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焔狐





次の日の夜、約束通り設置した罠を見るために例の畑の前で待機していた。



家側にある背の高い草で気配を隠すのは、私服姿の俺とアレク。

俺たちの目線の先には昨日設置した金属製の罠が仕掛けられているが、一晩だった今も一切動きが見られない。

やっぱり、旧式の罠だと頭の良い焔狐を捕まえるのは難しいか…………。


焔狐は非常に頭が良い。

これは世間的に広く知られている常識で、時に人間を凌ぐほどの頭脳を見せることもあるのだとか。

さらに嗅覚が鋭く、人が設置した罠なんかもすぐに見つけることが出来る。

そして一番厄介なのが、焔狐は幻術を得意とするという所。


幻術で本当に熱く感じられる炎を見せたり、逃げる時に自分の分身を作って巧みに姿を隠すなど、その巧妙な手口が人々を困らせている。


ファンタジーな力を得た分、前世の狐以上に厄介な存在だ。

だが、決して悪いやつじゃないってのも俺は知っている。

人々からは畑を襲う悪い生き物と思われがちだが、彼らの本質はもっと違う。

本当はもっと───────。



「…………やはり、罠には引っかかりませんね」

「だね。う〜ん、姿さえ見せてくれれば捕まえられるんだけど………こっちの存在に気づかれちゃったかな」



かれこれ夕方から三時間ほど交代で見張っているが、一向に焔狐の姿が見えない。

こりゃあ、向こう側に先に気づかれた説が濃厚だな。

こうなると、警戒心が強い焔狐は出てこないからなぁ…………日を改めた方がいいかも。



「分かりました。では、また明日よろしくお願いします」

「うん、明日はちゃんと捕まえられると──────」


『ギャンッ!?』



草むらから立ち上がり、固まった腰や背骨をポキポキして伸びていると、不意に向こうの方から獣の悲鳴が聞こえてきた。

今、ガチンッ!って音が悲鳴のちょっと前に聞こえた…………罠にかかったのか?

でもあっちは俺がしかけた旧式の罠の方向じゃない。



「アレク、あっちに何か仕掛けてある?」

「えっと……………あっ、この前しかけた罠がそのままになってます!」

「それって、もしかしてあの〜………ほら、ギザギザしてるやつ?」

「はい。トラバサミと呼ばれる罠です」



やっぱりか。

トラバサミってのは、よくマンガなんかでも見かけるサメの歯みたいなギザギザが付いた円形の罠で、その上に体重をかけると、バネ仕掛けでそのギザギザの付いた半円が折り畳まれて足を強く挟み、獲物を捕まえるといったもの。

罠と言えばこれを一番にイメージする人も多いんじゃないか、と思うくらいにはメジャーな罠だ。


ただ、日本では人間が誤って踏むと脚の骨を粉砕するほどの威力を持つため、使用することが禁止された。

それほどの威力を誇る罠だ。


世界が違うとは言え、そこまで性能は劣化していないはず。

確実にかかった焔狐を傷つけている。

どうりでさっきから血の匂いがすると思った。


俺は急いで罠の方に駆け寄ると、トラバサミに後ろ右足を挟まれて、キューキュー痛そうな鳴き声を上げている一匹の狐を見つけた。

その体はとても小さく、まだ子供のようだ。


焔狐じゃないな…………。

他の種の狐か?



『こ、コンッ!コンッ!』

「鳴き声はそれなのか…………じゃなくて。よしよし、ちょっと待ってな。罠外すから」



こちらを威嚇する子狐をなだめながら、俺はしゃがみ込んでトラバサミをカチャカチャいじり、締める力を緩めて引き抜いてあげる。


えっとぉ………?

あー、こりゃ結構傷が深いな。

骨が折れてないのがまだ不幸中の幸いか。


子狐の体が想定より小さかったせいで、トラバサミの刃が深く突き刺さってしまったようだ。

俺が傷口の近くを触れる度に、子狐が痛そうに小さな体を震わせる。



「傷口は回復魔法で塞いで、あとは補助用の包帯つけて、っと。ほれ、これで痛くないし、上手く歩けるでしょ」



診察しているうちに骨の付け根にも何か異常があるのを見つけたので、傷口を治すついでに正しい形に戻してあげた。

見た感じ先天的な生まれつきの異常っぽかったので、普通の歩き方に慣れるまでは補助として効果のある特殊な包帯を巻いておいた。

突然痛みが消えた子狐は驚いたように自分の足を見て、左右に振り、感覚を確かめるようにタシタシと地面を叩く。


そして、治ったことを喜ぶようにジャンプしようとして、すてんとコケた。

当然だが、まだ治った後ろ足に慣れていないらしい。



「剣聖様、良いんですか?」

「この子はアレクの畑の野菜を盗んでた子じゃないよ。ほら、足跡が違う」



罠の周りにある小さな足跡を指さし、次に昨日見せてもらった焔狐の足跡がある方を指さす。

さすがに動物博士じゃないから詳しい違いは分からないけど、明らかに大きさが違い過ぎるからね。

アレクも気づいたようで、申し訳なさそうに後頭部をかく。


…………にしてもこの子、見たことない種類の狐だな。


改めて歩こうとしては転び、歩こうとしては転ぶの繰り返しで土まみれになった子狐を眺める。

土でどろっどろだが元は小麦色のもふもふで、なぜか胸元のもさっとした部分だけは真っ白の毛並み。

瞳は吸い込まれるほど綺麗な緑色。

しっぽが少し…………というかだいぶこんもりしている。


焔狐は狛犬みたいにくるりとなった毛が特徴だ。

それに比べてこの子はだいぶオーソドックスな狐っぽいが、実はこっちの世界で一度もこのような狐を見た事がなかった。








眠い………

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