酒呑童子
私のストックがああああぁぁっ!?
ずっと片腕に抱きしめていたイナリを離し、黒剣を鞘に収める。
「む、お前ら強いな!どうだ?アタシと一勝負しないか!?」
「ぐえっ!?」
どうやら暴れ足りないらしく、目をキラキラ…………ギラギラ?させた茨木童子が俺の肩に手を回してグイッ!と引き寄せてきた。
先に言っておくが、彼女と俺の身長差は非常に激しい。
おかげで茨木童子の豊満な胸が斜め上からのしっ……、と乗っかってきて、とても幸せな感触が。
傍らのクロとイナリがリアクションは違えど、二人とも雷に撃たれたような衝撃を受けてよろけてしまっている。
「え、えっと…………それより先に、酒呑童子さんを解放した方が良いのでは………?」
「ああ、そうだそうだ、危うくここに来た理由を忘れるところだったよ」
かっかっかっ!と豪快に笑いながら俺を放す茨木童子。
いや、忘れるところだったって…………それで良いのか副官として。
マイペースと言うかなんと言うか、また違った方向性で掴み所のない人だ。
「さて、こいつもさっさと破壊してやるか」
「あ、やっぱりその奥に酒呑童子さんが封印されてたんだ」
「んん?違うぞ?これは酒呑童子……………シュカのやつが自分で張った結界だ。まったく、毎回無駄に凝った結界を張ってくれる」
「え…………?て事は、これはワルーダから自分の身を守るために………?」
ここまで言って、ふとおかしな事に気が付いた。
毎回?
て事はこれは反旗を翻したワルーダから一時的に身を守るためじゃなくて、割と普段から常用されてた結界………?
な、なんで?
……………う〜む、頭がこんがらがって来た。
結局どゆこと?
頭の上に大量の"?"が浮かび上がってしまう。
「こいつは、シュカが仕事が嫌になった時とかによく使ってた結界でな。やれ昼寝がしたいだのゴロゴロしたいだの言って、下手すりゃ一日中閉じこもっちまうんだよ」
「えぇ………」
「しゅ、酒呑童子様ってそんな感じの方だったんですね…………」
「ん、すごく意外」
茨木童子が苦笑い気味に口にした答えに、俺達は三人そろって思わず唖然とした。
酒呑童子と言えば、一言発するだけで全ての鬼人をひれ伏せさせ、過去に数多の強者を下した王の中の王、と言うのが共通認識だったはず。
少なくとも俺達の中では。
だが実際は、超が付くほどのグーダラ体質。
「ニート王にボクはなる!」と公言し、実際にダラダラニートライフを目指して日々精進(?)しているのだとか。
正確には仕事から逃げまくってるだけだそうだが。
ちなみに最近の目標はいかに仕事をせず楽に暮らせるからしい。
………………なんか、思ってたより親近感の湧く人だったみたい。
「よっと、これで解除完了だ。お前達も一緒に来るといい─────────なあ、その娘二人はどうしたんだ?」
「ん、ただくっついてるだけ」
「えっと、お気になさらず〜………」
あっさりと扉の結界を解除して振り返った茨木童子が、困惑したような表情で俺に問う。
茨木童子が解除を始めてからすぐに、なぜかクロとイナリがそっと俺の両サイドに抱きついてきたのだ。
突然こんなのを見せられれば、そりゃ困惑したくもなるだろう。
すまん、俺もわからん。
「あっはっは、取って食ったりはしないから安心しな!ただ恩人としてシュカに会ってもらうだけさ。むしろ、一緒に来てシュカに説教してやってくれ」
そう苦笑いのため息混じりに話すと、案外軽い音で開いた扉を通って中に入って行った。
……………どうやら茨木童子は相当の苦労人らしい。
俺達も言われた通り後を追って中に入り、ずんずん前へと進む茨木童子の背を頑張って追いかける。
十メートル程の長さの一本道は左右の明かりに程よく照らされていて、そこを抜けると視界が一気に広がった。
横幅だけでも軽く教室二、三個分はあるんじゃないだろうか。
天井に吊るされた燭台からは優しい光が溢れて部屋を満遍なく照らし、壁に沿って掘られた溝には綺麗な水がちょろちょろ流れて、竹の筒に溜まっては"かこんっ、かこんっ"、とししおどしを鳴らす。
非常に質素な部屋だ。
その他はほとんど何も無く、あとは中央に敷かれた六畳ほどの畳だけ。
しかし、その部屋に比べてずいぶん小さな空間に、全てが詰め込まれていた。
端に寄せられた低いちゃぶ台には、紙の上に広げられたお菓子やら布から溢れ出した飴玉やら、クシャクシャに丸められたティッシュ(?)に空のコップ。
さらに周辺にはなんでこっちにあるのかツッコミたい懐かしのカップラーメンの残骸や、分厚い雑誌やマンガ本などが山積み状態だ。
そして、一番敷地面積を圧迫している敷布団の上には、ヨダレを垂らしながら幸せそうな表情で爆睡する幼女の姿が。
ニートだ。
紛うことなきニートである。
「えっと、まさかあの子が………?」
「…………………ああ。我らが鬼人族の長、酒呑童子ことシュカだ」




