月の巫女
目覚めると、木組みの小屋の中で、ベッドに寝かされていた。
「ここは……」
辺りを見回すと、知らない少女が視界に入ってきた。
「お目覚めですか! もう、あのモンスターと相討ちになっちゃったのかと思いましたよ!」
神官服を着た少女は、よく通る元気な声で話しかけてきた。俺と同い年くらいだろうか。
青い髪は珍しいが、整った顔によく似合っている。
「あなたは?」
「私は月の巫女をしている、ミカエラといいます! でもすごいね君! あんな大きな猿を倒しちゃうなんて!」
久々に他人にほめられた気がする。慣れないので俺は反応に困ってしまった。
「あぁ、ありがとう……そんなことより、どうして俺なんかを助けてくれたんだ?」
「そりゃあ、私はかの誇り高き【巌の聖女】イエラ様の後継だから! 困っている人は見捨てられないよ!」
イエラの名前を易々と出すあたり、アルバレス家が五大勇者について流した噂については知らないらしい。まだそんな純粋な奴がいたとは、驚きだ。
俺は話を合わせることにした。
「そうか、助かった。それより、あの大猿はなんだ?」
「私の村を襲ったんだけど、突然何かに気付いたように方向転換していって、追いかけたらあなたがいたの」
どうやら俺の霊力の活性化に反応しておびき寄せてしまったらしい。結果としてミカエラの村は助かったが、俺は厄介な体質になってしまったな。
「でも、あんな凶暴化したモンスター、今までは見かけたことすらなかったのに……」
その原因に関しては思い当たるところがある。
「月の眼が開いたことに関係してるんじゃないか?」
「そうなのかなぁ、確かにあれはイエラ様の魔法によるものだけど、イエラ様が人々に危害を加えるようなこと、するかなぁ?」
甘いな。【巌の聖女】イエラは最も厄介な怨霊だ。アルバレス家に陥れられたことを誰よりも恨んでいる。
俺は四六時中イエラの恨み言を聞いていたので分かる。
「イエラさんは、何か未練でもあったんじゃないか?」
「うーん、あるとしたら邪神の封印が緩まないか心配されてたけど……」
月の眼は封印の中核を成していたという大魔法。確かに封印を締め直すためとも考えられる。
だが、レギアさんの話からして、それはない。
もう、レギアさん達の声は届かないと言っていたしな。