嵐の剣技
「ミカエラ、剣はあるか?」
「ないよ。ここ巫女の家だよ?」
「じゃあ杖とか」
「錫杖ならあるけど……」
見ると、やたらと装飾過多な錫杖が壁に掛けられていた。まるで王笏のようだ。
だが今は、棒状のものであればなんでもいい。
「借りるぞ!」
俺は素早く錫杖を手に取り、外へ出る。
と同時に、岩のゴーレムの拳が飛んできた。左へ跳んで避けるが、余波で転んでしまった。
「マズいな」
こんなの、何回も避けられないぞ。
一気にカタをつけるしかない。
俺は、さっきレギアさんから引き継いだ記憶を辿る。
「剣技【グローム】」
霊力を込め、錫杖を振り抜く。打撃自体は大した威力じゃない。が、ゴーレムのつま先にコツンと当たり、衝撃が駆け巡った。
ゴーレムは膝をつき、やがて崩れ落ちた。
「効いている!」
やはり、霊力を使えば外傷は与えずとも、魂に直接作用して昏倒させることはできる。
だが問題は、敵の数が多すぎることだ。今のをあと9回やるとしたら、かなりの回数の攻撃を避け続けなければならない。俺にそんな体力はない。どうする?
「レギアさん! もっと力をください!」
必死に叫ぶ。もう頼れるのは伝説の勇者しかいない。
《分かった。ヴェルデ。お前が戦う覚悟を決めたのなら、俺の全てを引き継ごう。今まで祟りで苦労をかけてきた償いだ。受け取ってくれ》
すると、全身を膨大な霊力が貫く。さっき霊体の剣を受けたときとは比べ物にならない量だ。
どうにか耐えきると、ステータスが更新されていた。
霊力:56700/259999
まさか、レギアさんは自分自身の魂を全て霊力に変換して俺に与えてくれたのか?
それならば、期待には応えねば。
俺は、レギアさんから引き継いだ記憶を辿り、一つの剣技に注目した。
「剣技【テンペスタ】」
俺は霊力が渦巻くさまをイメージし、錫杖に力を込める。魔力集束のときのように、急激に力を流し込まないよう気を付けねば。
「いける!」
すると、錫杖を振り抜くと同時に乱気流が発生し、竜巻と化した。霊力を纏った竜巻だ。
ゴーレムたちは皆竜巻に吸い寄せられ、魂に直接ダメージを与えられて昏倒していった。
レギアさんの霊を犠牲にし、ミカエラの家も破壊してしまったが、どうにか凌げたな。