焔狐(3)
「剣聖様、この焔狐はどうするのですか?」
アレクが言いよどみながら聞いてきた。
おそらく、殺すにしても子狐の目の前で同族に手をかけるのはいかがなものか、と悩んでいるのだろう。
ま、そこは俺に任せなって。
良い案がある…………というか、元々そうするつもりだったし。
俺は力なく暴れる焔狐の額にトンッと人差し指を立てる。
途端にあれだけ抵抗していた焔狐の動きがピタリと止まり、その赤色の目が俺を見つめて離れなくなる。
……………数秒経ち、俺は指を離す。
焔狐の抵抗は無い。
魔法で状態異常を解除してやると、四肢の反応を確認してから焔狐がのっそりと立ち上がった。
「えっ、大丈夫なのですか!?」
「ああ。もう敵意はないよ」
体をふるふると震わせた焔狐を見て、心配そうにアレクが呟くが、俺はしゃがんだまま手を振って、大人しくなった焔狐を呼び寄せる。
さあ、早くそのボリュームたっぷりの毛をもふもふさせてくれたまえよ!
正直に言うと、ずっともふもふしたいと思っていた。
狛犬みたいにくるりとなった毛並みはとてもボリューミーで、触れると指が沈んでいく。
はぁ〜、気持ちいい…………。
クロのサラサラの毛並みも、プラトス達のスベスベした肌触りも良いけど、この底なしのふかふかも実に捨て難い。
「お?」
そうやってひたすら撫でていると、なぜか頭上の子狐が上へ上へとよじ登り、ついにバランスを崩して焔狐を撫でるために伸ばしていた腕に当たり、そのまま俺の懐に顔から突っ込んだ。
どうした子狐よ。
暇だったのかな?
もぞもぞ動いた子狐が、スポンッ!と顔を出して揃えて曲げた俺の膝に前足を乗せ、一周りも二周りも大きい焔狐を見つめる。
『コンッ!』
『クルル……?』
『コンッ!!』
『………………?』
焔狐が困ったように俺の方に顔を向けた。
いや、ごめん、俺も何言ってるか全く分からん。
『グルッ………!』
「ん、そうだね。先にそっちの説明もしなきゃ」
焔狐が背を向けて歩き出す。
「アレクも着いてきな。君にも関わる話だから」
「はあ…………」
終始置いてけぼりになってしまったアレクは、何が何だか分からない様子だったが、なんとか頷いて俺の後ろを着いて歩く。
「まぁ……剣聖様なら何でもありか」と呟いてたのが気になるけど…………今は聞かなかった事にしよう。
村を出てしばらく歩き、近くにある森林にやって来た。
『クル、クルッ』
「お、ここか」
森林に入って少しして、何やら洞窟の周りに落ち葉が積み重なって盛り上がった場所にたどり着いた。
焔狐が中に向けて数回鳴くと、唯一の入口からひょっこりと耳がはみ出し、二匹の子狐が顔を覗かせる。
ここはこの焔狐と子狐の巣なのだ。
こんなに人里の近くに焔狐の巣があるなんて知らなかった。
彼女曰く、本来住んでいた場所で食料が取れなくなったため、ここまで来ざるを得なかったらしい。
「子供達が居たんですね。…………でも、なんだか少し痩せていませんか?」
「うん、食料が足りないんだってさ。だからアレクの畑の野菜を盗んでたみたい」
「なるほど…………」
「そ。それで、アレクに相談なんだけど」
俺は頭を擦り寄せてきた焔狐を撫でながら、首を傾げるアレクに先程話した内容を説明する。
「この子達に、野菜とかお肉を分けてあげてくれないかい?あ、もちろんタダでとは言わない。ギブアンドテイクだ。この子は食料を貰う代わりにアレクの畑を守る」
農家が受ける害虫や動物の被害は、年間で相当な件数に上る。
さらには小さすぎたり、形が悪かったりと様々な理由の規格外野菜が出るせいで、前世では全体の約三十〜四十%の野菜が廃棄されているらしい。
こちらではそこまで酷くないものの、やはり何かしらの理由で廃棄される野菜は少なくない。
しかし、焔狐が居れば害虫や動物、魔物などの被害はもちろん、形が悪くとも味は変わらないので貰えれば良い、という本人からの承諾があるので、破棄される野菜は相当減るはずだ。
その場合、農家側の利益が上がるのは間違いない。
代わりに、焔狐達は餌である野菜や肉を貰うという訳だ。
執筆が進まなすぎてやばいです助けてください(;ω;)




