鬼人族の捕虜
すみません、ルビ忘れました(m´・ω・`)m
───────酒呑童子。
はるか昔より生きる鬼人の王にして、歴史に名を連ねる大妖怪の一人。
お酒をこよなく愛し、その豪快な飲みようからこの名で呼ばれるようになった。
前世で見た記述によれば、人肉や女性の生き血を好んでいたようだが、こちらの世界の酒呑童子はそんな残酷なことはせず、むしろ他の種族と友好的に接していたそうだ。
狐人族の集落から内陸におよそ数キロ進んだ辺りに、その酒呑童子が収める鬼人のクニがある。
狐人族は何百年も前からそこと交友があり、カムイさん達は酒呑童子に直接会ったことはないものの、かなり良好な関係が続いていた。
お互い何か盟約を交わしていた訳では無いが、困った時はお互い助け合って暮らしていた。
しかし、数日前。
突如として鬼人達が村に攻めてきたという。
理由を聞けば、「酒呑童子様の命である」の一点張り。
狐人族側に攻められる覚えは無い。
今回は一時的に鬼人の軍勢は凌いだが、またいつ攻めて来られるか分からない。
そもそも、酒呑童子本人が攻めてきたらその時点で狐人族側は詰みだ。
あらゆる猛者をねじ伏せ、鬼人の王に上り詰めるほど圧倒的な力を持つとされる酒呑童子に…………大妖怪に名を連ねる酒呑童子に勝てるわけがない、と。
これが、村に着いてからカムイさんが話してくれた内容だ。
あの後、村に戻った俺達はカムイさんから事情を聞き、今後の作戦などを立てた。
人数で圧倒的に負けてるんだったら、頭を使ってその差を補わなきゃいけないからね。
まぁ、こっちとしては徹底抗戦するつもりは無いから、あくまで足止め程度の役割だけど。
本当の目的は、その隙に鬼人のクニに侵入して直接、酒呑童子に会うことだ。
今のところはそこでイナリに説得なりなんなりしてもらう予定なんだけど…………どうしよう、不安しかない。
あのイナリが交渉なんてできるのかな……………。
ま、まぁ、一応俺もついて行くし、いざって言う時は俺が何とかすれば良いか。
作戦会議を終え、俺は一抹の不安を覚えながら外に出た。
狐人族の集落はコテージのような木造の家屋が間隔をあけていくつも並んでいるような作りで、内陸側には急遽作られたと思われる丸太の防壁が横長にそびえ立っている。
その傍にはこれまた急に作られた見張り台があり、狐人族の人達が交代交代で見張りを担当しているそうだ。
ここからでも焚き火が見える。
俺はそれを横目に確認しながら、賑わう家を離れて見張り台とは反対側に向かって歩く。
村の真ん中より少し海岸側にある一つの小屋。
明らかに周りの家とは作りが違く、何らかの魔法が付与された特別な木材が使用されている。
事前に貰っていた鍵を使って入口の施錠を解き、中に入った。
ここは牢屋だ。
とは言ってもちゃんと明かりがついていたり、牢屋も名だけの綺麗な部屋だったりするのだが。
主に昼間に捕まえた鬼人族達が捕縛されていて、縛られた鬼人達が五人一組に分けられて各牢屋に捕まっていた。
牢屋の鉄格子は真ん中の通路を中心に向かい合うように並んでいて、それが何個も列を生して向こうまで続いている。
その長さは明らかに小屋の広さを超えていた。
これ最初に見た時、前にノエルが作ってた異空間を思い出したんだよね……………。
あれもこんな感じで見た目より広い空間が作られてた。
ちなみにこの小屋はカムイさん曰く、狐人族特有の幻術の応用で成り立っているらしい。
説明してもらったけどよく分からなかった。
なんで幻術なのに物理的に作用してるのだろう。
これはどっちかって言うと空間魔法の類いだろうに………。
まぁ、ファンタジーの世界なんだから、科学的に考えるのはナンセンスだよなぁー。
……………と言うか、そんな難しい事考えてたらハゲる。
最近は年々歳を取ることでハゲないか若干の不安を感じつつある俺としては、そんなリスクを無駄に背負ってまで考えたくはなかった。
さて、己の頭皮を心配しつつ奥へ進み、半分くらいまで来た頃だろうか。
俺は不意に立ち止まり、右側の牢屋の方を向く。
「やっと起きたみたいだね」
「………………何の用だ」
俯いていた青い鬼人が顔を上げて俺を見据える。
あの時、カムイさんと対面していた鬼人だ。
俺がここに来た目的はこいつに会うため。
明日、酒呑童子の元に乗り込む前に、どうしてもこいつから聞きたい事があったのだ。
「……………今回の侵略、本当に酒呑童子の命令だったのか?」
「…………………ああ、そうだ」
嘘だ。
こいつは嘘をついている。
それを見抜く無属性魔法がしっかり反応した。
て事は、今回のはこいつ、またはこいつの上司の独断か…………もしくは、酒呑童子の名を語る何者かが背後で糸を引いてる?
どちらにしろ、なんかきな臭いな……………。
鬼のクニで何かあったのかな?
内部抗争とか。
「もう一つ。あんたのステータスにある【呪縛】って何だ?」
「っ!?」
男の肩がぴくりと揺れたのを俺は見逃さなかった。
空気が揺らいだ。
一瞬だけ心臓の音が跳ね上がり、かなり驚いた様子。
だが、すぐに平静を装って分からない振りをする。
実はこいつ以外の部下達にも話を聞こうと思ったのだが、全員に同じく【呪縛】がかかっていて、ほとんどまともに話せる人が居なかったのだ。
ある者は何かを幻視するようにぼーっと宙を見つめ、またある者は取り憑かれたように「酒呑童子様ぁ………酒呑童子様ぁ………」と呟いていた。
明らかに正気じゃない。
全員何かしらおかしかった。
しかし、なぜかこいつだけは自我に異常がなく、普通に会話も出来た。
だからこうして話に来たという訳だ。
こいつなら何か知っていると踏んで。
そうしたら、案の定反応があった。




