創造神ノエル(3)
「な、何故!?はっ、まさか!すでに意中の相手が居るのか!?ズルいズルい、ズルいのだ!ワタシも交ぜるのだぁ!!」
「ぐえっ!?ちょ、ちょっと待って、最後まで話を………!」
衝撃から復活するとすぐに服の襟首を掴んで前後にぐわんぐわん揺さぶり、涙目でそう訴えてくる。
「うぅ、こうなったら八つ当たりで神雷を落としまくってやるのだぁ!」と、世にも恐ろしい事を言っている。
だが待って欲しい。
俺の話にはまだ続きがある。
そう言いたいのだが、前後に振られる動きが激しすぎてまともに口を開けない。
と言うか、開いたらきっと舌を噛んでとても痛い目に遭う。
それでも頑張って訴え続け、やっとの思いでノエルの揺さぶりから逃れた頃にはすでに俺はグロッキー状態だった。
うぷっ、気持ち悪い…………。
しばらく天を仰いで呼吸を整え、だいぶ具合が良くなってから体を起こす。
「ええと、続きを言うね?」
「………ぐすん…………分かったのだ」
「さっきも言ったけど、俺はまだ結婚できない。理由は、ノエルのことをまだ何も知らないからだ」
ムスッとしたノエルの顔が、徐々に涙目に変わっていく。
相手が幼女なだけにものすごく心苦しい気持ちでいっぱいだが、俺はその気持ちをグイッと押し込んでさらに言葉を重ねる。
「──────だから、俺はノエルのことをもっと知りたい。虫のいい話かもしれないけど、これから一緒に過ごしてノエルの良い所も、悪い所もいっぱい知って。そして、ノエルのことが大好きになったら……………俺からもプロポーズさせて欲しい」
俺はぽかんとした表情のノエルの瞳に溜まる涙を拭い、片膝をつきながら彼女の右腕を取る。
これは、俺なりのケジメだ。
確かにノエルとはたった一度であったがとても濃い一日を過ごした。
そこでの出来事は今も尚、素晴らしい思い出として俺の中に残っている。
しかし俺はノエルの事をまだその日に目にしたことしか知らないのだ。
まぁ、それでも不思議と惹かれているので完全に言い訳でしかないのだが…………。
一時の感情に任せず、しっかりと彼女を知り好きになった上で生涯のパートナーとなりたい。
そんな俺のある種の願望である。
第一、ここでノエルのプロポーズを受け取ったとしても、俺はノエルが俺に与えてくれるのと同じくらいの愛情を彼女に返せるか不安だ。
こんな状態では、本当の幸せには到底届かないはず。
だから──────。
「俺に、時間をくれ。きっとノエルを好きになってみせるから」
自分勝手で情けないかもしれないが、これが俺に出来る唯一の方法だ。
そんなの嫌だとノエルに断られてしまえばそれまで。
緊張のせいで自分の鼓動がうるさいくらいによく聞こえる。
今まで女の子と話すことすらあまり無かった、恋愛初心者の俺がする一世一代の告白。
目の前の幼女は、まだ呆然として俺を見つめたまま。
不意に、ノエルが口を開いた。
「…………やっぱり、マシロはズルいのだ。そんな風に言われたら…………待つしかないのだ。だが、約束だぞ?必ずワタシを好きになるのだ!もちろん、ワタシもマシロに好きになって貰えるよう頑張るのだ!」
「うん…………。ありがとう、ノエル」
俺は先程とは違う意味で涙を流すノエルを抱きしめる。
この日を境に、俺とノエルの共同生活が始まった。
お互いをもっと好きになるための新しい日常だ。
とは言っても、最初の数日は転生と新居の建築などであっという間に過ぎていった。
わざわざ転生したのは、ノエルと出会った空間は"神界"と呼ばれる神々が住む世界の一角で、住むにはちょっと神聖すぎる。
……………"神聖すぎる"なんてパワーワード初めて使ったわ。
かと言って死人の俺を地球に戻す訳にも行かないので、転生という形でファンタジーな異世界に移動したのだ。
実はそこまでの作業が一番大変で…………。
最高神たるノエルが現世へ降りるということで神界は大騒ぎ。
「仕事を押し付けるな」やら「私より先に結婚するとか許せない!」やら、神々の皆さんからは祝福のお言葉(?)を戴いた。
なんやかんやで皆、祝ってくれたのが嬉しかった。
神様ってほんとに良い人だらけ…………やばい、感動して涙出てきた。
あ、一番大変なのはこの先。
ノエルは神様達にとても好かれていた…………と言うかマスコット的な扱いを受けていた。
そのため、「お前のような軟弱な男にノエルを任せられるかぁ!」と、神様直々に俺の修行までしてくれたのだ。
そこで婚約破棄に行かないあたり、神様達の優しさが透けて出ている。
おかげで剣神、武神、魔法神、料理神など多数の神様に直接教えを乞うことができ、結果として明らかに人間を卒業してしまった。
時空神さんの力によって、実質三日で行われた約十年分の修行。
時間の進む速度を一定範囲内だけとんでもない倍率で引き下げてうんたらかんたら………。
要は精神と時の部屋よ。
神様ってすげぇ。
修行は苦しかったけど、これも二人の新生活のためと思えば頑張れる。
そして、ついに神々に見送られ異世界転生。
皆さん、ほんとにお世話になりました。
ちなみに転生後の俺の容姿は十六歳頃のものに戻っていた。
実はこれはノエルと出会った時の年齢で、一番二人がしっくりくる姿だったからだ。
さらに俺の体は神様が直接再構築した事で大いに神気(神様の力)を内包しているらしく、とんでもないチート性能に仕上がったそうだ。
ほら、神器を作る過程と似てるって考えると、そのやばさが分かるよね…………。
なんか髪色も白になって赤眼だし。
密かに厨二病心を刺激されて辛い。
いつか某ライダーのように自分自身が神器になってしまわないか不安だ。
…………まぁそれは一旦置いておいて。
また、ノエルの加護で不老不死も得た。
これで彼女と真の意味で永遠に一緒という訳だ。
異世界で新しい生を受けて最初にしたのは、俺達の新居作り。
だだっ広い草原だか丘だかに転生した後、近くの森林から木材を拝借して一から建築し、数日の間に立派な二階建ての家が建った。
二人で暮らすには結構広いが、いつか仲間を迎えたいと思ったのでそういう設計にした。
まず新居の初めてのお客さんは、なんと数日前別れたばかりの神様達だった。
結婚祝い…………というのは建前で、気軽に現世に降りられる場所と理由が出来たから早速遊びに来た、とのこと。
ノリが軽い!
結婚後に友達や家族が家に遊びに来るのって、きっとこんな感覚なんだろうなぁ。
剣神さんからは餞別で珍しい剣を一つ貰った。
曰く彼女のコレクションの一つで、何年使ってもサビないという特性を持った一級品らしい。
何から何までありがとうございます…………。
そして、そんな慌ただしい日々も終わり、二人の間でさりげなく目標に掲げていたスローライフが始まった。
お互い前は何かしらに追われる生活をしていたので、今度はゆっくりまったり人生を送りたかった。
〜三週間後〜
「おーい、ノエルー!」
「マシロ、どうしたのだ?」
「……………ここに置いてあったクッキー、知らない?」
「ギクッ………い、いや、その…………わ、ワタシは知らんぞ!?きっとマシロが食べたのを忘れただけなのだ!」
「ノエル、口の端にクッキーのカスが…………」
「えっ!?ど、どこなのだ!?ちゃんと取ったはずなのに──────あっ」
「…………ノエルさん?」
「…………ま、マシロが作ったお菓子が美味しいのが悪いのだ!ワタシは悪くない!」
「あ、こら!あんだけお菓子食べすぎないように言ってたのに…………!」
冷や汗ダラダラの盗み食い犯は、そんな言い訳をしてドタバタと逃げ出した。
やれやれ…………。
とまぁこんな感じで、新生活は上手く(?)いっている。
コンコンッ!
お、どうやらお客さんが来たようだ。
はいはい、今行きますよ〜っと。
持っていたお皿を机に置いて、俺は玄関のドアを開いた。
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最後に。
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