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潜入(3)





俺とクロとイナリは、トーテムポールのように縦に顔を並べて、こっそりと木々の後ろから門番達が(たむろ)っている門の辺りを覗き見る。



ここは内陸側の"妖魂(ようこん)の森"の端。

目の前には整備された大きな道が隣接していて、さらにそれを横断した向こう側…………つまりはあの外壁の向こうこそ、俺達の目的地である鬼人(きじん)族のクニだ。


見た限りレンガのような材質の外壁には門が一つだけ設置されており、そこには五人ほどの門番が見えた。

イナリ(いわ)く、前はこんな外壁なんて無かったらしいけど…………狐人(こじん)族を攻めるにあたってわざわざ作ったのか?


視覚を魔力で強化した【魔眼】で見てみると、確かに所々に作りが粗雑な場所があったり、かなり急いで作ったように見受けられる。

まったく、面倒な事をしてくれたもんだ。

おかげで侵入が若干面倒くさくなったのと、無駄に外壁が高いせいでここからだと中が見えないではないか。

頑張って視線を上げても奥の()しか見えん。




………………そこ、身長が低いだけとか言わないように!



にしてもあの城、前世で旅行中に一度だけ見た大阪城に似てるな……………。




「むぅ、朝だというのに守りが堅いですね…………。バレてない内にちゃちゃっと()っちゃいます?」

「だ・か・ら、それをしないためのクロでしょうが!」



ぽけ〜っとした顔で、さらっと木の影から抜け出そうとしたイナリの顔面をアイアンクローして無理やり引き戻す。

まったくこの残念キツネは…………気を抜いたらすぐにこれなんだから。

一応というか当然イナリの家族達の命運も掛かってるので、もうちょっと考えて行動して欲しい。


アイアンクローされたままぷら〜んとぶら下がっているイナリが、「じょ、冗談ですよぉ〜!」とじたばたするが、もう反応に疲れたので侵入するまでこのままで行く事にした。




本当に、お姫様抱っこに慣れたイナリが調子に乗ってしつこいのなんのって……………。

俺の頬をつんつんしながら「も、もう、そんなに私の事が好きなんですかぁ〜?」とか、「ふへへ………お礼はちゅーでお返ししますぅ!」とか。

(しま)いにはそこら辺に投げ捨ててしまおうか、とまで思ったものだ。

……………いや、もちろんイナリみたいな美少女につんつんされたり、キスを迫られる事自体が嫌という訳ではない。

断じてない。


だが……………なんと言うのだろうか。

とりあえずテンションマックスのイナリがひたすらに鬱陶(うっとう)しかった。

隠密行動中だから尚更の事。


まあ、そもそもの原因であるお姫様抱っこを、ただ"楽だから"っていう理由で選んだのは俺なんだけどね!

すまんイナリ、六割…………いや四割くらい俺が悪かった。

たぶん。





…………………さて、気を取り直して潜入を始めよう。


俺とクロは頷き合い、ひっそりと息を潜めながら道端の小石を道路に投げる。

コツンッ!と小さな、しかし静寂の中では確かに聞き取れる大きさの音が辺りに響く。

当然、それは門番達の耳にも聞こえたようだ。



「ん?なんか今、そっちから音がしなかったか?」

「ああ。誰かそこに居るのか?」



武装した鬼人二人が槍を持ったまま警戒してこっちに向かってくる。

よしよし、そのままそのまま……………。


気配を完全に殺しているおかげで、伸びた影が俺達の潜む木陰(こかげ)に差し掛かるほどまで近づいても、鬼人二人が俺達に気づいた様子はない。


ここで、影に触れたクロが〈潜影(せんえい)〉のスキルを発動。


まずクロがどぷっ、と沼に沈むように影の中に消え、続いて俺と、未だアイアンクローされて「あ、あれ、ご主人様ぁ〜?」と悲しそうにぶら〜んとしてたイナリもまとめて影に飛び込む。

次の瞬間、がさっ!と門番が思いっきり木陰に踏み入った。

しかし既にそこには誰も居ない。




「あれ、おかしいな……………」

「どうせそこら辺に住んでる動物だったんだろ。さして珍しいもんでもねぇよ」

「それもそうだな。今、こんな所に来るやつなんて居ねぇか」



()()を含んだ笑い声を、俺達は真下の影の中で聞いていた。



「…………なんか、当たり前だけど鬼人のクニも一枚岩じゃ無さそうだな」

「ん。こいつらからはドス黒い気配しない」

「あ、あの〜、そろそろ放してもらえませんか………?」



おっと、すまんすまん。

完全に忘れてた。

顔面から手を離すと、重力に従って落下したイナリがおしりを強打して「ふぎゃっ!?」と悲鳴を上げた。



「うぅ………ご主人様には待遇の改善を要求しますぅ」

「やれたらやる」

「それ、絶対にやらないやつじゃないですかぁ!」



涙目でむっちりしたおしりをさすっていたイナリが、ぷんすかしながら猛然と抗議の意を示すように両腕を振り上げてじたばたする。

力が入っていないとは言え、ぽかぽか当たる拳が地味に痛い。



「主、門番が止まった」

「りょーかい。ほら、行くぞイナリ」

「ほぇ?あれ、そう言えばいつの間にか辺りが真っ黒……………ここが昨日言ってた影の中、なんですか?」

「そうだよ。クロって凄いよなぁ、俺もこんなスキル見たこと無かったもん」

「んぅ〜、もっと撫でて」



クロの頭を軽くぽんぽんしてたらグイッ!と擦り寄せて来たので、お望み通り更になでなでしてあげる。

今イナリが言ったように、ここは影の中だ。

クロが使ったスキル〈潜影〉は、あらゆる影に仮想的な空間を作り、使用者の任意で出たり入ったりする事が可能な便利スキル。

もちろん繋がっていれば他の影へも自由自在らしい。




「むむむっ………!クロさんだけずるいですぅ!私もなでなでしてくださいよぉ!」

「えー…………。!もし説得が成功したら、ご褒美に好きなだけなでなでしたくなっちゃうなぁ〜(棒)」

「本当ですか!?むふふ………それは頑張らないとですね!」



俺が頷くと目をキラキラと輝かせ、力強く握った右手を高々と真上に上げると、ふんすっ!と気合いを入れるイナリ。

チョロい。

非常にチョロい。

変な人に(あお)られてもすぐについて行ってしまうような気がして、むしろ少し不安だ。






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