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主を食す(3)





ちょうど列が途切れてきたので、二人してメアリーさんの所にお邪魔する。



「おや、剣聖様じゃないかい。久しぶりだねぇ!」

「どもども。あ、串四つお願いします」

「はいよ〜。エマ、串四つね!」

「うん!」



横の簡易キッチンで返事をしたエマちゃんが、テキパキと大きな切り身をブロックに切っていき、四つずつ串に刺してメアリーさんに渡す。

既に味付けは済んでいるようで、後は専用の調理器具で焼くだけ。

しばらく火の様子見をして、問題ないと判断したのだろう。



「あの、剣聖様、お久しぶりです……」

「や、エマちゃん。最近魔力の調子はどうかな。魔法の特訓は上手く行ってるかい?」



濡れた手をエプロンで拭きながら、はにかみ混じりにあわあわお辞儀(じぎ)するエマちゃん。

頭を下げると共にトレードマークのおさげが揺れる。

ちょこちょこしてるの可愛いなぁ…………。

非常に微笑ましい。


最後に会ったのは二週間前だったろうか。

前したように優しく頭を撫でると、少しくすぐったそうにしながらも気持ちよさそうに目を細める。



「はいっ!最近は中級魔法も少し使えるようになったんです……!」

「中級魔法!?そりゃすごいな…………」



返ってきた返答にいささか驚かされた。

二週間で少しでも中級魔法を使えるようになったのか。

もしかして、エマちゃんって魔法の才能あるのでは?


と言うのも魔法の修行をする場合、本来は最初の二、三週間は魔力操作の基本と初級魔法、それをクリアしたら徐々に中級魔法を練習するのがセオリーだ。

しかし、エマちゃんはほんの一週間ちょいで初級魔法をマスター。

独学で中級魔法にすら手を出すという成長っぷりだ。



「この子、剣聖様に褒めてもらうんだ〜、ってすっごく頑張ったのよぉ!そうよねぇ、エマ?」

「あわわ………!お、お母さん!言わないでって言ったのにぃ………!」

「へぇ、そうだったんだ。頑張ったね〜」

「あうぅ…………!」



顔を赤くして必死にメアリーさんに抗議するエマちゃんの頭をさらに撫でてあげる。

すると、途端に顔をより一層真っ赤にして、エマちゃんは動かなくなってしまった。

目がグルグル回っている。

なんかどこかで見た事ある反応だな…………。





ああ、そもそも俺が彼女に魔法を教えた経緯───────それは。



エマちゃんは生まれつき体内の魔力が体外に拡散してしまう珍しい病気で、そのためずっと魔法が使えなかったという。

大気中にも魔素は大量にあるが、それすらも集めた傍から拡散してしまう。

魔欠病(まけつびょう)という名の、数千万人に一人かかるかどうかの極めて珍しい病気。


そのため、当然病の全容は解明されておらず、治療薬は愚か治癒できる魔法も見つけられていなかった。

せめてもの救いは魔力が拡散するだけで、生きる上ではあまり支障がなかったという事だろう。


しかし、同年代の子達が魔法を使ってはしゃいでいるのを見ると、彼女はとてもコンプレックスに悩まされたという。


自分だけが魔法を使えない。

皆と違う。

言わば劣等感。


そのコンプレックスは次第にエマちゃんの心を固く閉ざし始めた。

最初はあまり気にしていないような素振りだったものの、時が経つにつれて表情に影が生まれ、徐々に笑顔が消え。

最後は人と会うのも辛くなるまでに追い詰められた。

お母さんであるメアリーさんでも話を聞く以外何もできず、悩みに悩んだ末、俺の元を訪ねてきた。

そして一言。



「娘を救ってください」、と。



メアリーさんに恩があった俺は当然、承諾。


まず、初日は挨拶と診察をした。

彼女の体を魔法で調べたところ、すぐに原因は判明。

体内にある魔力を生成する大事な器官が、突然変異でまともに機能しなくなっていたのだ。

魔力を留める役目も果たしていたその器官が働かない事で、少量の魔力が生成できてもすぐに拡散してしまっていた。


原因が分かればあとは早い。

後日もう一度伺って、とある魔法を彼女にかけた。



【リストア】。



対象を正常な状態に修復、復元する魔法だ。

無機物にも生物にも有効なのがこの魔法の凄いところ。

機械などに使えば、完全に整備が行き届いた未使用顔負けの状態に。

生物に使えば、欠損した四肢や病原菌に侵された臓器さえも修復できるチート魔法なのである。

本来は膨大な魔力が必要な"古代魔法"だが、俺の底なしの魔力を使えば問題ない。


結果は大成功。

魔法をかけた瞬間から彼女の器官は修復され、体が徐々に魔力で満ちて行った。






いやー、あの時は感動したなぁ。

エマちゃんもメアリーさんもボロボロ泣き出して、エマちゃんが治ったって聞いた冒険者達も皆もらい泣きしてたもんな。

その日を境にエマちゃんは元気を取り戻し、今に至るというわけだ。



「はい、焼けたよ!お待ちどおさま!」

「どうも。ほれ、クロも二つ」

「ん!」



受け取って早速ガブリとかぶりつき、ブロックの半分を一気に頬張るクロ。

毎回思うんだけど、この量のお肉はどこに消えていくのだろう。


言っておくが、クロはとても大食いだ。

特にお肉が好きらしく、食卓に出ると必ずいっぱい食べる。

だが、そのお肉達はこの小さな体のどこに消えているのだろう。

明らかに許容量以上食べている気がする。

クロに聞いても肉は別腹としか言わないし…………。


そんなデザートは別腹みたいなノリで言われましても。

デザートはともかく、肉ってめちゃくちゃ主菜ですけどね。

相変わらず女子の別腹理論は分からん。

もはやお腹の中にブラックホールでも住んでいるのでは………?

むしろそう言われた方が納得できる気がする。



「あ、メアリーさんじゃないですか!こんにちは、メアリーさんも参加していたんですね」

「おや、八百屋の(せがれ)じゃないか。あんたも食べてくかい?」

「ぜひ!」



向こうからやって来たのは、八百屋兼農家を営んでいる一家の息子さんアレク。

ほら、この前畑で会った子ね。

彼のうちでは家の後ろにある畑で野菜を育て、それを同時営業の八百屋で売っている。

ありがたいことに、直売だから新鮮な野菜がとても安く手に入るのだ。



「あの、剣聖様。少しよろしいでしょうか」

「ん?どしたの?」



魚肉が焼ける合間に、困ったような表情のアレクが話しかけてきた。

何やら畑で少し困った事態が起きたそうで。



「実は最近、うちの畑の野菜を焔狐(ほむらきつね)が盗んでいまして………。せっかく剣聖様のおかげで立派に育ったのに、それが次々と傷つけられてしまっているんです」

「ふむ………罠とかは仕掛けたの?」

「はい、仕掛けました。ですが、次の日に見たら壊されていました。どうやら、相当頭のいい焔狐のようです………」



なるほどなるほど。

焔狐か………近くの森から迷い込んだのかな。

もしくは食料が無くなって止むを得ず人里に来たか…………。

前世でも………特に北海道では、狐は農家の天敵だったからな。

こっちでもそれは変わらんのか。



「よし、分かった。とりあえず今日、俺が罠をしかけて、また明日見に行くよ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」






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