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西国最強の国王





「…………どうするよ、団長。お互い因縁の相手だぜ?」

「いやいやアヴェイン君、察しの良い君なら分かってるんじゃないかな?」

「ほ〜ん?」




西国最大級の広さと国力を誇るアズベスト王国の王都壁外にて。

横に並んだ国王と聖騎士長は、立場やら状況やらを完全にガン無視した軽い調子で会話を続ける。

お互いに古い仲だからこそ許される会話の節々のジャブをいなしながら、聖騎士長アヴェインはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。



「んじゃそれで決定なっ。前みたいにとんでもねぇ場所に連れてったら今度こそ埋めんぞ」

「ふっ、あの店は穴場だが後悔はさせないで有名なんだぜ?」

「おっしゃ任せろ♪」



見るからに上機嫌になったアヴェイン君は軽くトトンッとステップを踏んだかと思えば、途端に姿を消しいつの間にか遥か向こうを跳んでいた。

左手には、何が何だか分からない様子で目を見開く騎士風の男が。

どうやら甲冑の隙間に指を突っ込んで強制連行したようだ。



「…………と、同時に後悔してる間は店から出させてくれないんだけどな」



完全にアヴェイン君が見えなくなった頃合いを見計らってボソッと付け足された、あまりにも非情すぎる情報。

舌を覗かせながら「やべっ、忘れてた」みたいな雰囲気を醸し出しているが、もはや完全にわざとだ。

これで後でアヴェインから問い詰められても「え?言いましたけど?」と言い訳ができる。

一応嘘ではないのだから尚更タチが悪い。


これが国王の姿か?

そんな疑問が湧く悪い笑みを浮かべていたランスロットだが、その表情もいつしか元に戻り、俯いてガシガシと後頭部をかく頃にはむしろいつも以上に鋭い気配を発していた。

どこか悲しさを含んだ瞳で残ったもう片方の敵に向き直る。



「…………さてさて、こっちは楽しい同窓会と行きますか」

「"楽しい"だと?ふざけるなっ、()()()()()………!!」



抑えきれない怒りに拳を震わせランスロットを睨む金髪の青年。

きっと普段は爽やかなイケメンと思われているであろう端正な顔立ちは、今やランスロットに対する怒りに染まり剣呑さを帯びていた。

長身であるがためにランスロットを見下ろす形で青年は腰の剣を引き抜く。



「何故()()()、君は急に姿を消したんだっ…………!どうして、そちら側に立っているんだ………!?」

「…………変わっちまったのさ、()()()()()()

「…………?意味が分からない…………僕達があの時負けたのだって、君が居れば─────」

「まだそんな事言ってんのか。あの時負けちまったのは、俺が居なかったからじゃねぇ…………()()()

「…………黙れっ。お前のせいで皆がどれだけ苦しんだか………!ランスロット………裏切り者のお前はっ、お前だけは!僕が倒してみせる!!」



胸の前に掲げたロングソードに宿る眩い光が分裂して、青年の背後で複数の光弾を作り上げる。

ふわふわと円を描いて浮かぶそれは、青年の命令によって次々とランスロットの元に殺到した。



「よっ」



視界を埋め尽くすほどの弾幕を、ランスロットは手刀で……………しかも右手だけで楽々捌いてしまう。

これくらい彼にとっては朝飯前だ。

魔力を纏わせた一閃で弾幕の中に斜めの通り道を作り、飛ばした斬撃を避けて正面から間合いに踏み込んだ青年が振り下ろさんとするロングソードを──────。



「あぶねっ」



直前で何とか踏みとどまり、膝から上を可能な限りギリギリまで後ろに倒す。

すると紙一重の位置を鋭い閃光が通り過ぎてランスロットの代わりに大地にその跡を刻み込んだ。

ハラハラと切り落とされた金色の毛先が宙を舞う。


正面から迫っていたのは青年の能力で生み出された虚像…………本体は密かに横から接近していたのだ。

崩れた体勢のまま右手を地面につけ、遠心力を乗せた回し蹴り。

硬い感触が返ってくるはずが何の手応えも無く空を切った。

驚く間もなく、背後から凄まじい速度の斬撃が降り注ぐ。



「おいおい、随分と速度が上がったじゃないの」

「当たり前だ!僕は君を倒すために、血のにじむような努力をした………!」



確かに命中したはずの手刀が空振り、代わりに左下から振り上げられた猛烈な一撃がランスロットを吹き飛ばす。

一度地面をバウンドしてからすぐさま宙返りして着地すると、その時には既に背後から眩い閃光が振り下ろされていた。




───────ズゥウウウウンッ!!




広範囲に亀裂が走り、それに伴って大量の土埃が巻き上げられた。

天然の煙幕から跳び出したランスロットを先回りしていた青年が鋭い突きで迎え撃つ。

切っ先がランスロットの肩をカスったことでぐらりと体勢が崩れ、その隙に懐に入りんだ青年は渾身の力を込めて袈裟斬り。



「今までの僕と思って舐めるなよ………!」



土埃を押しのけて大地に激突。

ひび割れた瓦礫が衝撃で浮かび上がる。

しかし当の本人には大したダメージも入っていないようで、ポンポンと服についた土を払って起き上がり、にひっと笑みを浮かべながら青年を見上げている。

その姿が気に食わなかった。


青年は光の速度でランスロットの背後に降り立つと、まずロングソードを横薙ぎに。

予想通り、お辞儀みたいな感じで平然と避けたランスロット向けて光速の斬撃を幾度となく浴びせる。

文字通り光の速度の斬撃を、普通なら避けるどころか察知しろと言う時点で無理難題だ。


ところがどっこい。


その尽くを両足ジャンプやちょっと体を倒したりなど、絶妙にふざけているようにも思える仕草でランスロットは受け流し、また避けている。

青年はギリッ………!と歯を食いしばる。



「何故だ!僕が相手なら剣すら抜かないと言うのかっ!?」

「おっと」



眼前を通り過ぎた切っ先を蹴り上げ、がら空きの胴体に拳を叩き込む。

青年は咄嗟に左腕でガードしたものの鎧の手甲が粉砕されてしまった。

いや、むしろ安いものだ。

たった手甲一つでランスロットの攻撃を防げたのだから。

ギシギシと軋む腕に顔を顰めながら、しかし両手でしっかりとロングソードの柄を握って振り下ろす。



「君はっ…………昔からそうだ!なんで誰よりも力を持ちながら、"正しいこと"にそれを使えない!?」



青年の猛攻がランスロットを追い詰める。

やはり光速で動く相手にいつまでも素手で応戦するのは無謀だったらしい。

ついに防御を貫いて斬撃がランスロットの肩口から胸の辺りを斬った。



「なんのっ!」

「無駄だ!」



ぐらりと前のめりに倒れかけた上体を引き上げて青年の顔面を蹴り上げるが、呆気なく空振り。

代わりに背後から殺気が叩き付けられる。

しかし裏拳を喰らった青年は蜃気楼のように霞んで消えてしまった。

虚像に殺気を乗せていたのだ。

目を見開いたランスロットの眼前に、いつの間にか青年の姿があった。


すれ違いざまに鋭い斬撃がランスロットの胸に刻まれる。

ブシッ………!とここに来て初めての出血。

畳み掛けるように振り返った青年は上段から渾身の力を込めて剣を振り下ろす。



───────ズズゥウウンッ………!!



凄まじい地響きと土埃。

しかし青年にとっては残念ながら、これは彼の攻撃が見事にランスロットを斬り大地にもその栄光を刻んだから起きたのではない。

パリッと漆黒の魔力が迸る。



「…………さすがだな」



柄にどれだけ力を込めようと、カタカタ震えるだけで一向に先に進む気配がない。

土埃が晴れて露わになったのはロングソードの剣身を片手で掴むランスロットの姿。

万力で絞め付けられているかのようにピクリとも動かない。



「だが言ったはずだ、以前の僕と同じと思うなと!」

「!」



手首を捻って上手く拘束から抜け出すと、至近距離にも関わらず間合いを感じさせない流麗な剣術で複数の傷をランスロットに与える。

さらに強烈な突きで吹き飛ばすと、ズザザザッ………!と勢いを殺して何とか踏みとどまった彼向けて能力を発動。

するとランスロットの元に眩い光が差し、次の瞬間、魔を滅ぼす光の柱が彼を包み込んだ。



「ぐっ………!」



ジュワアアアアッ!!とランスロットの肌が見る見るうちに焼け焦げる。

通常ならば数秒触れるだけで跡形もなく崩れ落ちるはずなのだが…………さすがの耐久力だ。

しかしこれ以上居るのは不味い。

魔力を解放し、光の柱を強行突破。

ガラスを割るように柱の側面をぶち破って溢れ出した"闇"を右手に集め短剣を作ると、青年にも負けない速度で跳び出し目にも止まらない斬撃を繰り出す。



「"黒電一閃"!!」



漆黒の短剣からバチバチと迸った黒い稲妻を纏った斬撃は、もはや青年の目を持ってしても何回斬られたか分からない程だ。

勘で極限まで受け流したが、やはり完全な回避は不可能で体の各部から勢いよく血が溢れる。

痛い。

だが痛みでは青年は止まらない。

顔を若干顰めながら振り返って剣を振り上げる。



「"黒炎"」

「ッ!?」



放たれた黒い炎が剣と衝突して存分に燃え上がる。

斬れないだけでなく視界まで遮られてしまった。

すぐさま能力で消火を図るが、鎧やマントにまで燃え移った黒い炎は一向にその勢いを弱める気配がない。

迷っている隙に、背後から強襲した打撃によって地上に叩き落とされた。


ズズゥウウンッ…………!!


と盛大に土埃が舞う。

しかしすぐにロングソードを振るってそれを払うと、青年は向こうでスタッと着地したランスロットを睨んだ。

対して、漆黒の短剣を片手に魔力を解放したランスロットも青年を睨みながら静かに構える。



「悪いが、負けてやるつもりはねぇ」

「相変わらず…………憎いくらいに強いな、君は…………」



俯いた青年の横顔から垣間見えるのは、焦燥や怒り、憎しみと言った負の感情だけでなく、どこか羨望のようなものもあった。

一体何を羨んでいると言うのか。

本人すら無自覚のこの感情を説明するにはあまりにも言葉が足りなすぎる。



「この魔力…………"()()"()()と言われたあの時から何ら変わっていない…………」



ギシッ………と柄を握る青年の拳に力が入る。

力が強すぎてくい込んだ爪が手のひらを傷付けても、青年はむしろさらに力を込める。

伝った血が地面に垂れた。



「───────僕は、君を超えてみせる」



ぽつりと呟いた言葉を、青年はしっかりとランスロットを見据えもう一度確かに口にした。



「最強と言われた君を、僕は超えてみせる…………!超えなきゃいけないんだっ!!」



突如として青年から溢れ出した圧倒的な光の魔力に、ランスロットは思わず目を見開く。

青年は自らの手で()()への道を切り開いた。






「"大賢者(フォルシュ・ヴァイゼ)"ッ………!!!」








現"賢者"のトップとして相応しい、凄まじいまでの力の嵐。

溢れ出した光の魔力が弛み、波打って天上にまで届かんと立ち昇る。

光はやがて渦巻いて青年の元で集束すると、彼を後押しするように二対の翼と尖った光輪を形取った。



「これが僕の覚悟だ!それでも尚、君は本気を出さないと言うのなら──────このまま僕に殺されてくれ………!!」



ズァアアッ………!!と構えたロングソードから光が拡散し、青年の背後に数え切れないほどの光の塊を生成した。

最初とは比較にならないそれは、やがて彼の持つロングソードに似た形の剣となってこちらに刃を向ける。




「"光の剣(クラウ・ソラス)"!!」



無数の光の剣がランスロットの元に雨のように降り注ぐ。

一度中に入ってしまえば避ける隙さえない光速の豪雨が彼の体に次々と深い傷を残していく。

速度、手数だけじゃなく一発一発の威力も凄まじい。

各々が全てランスロットにダメージを与えられるだけの魔力が込められていた。



「…………分かった」



一度雨が収まり、もうもうと立ち込める土埃の中から確かに聞こえてきた言葉に、待ちわびていた青年は目を見開き、そしてどこか嬉しさを帯びた表情で剣を構える。

彼の視線の先で土埃が何かに押しのけれて四方に抜ける。



「これで最後だ。■■■■■」

「…………ああ。勝つのは僕だ!」



一際煌々と輝く剣と相対するように、ズズッ………と空中に開いた漆黒のゲートから顕現したのは、ランスロットがかつて愛用していた漆黒をその身に宿し短剣。

反りのあるそれを引き抜くと、あの頃の記憶が鮮明に蘇ってくる。

再び視線を上げ青年を見つめるのは、もはやアズベスト王国の国王ランスロットではない。



"()()()()"としてのランスロットである。





「──────"大賢者(フォルシュ・ヴァイゼ)"」




長らく封印していたランスロット本来の力が今、開放された。

全てを呑み込む"闇"を全身に纏ったランスロットは、それを短剣の先に至るまで隅々に行き渡らせると。

双方、合図もなく同時に地を蹴った。

まず光の剣が先行しズドドドドッ!とランスロットの元に降り注ぐが、闇で弾くかそもそも速すぎて当たらないかでまともに命中したものは一つもない。



「うおおおおおッ!!」



極光を放つ剣が斜めに振り下ろされる。

かなり大振りだったのはフェイントも兼ねていたからだ。

避ければ光の剣が追撃するし、受け流したり弾いたりしても光の剣で対処可能。

もちろんそのまま当たれば大ダメージを期待できる。

そんな思惑があった。

しかし、ランスロットはそれを真正面から打ち砕く。



「なっ…………!?」



鋼のように硬い手応え。

地面なんかじゃない。

確かにランスロットの首筋に命中した。

それなのに。


高密度の闇が全てを防いだ。

受け流したり技術を使うまでもなく、単なる圧縮された闇の強度が青年の一撃を上回ったのだ。

驚愕で言葉も出ない青年の懐に潜り込むと、ランスロットはその闇を纏わせた拳を思いっきり叩き込む。



「おおッ!!」



ズンッ!!と凄まじい衝撃が青年の肉体を貫く。

鎧がクッキーのように簡単に砕け、青年は血を吐き出しながらぶっ飛ばされた。

体が軋む程の横向きの力を感じながら地面をバウンドすると、しかしすぐさま片手をついて体勢を立て直し、右手の剣にかつてない光を凝縮させる。

赤黒い夜がすっかり昼間もかくやと言うレベルで照らされる中。

それは振り下ろされた。



「"終刃・万光(ばんこう)赫灼(かくしゃく)"!!!」



両手で掲げた巨大な光を振り下ろすと同時に、青年は目撃した。

全てを呑み込む"闇"が、眩い光をも喰らっていることを。



()()()────────」



極限まで凝縮された光と闇。

衝突し相手の全てを呑み込み大地にその軌跡を刻んだのは後者の方だった。







──────────────────────







"アズベスト王国国王兼、西国連合軍の長"ランスロット


赤髪の少年。元"闇の賢者"であり、かつての主君を裏切って亡命した。その力は"賢者"最強と言わしめるほどに凄まじく、単純な魔力と身体能力だけでも十分に戦える。消せない黒い炎や闇の稲妻、纏う闇などを使って戦う。相手の恐怖によって力を増すという特性もあるため、一度恐れてしまったらもう勝ち目はほぼ無い。大賢者(フォルシュ・ヴァイゼ)すると闇を全身に纏った戦闘モードになり、著しく闇と能力が向上するが、かつての仲間と離反してからはこの力を封じている。





"光の賢者"ヴァイス・リュミエール


現"賢者"のリーダー的存在。根本にあるのは純粋な正義感だが、思い込みが激しく自分のすることが全部正しいと思う悪癖がある。ランスロットに対しては酷い劣等感を抱いており、裏切られた今ではもっとそれが高まっているため何かと突っかかる。「みんなを裏切ったお前を許さない!」と言っているが、個人的な恨みが八割。ご都合主義の典型。能力は「光」であり、主に攻撃に特化している。「悪を根絶する光の柱」や「光の屈折によって相手を惑わせる」技、「光の速度での移動」、聖の魔力を纏った斬撃、普通の浄化能力や大規模魔法なども駆使する。大賢者(フォルシュ・ヴァイゼ)すると二対の光の翼と尖った光輪が現れ、遠距離攻撃の光弾を大量に撃ってくる。他にも光の剣を大量に出現させて飛ばすなど、遠距離攻撃が多くなるイメージ。一人称は僕の金髪美青年。



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