の汚名を雪ぐためにもね」
知っていたのか。イエラが大罪人扱いされていることを。
「俺も、月の眼を閉じて、人々を守りたい。でも冒険者登録はできないから、協力して生活していこう!」
「うん、よろしく!」
こうして、五大勇者の因縁を断ち切るべく、二人旅が始まった。
◇
一方、王都では。
「ん? 何だこれ?」
一人の男が頭頂部に手をやる。すると、ザラザラとした砂が大量についていた。
「火山灰でも降っているのか?」
「なんか砂が……」
「埃っぽいな」
街を歩く人々は皆困惑していた。
イエラの【月の眼】により髪の毛が石化し、崩れて砂となったことに気付く者は、誰もいなかった。
◇
その頃、アルバレス家では。
「月の眼が開いた。イエラのものだ。自殺に追い込んだというのに、死んだ後まで厄介な女だ」
当主、ゼスト・アルバレスは、そんな恨み言を侍従に漏らしていた。
「家中騒ぎになっております。イエラは生きていた、イエラの祟りだ、などと」
「バカなことを。そんな世迷言を言う奴はこの家に不要だ」
「そんな余裕はありません、父上」
ゼストの前に立ちふさがったのは、長男のイベールだった。
「体の一部が石化する病に罹っている者もいます。いずれも長期間外出していた者たちです。イエラの魔法が再発動しているのは、間違いないかと」
そんな報告を受け、ゼストは苦虫を噛み潰したような顔で口を開く。
「奴が出て行ってからだ。おそらくイエラは生きていて、ヴェルデと手を組んだに違いない。奴を討伐しろ」
自らの勘違いに気付くこともなく、霊を信じないゼストはそんな決断を下した。
「そのように手配します」
イベールはすぐさま、ヴェルデ捜索の準備を始めた。