猫耳少女クロ
なんやかんやあったが無事にクエストを受注し、王都から徒歩一時間の所にある例の古城に着いた。
そこは周囲一帯が枯れ果てた大地になっていて、あらゆる生命が絶えたかのような静けさに包まれていた。
古城自体も長年放置されていたのか、風化が酷く好き放題に伸びた蔓や謎の植物が外壁を覆っている。
ここからでも、古城の中から流れ出てくる不気味な気配を感じ取ることが出来た。
もし普通の人がここに来たら、まず間違いなく一目散に逃げ帰るであろう威圧感だ。
「主、どうする?正面突破?」
「うん、面倒だから真正面から行くつもり」
「分かった。主の敵には容赦しない」
そう淡々と喋るネコミミ少女ことクロ。
真っ黒の装束に身を包み、腰にダガーを付けるその姿は完全に忍者かどこぞの暗殺者だ。
無表情なのがよりその雰囲気を醸し出している。
まぁ「主のために頑張る」、って言いながらふんすふんす息巻いてる様子は可愛さしかないけど。
耳もしっぽもぴこぴこ揺れてて可愛い。
……………触ってみたいなぁ。
思わず目の前で揺れる猫耳を凝視してしまった。
「主、さわる?」
「いいの?」
「ん」
どうやらクロには俺の耳を触りたい衝動が見破られていたらしい。
短く返事をすると、クロはさらっと俺に抱きついて、お世辞にも頼りあるとは言い難い胸板にぐりぐりと頭を擦り付ける。
「すんすん」
「えっと、クロさん何を?」
「主の匂い嗅いでる。良い匂い」
「な、なぜ………?」
「匂い覚える。主だから」
そんな猫みたいな…………いや、猫か。
キメ顔でそう言い放ったクロは、再び顔を埋めて忙しなく鼻を動かす。
可愛い。
…………そう言えば前世でも実家に帰ったら、昼寝してる時にこうやってお腹に乗ってぐりぐりしてきた黒猫が居たなぁ。
あれは可愛かった。
朝も起きるのが遅いとわざわざ俺の部屋まで来て、「早く起きやがれ!」とでも言うかのごとく、顔に肉球を押し付けて起こしてくれたりもした。
時々、顔面にめり込むんじゃないかと思うくらい強く踏まれた時もあったけど、肉球が柔らかすぎてむしろ気持ちよかった。
ただ反応がないと的確に鳩尾に猫パンチをして、強制的に叩き起すのだけはやめて欲しかった。
あれ地味に痛いんだよなぁ。
何やら猫のような習性を発揮しだしたクロの耳が主張するようにぴこぴこ揺れる。
間近だとキメの細かい綺麗な毛並みがよく見える。
許可も貰ったので、俺はまずその先端からそっと触る。
………おお、すごいな。
耳の質感は普通の猫と一緒だけど、黒い毛がさらさらなのにふわふわしていて不思議な感触がする。
やばい、これは永遠に触ってられる悪魔的触り心地の良さだ。
そのまま付け根まで入念にもふりまくってやると、次はここを掻いて欲しい、とでも言うようにぐいぐいと角度を変えながら頭を押し付けてくる。
ほれほれ〜、ここがいいのか〜?
「んあ〜。主、もふもふ上手〜」
「そりゃよかった。あと猫が気持ちいい所って言ったら顎の下とかだけど…………」
「ん!」
俺がそう言うや否や自分の喉元を見せるクロ。
無表情ながらきらきらと輝いた瞳からは、早く撫でてという期待の色を感じる。
お望み通り顎の下を適度に搔くと、気持ちよさそうに目を細めながらゴロゴロと鳴き声を上げた。
もはや完全に猫だ。
「ねぇ、そう言えばさ」
「んう〜?」
「なんでクロは俺のことを主って呼ぶの?」
クロは冒険者ギルドで俺の奴隷だと宣言してからの事、ここに来るまでずっと俺のことを"主"と呼んでいた。
最初は周りの目もあったので、演技でそう呼んでくれているのだと思った。
だが、完全に人っ子一人居ないこの古城前に来ても、クロの呼び方は変わらなかったのだ。
それにクロが俺を主と呼ぶのはそういう類いのものじゃないように感じる。
なんか上手く言えないけど…………それが当たり前、みたいな?
そんな風に言ってるように感じる。
別に"主"と呼ばれること自体が嫌な訳でもなんでもないので、わざわざ言ったりはしなかったが、やはりどうしても気になってしまう。
なぜクロは俺のことを主と呼び続けるのだろう。
本当の主人の命令だったりとか?
「………?主は主。まだだけど」
「なるほど分からん。あ、しっぽも撫でていい?」
「ん!」
いつの間に俺はこの子の主になっていたのだろう。
そんな疑問はそっと横に置いて、ふりふり左右に揺れる愛らしいしっぽをもふもふする。
はー、癒されるぅ…………。
耳と同じでさらさらふわふわした毛並みがすごく気持ちいい。
傍から見れば、荒野のど真ん中で幼女を抱きしめる変態紳士のようにしか見えないかもしれないが、そんな事はもはや関係ない。
このもふもふを一度知ってしまえば止められない止まらない。
討伐依頼をそっちのけでもふもふを堪能してしまう。
『グルアァァァァァッ!!』
「うわああああああ!?」
しかし、唐突に聞こえてきたそんな叫び声と悲鳴がほわほわワールドをぶち壊した。
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最後に。
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