一生の不覚だ…………
殴り飛ばしたワルーダが、肥えに肥えたその脂肪で何回もバウンドして向かい側の襖に激突し、倒れた襖の下敷きになって「グベアァ!?」と汚い悲鳴を響かせる。
「ひ、ひいぃぃっ………!」
なんとか襖の下から這い出したは良いものの、俺の殺気を込めた威圧にあてられて尻もちを着いたまま、情けなく後ずさりをする。
全身からこれでもかと冷や汗をかき、服は既に脂でギドギドだ。
その姿はもはや金ピカの服装に似合わず非常に惨めである。
しかし、それでもあの水晶を放さない執着心だけは認めよう。
ちっ………手加減しすぎたか?
それともその肥えた腹に助けられたのか…………耳障りだから、さっさとこんな奴気絶させるつもりだったんだけどな。
まぁいいか。
もう一発殴れば、さすがにしぶといこいつも─────────。
「はわわ………!く、クロさん!今、ご主人様がさりげなく私達を"俺の女"って…………!?」
「ん。イナリと一緒なのは解せないけど、一人の女として見てくれてるのが分かっただけでも嬉しい」
「あれ!?もうっ、そこは素直に喜びましょうよぉ!」
まさかの裏切りに会い、イナリの耳が衝撃を受けたようにピンッ!と伸びる。
さらにシラを切ってぷいっ、とそっぽを向いたクロの肩を掴んで、「ちょっとクロさん!?」とひたすら前後に揺さぶる涙目のイナリ。
やはりと言うか、結局はビキッ!と怒りのマークが付いたクロのビンタを食らって、奇怪な悲鳴と共に崩れ落ちてしまった。
もちろん、めそっと恨めしそうにクロを見上げるのもセットだ。
そのあまりにも場の雰囲気に合わない光景に、思わず毒気を抜かれ我に返った。
「ご主人様、クロさんがひどいですぅ!こういう時くらい一緒に喜んでくれてもいいですのにぃ!」
「主、イナリはここに置いて行こう?大丈夫、イナリなら強く生きる」
「何さらっと見捨てようとしてるんですか!?」
二人が興奮気味に詰め寄って来て、俺を挟んでギャーギャー言い合いが始まる。
もう見慣れた光景。
口から出るのはどれもこれも他人からすればくだらない内容かもしれないが、俺の怒りで昂った心を沈めるには十分すぎる効果があった。
いかんいかん、頭に血が上ってついやってしまった……………。
らしくもない言葉使いもしちゃったし。
何より、思いっきり"俺の女"って………………何言ってんだか。
思い起こすは久しぶりにガチギレした自分が言ったセリフ。
クロは当たり前だが、散々「嫁にする気は無い」と豪語していたイナリさえも"俺の女扱い"してしまうとは。
不覚でしかない。
一生の不覚。
確実に黒歴史確定だ。
……………だがあの時、クロだけじゃなくてイナリに対しても同じような感情を抱いたのもまた事実。
二人がそういう風に見られていると知って、俺は頭が真っ白になるほどキレた。
たとえ何があってもその事実だけは覆らない。
……………はぁ………………………………。
何度でも言おう、一生の不覚だ。
「ふえぇぇ………ごしゅひんざまぁ〜………!いい感じの雰囲気だひてないへ(出してないで)、たふけてくらさいよぉ(助けてくださいよぉ)!私のほっへが、ほっへがぁ〜!」
「……………………」
「何してんの二人とも…………」
無言のままイナリのほっぺをむにょーん、むにょーんと左右に引き伸ばすクロ。
引っ張りすぎてすごい事になっとる。
もちもちのイナリのほっぺだからこそできるネタ技だ。
「く、くそ………よくもやったな!」




