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狐人族(2)






「いやぁ、危ない所でした。助けていただき、ありがとうございます」



【パラライズ】で麻痺させるか手刀で気絶させるかした鬼人達を特殊な縄で縛り、クロと協力して一箇所に集めていると、それを呆然と眺めていた狐人族の中の一人がこちらにやって来た。

先程、俺が助けた初老の男性だ。

茶色の短髪にキツネ耳を生やした男性は、立ち止まった俺に苦笑いしながら頭を下げる。



「おかげで、なんとか死者を出さずに済みました」

「それは何よりです。あ、負傷者って何人居ますか?まとめて回復させたいので、大まかにでも分かると嬉しいんですが………」

「え?あ、はい、負傷者の人数ですか?ええと…………たしか、最後に確認した時点では十一人程度だったはずですが………」

「なるほど、ありがとうございます。十一人か………じゃあこんくらいかな?」




手のひらに集めた魔力をそっと押し上げる。

ふわふわと雲のような性質に変化したそれは、まるで生きているかのように渦巻き、ざわつく狐人族達の上空に広がる。

そして、魔法が発動。


使ったのは光属性の【ホーリースノー】という魔法。

その名の通り癒しの効果がある雪を降らせる魔法で、その治癒力は込める魔力によって左右される。

今回は範囲を狭く絞って、その代わりに治癒力に振ったから通常より治りが早いはずだ。


透き通った魔力の雲から一つ、また一つと降る雪が光を反射して地上を彩る。

世にも珍しい快晴、かつ超局地的な雪に驚いていた狐人族の人達も、やがて自身の傷の痛みが消えている事に気づいた。

唖然としながらあちこち触ったり動かしたりして、あったはずの傷が消えたことに喜び、相手の無事を噛み締めるように抱きしめ合う。



「これは…………とんでもない魔法ですね………」




男性は雲を見上げて息を飲む。

はらはらと頬に雪が溶けるように消え、反射的に触るがもう雪の感触も傷の感触も残っていない。

もはや驚くのにも疲れてしまったのか、男性は苦笑い気味にこちらに向き直る。



「治療までしていただけるとは………感謝してもしきれませんな」

「まぁ、気にしないでください。当然の事をしたまでですから。えっと………」

「ああ、自己紹介が遅れて申し訳ない。私、カムイと申しまして…………これでも、一族の長をやっとる者です」

「どうも。俺はマシロって言います。こっちはクロ」

「ん」



紹介ついでに傍らのクロを撫でる。

手が往復する度に猫耳がピクピク動き、目を細めてご満悦の様子だ。

可愛いなぁ。

ほれ、もっと撫でてやるぞ〜。



「ん〜」

「はっはっはっ、お二人は大変仲がよろしいようですな!」

「ん。主とクロは一心同体」

「相棒みたいな感じですね〜」



それを証明するがごとく、ギュッと抱きついてくるクロ。

そうなんだよねぇ………。

クロはまさに俺の「相棒」だ。

ノエルやアイリスとはまた違った俺のパートナー。



俺とクロが作り出すほわほわ空間に、なんだか戦場に似つかわしくない甘ったるい雰囲気を感じたのか、狐人族の皆さんから生暖かい視線を頂戴する。








……………………で、それを当たり前のようにぶち壊しちゃうのが残念キツネなわけで。





「父上ぇぇぇーーーーーっ!!」




「なっ、イナリ!?」




カムイさんが微笑ましそうな笑顔から一転、驚きのあまり愕然。

表情の変わりっぷりはいっそ見事なもの。


その視線の先。

集落の方からものすごい勢いで走ってきたのは、言わずもがな残念キツネことイナリだった。

涙で顔がすごい事になっているが…………今更、気にするような事でもないだろう。

それに、今わざわざそれをツッコむほど俺は空気の読めない男じゃない。


父娘感動の再会の瞬間なのだ。

余計な事は何も言うまい。

ていうか、カムイさんってイナリの父親だったんだな…………。

言われてみれば似ているような…………?

ちょっとカムイさんが男前すぎて分かりずらいが、目元が似ている…………気がする。

たぶん。


何はともあれ、イナリの帰還はすぐに狐人族全体に伝播(でんぱ)した。

一斉に喜色を浮かべ、また皆も俺と同じように父娘の感動の再会に瞳を潤ませる。




──────しかし、そこはやはり残念キツネクオリティ。

普通に感動の再会とは行かないようだ。



イナリが手を広げて父親を抱きしめようとする。

カムイさんは動かない。

娘の無事を喜び、感動で上手く動けないのだろうか。




……………………否。





右の拳が力強く握られているのは、感動のためであろうか。





………………………………………………否。




「父う」

「どこで何やってたァアア!この、バカ娘っ!!」

「あべふっ!?」



イナリが「父上」と呼び終わる前に、カムイさんの怒りの鉄拳が思いっきりイナリの脳天に振り下ろされた。

あと少しで父親に抱きつけたものの、直前でゲンコツを喰らって名前も呼ぶことすら出来ず、ただ「なんで………?」と言いたげな虚ろな瞳で力なく崩れ落ちた。


強制的に顔面から地面へのディープキス。

またもやお尻を突き出した状態でビクンビクンしている。

もはや感動の再会なんて影も形もない。


さすが残念キツネ。

まさかほんの一瞬であの雰囲気をぶち壊すとは…………。







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