報酬
「はい、それではこちらが"紅魔の魔王"討伐報酬になります」
冒険者ギルドの受け付けにて、そう言って手渡された手のひらサイズの小袋を受け取る。
一見するとダグラスさんから貰った報酬と大差ない量に感じるが、このお高そうな小袋の中に入っている金額はあの時と比べ物にならないほど高い。
なんせこの中には、金銭の中でも一番価値のある白金貨が数十枚もどっさり入ってるからだ。
ちなみに白金貨一枚で日本円にして約百万円。
つまり俺は今、無防備な状態の百万円の札束をいくつも手に持っているという事になる。
…………百万円の札束ってあるんですか?
庶民すぎてその時点から分からない。
いかん、手が震えてきた。
誰だよただの硬貨に百万円もの価値を付けたやつ…………。
こんなの保存しておく側からしたら厄介な代物でしかないだろう。
実際、冒険者ギルドはどうやって保管してるんだろうね。
泥棒とか入られたらヤバいじゃ済まなそうだ。
あまりにも高価なので個人間での取引ではほとんど使われず、製造数も少ないので滅多にお目にかかれない代物らしい。
今まで何回か白金貨を貰ったことはあったが、こんなに沢山手元に来たのは初めてだ。
失くしたらシャレにならん…………早めに【ストレージ】にしまっておこ。
震える手で袋を【ストレージ】の穴に落とし、俺は安堵のため息を漏らす。
「主、どこ行くの?」
「ダグラスさんっていう奴隷商の所だよ」
「分かった」
ギルドから出ると、外で待ってくれていたクロと共にダグラス商館に向かう。
ソウマは先程パーティメンバーだという少女に連れられてどこかへ行ってしまった。
何やら急ぎの用事があったらしい。
『またどこかで!』
と爽やかな笑顔で手を振りながら少女にずるずると引きずられる姿はとてもシュールだった。
ていうか、そんな急ぎの用事とかあるなら先に言ってくれれば良かったのに…………。
本人は「そこまで急いでる訳じゃないから気にしなくて良い」と言ってくれていたが、どうにも申し訳なく感じるのは日本人特有の性なのだろうか。
中央区を通って三区に移動し、賑わう街道の人波に抗うようにして商館を目指す。
……………なんか美味しそうな良い匂いがする。
無意識に匂いを追って視線を向けると、お昼時はもう過ぎたというのに大行列のできている牛串屋さんを見つけた。
ジュージューと音を立てて焼ける牛串がとても美味しそうだ。
そういやお昼ご飯食べてなかったな…………。
白米に合いそうな香ばしい匂いが空腹を刺激する。
途端にぐぅ〜、と間の抜けた音が二つ。
「…………お腹空いたね」
「…………ん、お腹空いた」
二人して顔を見合わせると、いそいそとその列の最後尾に並んだ。
この行列だから結構時間がかかると思っていたが、思いのほか早く進み、十五分程で俺達の番が回ってきた。
銅貨五枚を渡して、気のいい男前な店主から四本の牛串を受け取り、近くにあったベンチに腰かけて食べることにする。
牛串四本で約五百円か………………相変わらず安いな、こっちの物価。
どこで何を買うにしても、全体的に地球と比べて少し安い気がする。
四つのうち二つをクロに渡すと、両手に串を持って早速片方の肉にかぶりつく。
小さい口いっぱいに牛串を頬張って、もっもっ、と必死に食べている姿は非常に微笑ましい。
…………猫耳がピコピコ、しっぽは嬉しそうにフリフリ揺れててすごく撫でたいが、今は食事中だからやめておこう。
なでなでしたい衝動を頑張って抑え込む。
「はいこれ水。好きに飲んでいいよ」
「(こくこく)」
【ストレージ】から取り出した水筒を渡すと、肉をリスのようにいっぱい頬に溜め込んだクロが小さく頷いた。
さて、俺も見てるだけじゃなくて冷めないうちに食べちゃわないと。
自分用の水筒も取り出して、一口飲んでから牛串を頬張る。
──────いやあっつ!?
一切れ牛串を食べた瞬間、予想以上に溢れ出した肉汁によって口内に甚大なダメージが。
な、なにこれ、どんだけ肉汁あんの…………?
噛めば噛むほど熱々の肉汁と旨みが広がっていく。
美味しいよ………めちゃくちゃ美味しいんだけどさ…………これ確実に舌を火傷したわ。
予想外の攻撃を喰らいつつも、あっという間に一串に刺された四つの肉を食べ切った。
「(じー…………)」
「………食べる?」
「ん!」
真横から視線を感じると思ったら、一足先に二串とも食べ終えてしまったクロが、今まさに口に運ぼうとしていた俺の牛串を凝視していた。
「あーん」
「あ〜…………んっ!」
口を精一杯開いてばくっ、と牛串にかぶりつくクロ。
やっぱり可愛い。
その後、もう一口クロにあげて牛串を平らげた俺達は、屋台の横にあったゴミ箱に串を捨てて改めて商館に向かう。
少し歩くと、すぐに見覚えのある馬車が止まった建物が見えてきた。
ガラス張りのドアを開けて中に入る。
「マシロさぁーーーんっ!!!」
「ぐえっ!?」
商館に入った途端に、なぜか涙目のアイリスがタックル気味に抱きついてきて押し倒された。
的確に鳩尾を狙い撃ちされて思わず変な声が出てしまう。
このタックル…………ラグビーかアメフトの世界でも十分輝けそうなんだけど………。
位置的にクロを巻き込みそうで心配だったが、さりげなくひょいっ、と横に避けていた。
その反射神経、俺も身につけたい。
「うぅ………マシロさんが"紅魔の魔王"の住まう城へ行ってしまったと聞いて…………ぐすっ、無事でよかったです………!」
そう言ってギューッ!と存在を確かめるように、力強く俺を抱きしめるアイリス。
まだ触れた腕が小刻みに震えている。
俺があの古城に行ったと聞いて相当心配をかけてしまったようだ。
こういう時は頭をぽんぽんするなり俺からも抱きしめるとか、何かしらやった方が良いのは俺でも分かる。
だが、正直に言うと今の俺にそんな余裕はない。
何故かって?
そりゃあ、「もう絶対に離さない!」みたいな表情でずっと抱きつかれてるおかげで、アイリスの育ちに育ったたわわな胸がものっそい押し付けられてるからに決まってるじゃないっすか。
ふよん、むにゅぅ………!って!
やばい、気を抜いたら顔が緩んでしまいそうだ。
「…………アイリス、くっつきすぎ。主が立てない」
「あっ!ご、ごめんなさい…………ってあれ?な、なんでクロがマシロさんと一緒に?」
冷静なツッコミにやや頬を赤くしたアイリスがぱっ、と俺から離れて体を起こすが、すぐに当たり前のように俺の横にいたクロに戸惑いの声を漏らした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
誤字脱字報告、感想等やブクマ、評価などもぜひよろしくお願いします!!(*^^*)
広告の下にある☆を押していただければ、ポイントが入りますので
最後に。
次回もぜひ読みに来てください!




