復活した原初の悪魔
「……………」
ほとんどがパズルのピースのように剥がれ、すっかり色を失ってしまった世界の中で。
たった一箇所だけ、女性が佇む場所だけが淡く儚い現実を残していた。
半径二、三メートル程の小さな空間だ。
それすらも端から徐々に歪んで色が剥がれてしまっているため、そう長くはもたないであろう事が見て取れる。
ゆるふわブロンド髪の女性──────レイは言葉に表せない感情を胸に、空に映る光景を見つめていた。
相対した少年と幼女がそっくりな純白に包まれて、神々しい姿に変化。
ついに視点の主と激しい衝突を始めた。
「やっと…………ここまで辿り着きましたね………」
そう呟いたレイの顔はどこか寂しげで、切なさに満ちていた。
自らが手塩にかけて育て全てを託した少年が、ここまで成長し世界を救うために戦っているのだ。
嬉しくない訳が無い。
だが、自分にはそれを素直に喜ぶだけの資格は無いのだとつくづく思う。
ここに居ても、外界でどれだけの数の"声"が消えてしまったか嫌でも分かる。
全ては自分の不甲斐なさ、そして甘さが原因である。
だからこそこれで終わりにしなければならない。
マシロとノエル。
彼らに殺されて初めてやっと全てが解決する。
やっと安心して死ぬ事が出来るのだ。
……………マシロには酷い思いをさせてしまうだろう。
恨まれるだろうか。
憎まれるだろうか。
この世界で生きる上で、唯一の希望だった娘のスゥからも嫌われてしまうはずだ。
実の娘すら置いてけぼりにして…………母親失格も良いところ。
ごめんなさい………。
本当にごめんなさい……………。
一体何度謝罪の言葉を口にしたか。
これしきの事で許される罪では無いのは重々承知している。
全ては己の死で贖うつもりだ。
だからもう少しだけ…………"完全な死"が訪れるその時まで、生きることを許して欲しい。
◇◆◇◆◇◆
戦いの幕が切って落とされてから間もなく。
俺と原初の悪魔はそろって目を見開いた。
視線が向かったのは、俺の隣で向かい合わせた手のひらの間にとんでもない神気を凝縮させ、キラキラとスターダストのような煌めきを放つノエル。
凄まじいエネルギーの嵐が渦巻き、スパークしてバチバチと稲妻を迸らせる。
一点に集中していた極限の光が瞬いたと同時に、ノエルの不敵な笑みを照らしてそれは解き放たれた。
「"ゴッド・ノヴァ"!!!」
音すら置き去りにした極光が空間を軋ませ原初の悪魔に迫る。
間違いなく本気の一撃だ。
原初の悪魔の表情から笑みが崩れ、同様に俺も口元がキュッと引き結ぶのを感じた。
だってこれ…………確実に隣の俺すら巻き込まれる規模の攻撃なんだもん。
ツッコミを口にするよりも先に視界が閃光で染め上げられる。
「ぐっ………!!」
しかしなんと、あろう事か原初の悪魔は片手でそれを受け止めてしまった。
接した手のひらを境にバチバチと二色のエネルギーがせめぎ合って荒れ狂う。
ジュワッ………!と通常人体からするはずのない音を奏でて消滅し始めた己の左腕を細めた瞳でちらりと見ると、原初の悪魔は小さく舌打ちをしてさらなる魔力を滾らせる。
そうして破壊と再生を繰り返す手で光を握り潰した直後、瓦解し内包していた神気が爆発的に膨れ上がった事で世界がほんの一瞬だけ純白に染った。
徐々に周りから色を取り戻した荒野には入れ替わりで大規模な粉塵が立ち上る。
"ゴッド・ノヴァ"の軌跡は大地を一直線に削り取って大いに刻まれており、余波だけであちこちが酷い有様になっている。
「……………くくっ、さすがは原初の神と言ったところか」
正面の粉塵を拡散させて姿を現した原初の悪魔は、左腕が半ばから焦げて消失していた。
ノエルの本気の一撃を持ってしてもこの程度のダメージしか与えられないとは…………。
さらにその僅かな希望を嘲笑うかのように、白煙が立ち上りあっという間に左腕が再生してしまった。
不老不死という訳では無いが、そう見間違うほどの凄まじい回復力。
素体の再生能力に加えて、軽い回復魔法を使っただけで無くなった腕が生えたのだ。
彼女の背後に立ちこめていた粉塵が捌けるにつれて、覆い隠されていた扇形のクレーターも明らかになった。
数百メートルに届こうかとさえ見える尋常じゃない規模。
尚更、片腕で済んだ原初の悪魔の異常性が際立つ。
「…………ノエルさんや、近くに居た俺まで危うく巻き込まれるところだったんですけど?」
「ふっ、安心するのだ!マシロだけには絶対に当たらないように調整したからな!」
「いやまぁ確かに怖いくらいかすりもしなかったけども」
サムズアップするノエルの言う通り至近距離に居たにも関わらず、余波だけでなく溢れ出した閃光すら俺を避けるという謎現象のおかげで、一ミリたりとも影響が無かった事は事実だ。
なんなら巻き起こった粉塵からも守ってくれたし。
ちゃんと考えた上でぶっぱなしてたんだな、とはなった。
だけれども。
なんかこう…………あまりにも平然とやってのけているが、あまりにも意味の分からない現象ではないか?
なんだ"余波や閃光がピンポイントに避ける"って。
特に結界や魔法を使ったりしてないんだよ?
個人が制御するには明らかに物理的に不可能であろう事象をこうしていとも簡単に行えたのは、当の本人曰く「愛の力」だそうだ。
ノエルの愛が重すぎて辛い。
「む?」
不意に俺とノエルを覆い隠しても余りある巨大な影が差した。
無言で右手の剣を薙ぎ払うと、頭上で炎弾や竜巻など複数の魔法が軽々と弾け飛んだ。
残骸がほんの少しでもノエルに触れないように半身で庇いながら、剣技スキルを発動。
懐のノエルを抱えつつ、回転と捻りを加えた横薙ぎの斬撃で魔法の弾幕の中を豪快に突っ切る。
しかしさすがに層が厚かったため向こう側に辿り着くことは叶わず、半ばで勢いを取り戻した魔法の嵐に囲まれた。
押し寄せる殺意の塊にはキリがない。
「原初の神よ、ささやかなお返しだ」
美しい指がタクトのように振るわれると共に、原初の悪魔の背後にある魔法陣が僅かに形を変化させた。
内側の円の中にさらに小さな円が構築され、そこに見たことがない言語だか記号だかで複雑な術式が刻まれたのだ。
新たな魔法陣にエネルギー源である漆黒の魔力がパリッと迸る。
そのスパークが肥大化すると同時に、弾幕の質と量は全く衰えることなく極太のレーザーが放たれた。
しかも五つ。
自分が放った魔法の数々を自らで呑み込み空を眩く照らす。
「マシロ!」
「はいよ!」
場所などの関係で到達までに僅かに時間差のあったレーザーの内、一番近いものを両断。
剣を斜めに振り上げた勢いすら利用して、抱き抱えていたノエルを開いた閃光の峡谷目掛けてぶん投げた。
余波でレーザーの一つは完全におしゃかだ。
流星のごとき着地で凄まじい亀裂を大地に刻み、原初の悪魔と殴り合うノエルに目を向けながら、俺は残りのレーザーも素早く粉砕。
引き受けた大半の弾幕の間を滑らかにすり抜けて、時には粉砕、時には上手く互いに衝突させて相殺させながら上空へと舞い上がる。
もちろんキリが無いので全てをどうにかするつもりは無い。
再び魔法陣が変化して襲いかかってきた重力を神気で跳ね除けると、弾幕の密度なんかお構い無しで正面から粉砕して一気に拳と剣を交える二人の原初の元に。
タイミング良くノエルが漆黒の剣を蹴り上げたおかげでガラ空きになった胴体に、強烈な斬撃をお見舞した。
かなりのスピードを出していたため接地した瞬間に凄まじい粉塵が進行方向に巻き上がり、踏みとどまるために力を込めた足元に深い亀裂が走る。
振り返った視線の先では胸元から出血する原初の悪魔の姿。
瞳が鬱陶しそうに細められている。
俺は砕けた地面をさらに踏み砕いて剣を振り上げた。
──────ギィイイイイインッ!!
右腕に強い衝撃を感じると同時に凄まじい金属音が響き渡る。
二種の漆黒の剣が衝突して散った火花が頬を掠め、それがまだ消える前に肉薄した俺と原初の悪魔は強烈な鍔迫り合いを繰り広げる。
あまりの力に耐えきれなかった大地に亀裂が走り崩壊。
両腕で柄を握る俺に対して、原初の悪魔は片手なのに余裕で対抗していた。
「人間にしてはやるではないか」
一応お褒めの言葉らしいが、嘲笑と一緒に言われたところで嬉しくも何ともない。
一瞬の隙を見抜いて剣を跳ね上げ無数の剣閃を浴びせる。
しかしその尽くが何故か踏み込みの割りに浅いダメージしか与えられず、軽く表皮を切る程度に収まった。
まるで切っ先しか届いていないかのようなお粗末な攻撃だ。
「我を誰と心得る?汝の攻撃など効くはずもあるまい」
体の傷を瞬時に回復させながら放ったのは、黒い炎で構築された無数の槍。
弾幕と重なって原初の悪魔の背後に生成された黒炎槍が激しい雨のように俺の頭上に殺到して降り注ぐ。
「ぐっ………!?」
魔法と剣技でなるべく防いだが、やはり全てを回避することは困難で腕や腕など複数の場所に槍が突き刺さったり掠ったりした。
やっと雨が止んだ頃、不意に視界の隅にメラメラ揺らめく黒い何かが映り込んだ。
ばっ!と咄嗟に視線を向けると、なんと肩の傷口から黒い炎が発火し揺らめいていたのだ。
瞬時に傷付近を切り落とそうと剣を握る手に力が篭もるが、それよりも先に。
爆発的に膨れ上がった黒炎が俺を呑み込んだ。
それがトリガーとなって全身の傷からも同時に発火して、凄まじい規模の炎が盛大に燃え上がる。
「ふふっ、いつ見ても美しいな…………この炎は」
獄炎に照らされた原初の悪魔の愉悦を含んだ笑みは、傍から見れば美しい事この上ない。
一部の人間からしたら新しい扉を開いてしまいかねない凶悪な笑みだ。
そんな原初の悪魔の頬に遠慮容赦の無い渾身の拳がめり込む。
「ふんっ!」
かなりえげつない音がして大きく頭部を横に揺らした原初の悪魔。
だがすぐに襲撃者であるノエルの体を掴むと、ピタリと触れた手のひらから数十に枝分かれした稲妻を直接放出。
彼女の華奢な体を貫いて迸った稲妻の群れがドラゴンもかくやの咆哮を轟かせる。
バリバリッ………!と大気に走った余波を切り裂いて漆黒の剣が横からノエルを強襲した。
ところがくの字に折れ曲がっていた体を瞬時に立て直したノエルは迫り来る剣を片手で掴み、ギリギリと押さえ付けたままアッパーカットを腹にお見舞い。
剣の拘束が外れる直前にしゃがんで攻撃を回避すると、溜めていた神気を手のひらに集束させ放つ。
「所詮、虚仮威しの攻撃よ!」
原初の悪魔が放った極光がノエルの極光と衝突して相殺された。
弾けた光と熱風が互いの髪を激しく揺らす中、原初の悪魔の命によって構築された新たな魔法陣が四つ。
ノエルの周囲を旋回していたかと思えば、途端に発光して中央部から細いレーザーを吐き出した。
触れただけで地面が溶解するほどの熱が篭ったレーザーがノエルの腹を貫く。
「…………ッ!!」
内蔵が焼かれる痛みは想像を絶するものだ。
上手く体を捻りながら躱し続けるものの、追尾式らしくどれだけ動いても魔法陣が永遠に追ってきて逃れることを許さない。
「よく避けるな。…………ふぅむ、ならばこれでどうだ?」
追加で別の魔法陣が十二個。
初めの四つの外周を衛星のように旋回するそれは比較的小さな魔法陣であったが、しかしそこから飛び出した殺意はレーザー以上だった。
四方八方、あらゆる方向から四本のレーザーに混じって細い十二本の光線が放たれた。
威力が無い分、速度に振っているらしくレーザーよりも先にノエルの元にたどり着いた。
しかしその速度を持ってしてもノエルを捉えることは難しく、数はあれど避けるのは簡単───────のはずが。
「むっ!?」
通り過ぎた光線がカクッと進路を変更。
それを不規則な方向に何度か繰り返して、なんと自らノエルの回避方向に軌道修正したのだ。
しかもそれを行ったのは一本だけでなく、全て。
再び殺到した十二個のレーザーがさらに複雑になった軌道でノエルを穿つ。
当たったのは左脚に一個。
それ以外は辛うじて粉砕することに成功した。
加えてダメージも速度に振っているためかそこまで大きくない。
追って迫るレーザーを回避しようと足を踏み込んだ瞬間、ノエルは異変に気づく。
左脚が痙攣するだけで動かないのだ。
目を見開いた途端にノエルは四つのレーザーの群れに呑み込まれた。
「はあああっ………!!」
入れ替わりで、内側から神気を放出して黒炎を弾き飛ばすと原初の悪魔に光の速さで肉薄。
降り注ぐ弾幕を同じく全ての属性の魔法で近寄らせないようにしつつ、渾身の逆袈裟斬りで胸元に深い斬撃を刻み込む。
今度こそ手応えからしてもかなり良い攻撃だったはずだ。
しかしそれでも与えられた傷はさっきよりも少し深い程度。
感じた手応えには程遠い。
ならば。
「"不知火"ッ!!」
今以上の神気を剣に纏わせ振り下ろす。
本来ならば相手を両断する規模のどデカい斬撃が、今度こそ原初の悪魔の肩口に深い軌跡を刻んだ。
余波で背後に深い溝が刻まれる。
五階建てのビルもかくやの高さで巻き上げられた粉塵をバックに、原初の悪魔は傷口から頬に飛び散った自分の鮮血を親指ですくい取り、ぺろりと舐める。
その仕草がいやに艶かしい。
「なるほど。これは興味深い」
ジュワッ!と白煙が立ち上り再生する最中、胸の前で構築された魔法陣から謎の球体が召喚された。
極小の惑星にも見える漆黒のそれはふわふわと浮かんだまま朧気な環を作り上げる。
木星のようなその環が出来上がった途端。
俺は凄まじい引力に胸ぐらを掴まれ、気付いた時には黒い惑星の目の前に居た。
体が引きちぎれそうなほど強烈な引力。
惑星を挟み向かい合った原初の悪魔と視線が交差する。
直後、今度は下に向いたとてつもない重力を感じて跪くと同時に、無蔵座に振り上げられた斬撃が肌を撫でた。
斜めに刻まれた傷から血と臓物がまろび出る。
あんな軽々しい斬撃からは想像も出来ないくらい深く斬られたらしい。
斬撃を喰らった張本人である俺ですら、浅いと誤認してしまうほどあっさりとした斬撃。
それなのにこれほど…………。
がぼっ………!と吐血しながら俺も剣を振り上げるが、逆らうことすら困難な重力で押さえ付けられ速度が出せないため、簡単に防がれてしまった。
鍔迫り合いと言うのもおこがましい、添えるだけの防御。
カタカタ震える剣は果たして重力のせいか怒りのせいか。
「マシロを離すのだ!」
漆黒の剣の柄を蹴り上げて乱入したノエルが重力を感じさせない動きで、おそらく元凶であろう惑星を粉砕。
それに伴ってあれだけ重かった重力があっという間に消え失せた。
不老不死の効力で傷を塞ぎながら俺もノエルに続いて斬撃を繰り出す。
神気で作った光の剣と"闇吹雪"の斬撃がクロスで刻まれ、原初の悪魔は僅かに後ずさった。
…………けれどもその頬に浮かべた笑みは健在だ。
「良いぞ、そうやっていつまでも抵抗したまえ。我に抗うことが無意味だと悟るその時まで」
足元に半径五メートル規模の巨大な魔法陣が展開。
そこから何本もの光の鎖がジャラジャラと音を立てながら蠢き、俺とノエルの体に巻きついて動きを妨害する。
どうやら鎖自体にも別の魔法が付与されているようで、触れた瞬間に神気を吸収し特殊な結界術で拘束を強めた。
「"黒荆"」
原初の悪魔の手に集まっていた吸収された神気が魔力と混ざって真っ黒に染まる。
渦巻いたそれは刺々しい荆となって無数に分岐、俺とノエルの体を突き刺し、引っ掻き、血の雨を降らせる。
視界を遮る荆の向こうで何かが瞬いたかと思えば、直後にノエルの付近の荆が不自然に膨らんだ。
「おおっ!?」
漆黒の荆を突き破って姿を現したのは風刃の混じった竜巻。
殺意マシマシの渦に攫われ近くの岩壁に叩き付けられた。
瓦解し粉塵が巻き上げられる光景を尻目に俺は荆を引きちぎり、自由になった右手の剣でいつの間にか目の前に転移していた原初の悪魔の一撃を受け流す。
至近距離で睨み合う二人の体を、それぞれが放った氷結と雷撃が同時に襲う。
原初の悪魔は凍った右腕を中心にギシッ………!と動きが制限され、対して俺は迸った雷虎に肩を噛み砕かれ痺れと痛みで左腕が動かなくなった。
ほぼイーブンなダメージだ。
だが修復が早かったのは原初の悪魔。
瞬く間に腕の氷が溶けて何事も無かったかのように俺の懐に潜り込む。
先程まで氷漬けにされていたはずの右腕には凍傷の痕はおろか、美しい肢体には水滴一つ付いていない。
原初の悪魔は吐息がぶつかる程の距離まで顔と体を近付けると、痺れで顔を顰める俺の腰に手を置いて抱き寄せつつ、人差し指で顎をくいっと持ち上げる。
身長差故に少し傾いた原初の悪魔のブロンド髪が視界の端に垂れ、蠱惑的な瞳が逃げ場を無くした俺の瞳をがっちり捉えた。
「…………面白い体をしているな。実に興味を引かれる。どうだ、我の玩具にならんか?そうすれば汝だけは助けてやろう」
「逆に"はい"と言うと思ってんのか?」
「いいや?聞いてみただけだ。生きたままの方がより面白いだろうが…………ならぬと言うのなら、仕方あるまい。死体で我慢するとしよう」
抱きしめたまま少し残念そうに首を振ると、唇と唇の間に立てた人差し指からバチバチと閃光が火花のように散って自由気ままに飛び回る。
一見綺麗な線香花火のような光景だが、しかし。
背筋がゾッとするものを感じて、すぐさま距離を取るべく接した胸の上で魔法を爆発させた。
「言ったはずだ。汝らの攻撃は効かんと…………次元が違うのだよ。我と汝らでは───────」
咄嗟だったため威力は中々にお粗末で、お互いに胸元から白煙を立ち上らせながらも既に再生が始まっていた。
俺よりもひと足早く修復が完了しつつあった原初の悪魔が「相変わらず学ばない」、とでも思ったのかやれやれと肩をすくめる。
だが直後に何かを感じ取ってピクリと眉を動かした。
向けた視線の先では、実は先程さりげなく追い打ちで放っていた雷虎の群れが何かに集る光景。
瞬きする間にそれが弾けた。
目が見開かれる。
次の瞬間。
「マシロに近付きすぎなのだっ!!」
「っ、ゲハッ………!!?」
一筋の閃光のごとき煌めきと共に神速で駆けつけたノエルのドロップキックが、防御する間もなく原初の悪魔の土手っ腹にめり込んだ。
さっきまで次元がどうとか語っていた彼女の障壁をまるで紙切れのように吹き飛ばし、それはもう盛大に吐血させた。
ソニックブームを発生させる勢いでぶっ飛んだ原初の悪魔は近くの岩壁をいくつもぶち破って、地面を何度もバウンドして遥か彼方で途方もない粉塵を巻き上げる。
ドロップキックが命中した瞬間にさらに力を込めて蹴り、その場で一回転し見事に着地を決めていたノエルはズビシッ!と人差し指を突き立てて再び吠える。
「マシロをっ!誘惑して良いのは、ワタシ達だけなのだッ!!」
「力強い………」
まさに力説だ。
肩を揺らして荒い息を繰り返しながら、尚も堂々と薄い胸を張って自らの主張を押し通さんとするノエルさん。
色々と構いたい衝動に駆られるが、それよりも先に遥か向こうで一気に粉塵が晴れて凄まじい闇が露わになった。
「ごほっ………!貴様っ、よくもぉお!!」
渦巻く闇が二対の翼となってはばたき、主人を上空へと連れて行く。
転移させた巨大魔法陣を再び背後に携え浮かぶ原初の悪魔は大層お怒りのようだ。
ドロップキックで受けた傷がまだ完全に修復出来ていないようで、ズキンと傷んだのか顔を顰めつつ腹部を押さえる。
雑に唇の血を拭うと、剣を空に掲げ魔法を発動。
より高密度になった弾幕と強大な古代魔法の嵐、そして天を覆い隠すほどの蒼い炎の塊が大地に降り注ぐ。
「遊びは終わりだ!粛清してやるぞ、常人どもっ………!!」
実は完結まであと9話です
今日は18時頃にも更新しますので、こちらもぜひ