ダグラスさん
アイリスが俺の腕を抱き枕にして寝ていた件で子供達に散々からかわれた日以降、数回に渡って魔物の群れと出くわしたこと以外に特にハプニングはなく、無事に王都アインズベルンに到着した。
オルメスト王国最大の都市であるアインズベルンは全部で六つの区に別れた都市で、全体の広さはとんでもない事になっている。
王城を含む中央区から放射状に広がった一〜五区はメインストリートを軸に細かい道を広げていて、その複雑さは世界一と言っても過言ではない。
初めてここに来たら迷わない方が珍しいと言われるレベルだ。
ちなみに俺も慣れるまでは迷いまくった。
ほぼ迷路だったぞ、あんなの…………。
あらゆる娯楽施設が集まっている第一区に、冒険者ギルドを始め武器屋や鍛冶屋など冒険者に欠かせない施設がそろった第二区、様々な商業施設が軒を連ねる第三区、そして住宅街の広がる第四区と第五区。
最後に王都での手続き関係全てが集まっている中央区。
中央区には王城と貴族の住んでいるエリアもあり、そこは他の住居区に比べてお高そうな雰囲気溢れる豪邸が沢山建っている。
迷いたくなければ、とりあえず中央のメインストリートを真っ直ぐ進んで中央区に行く事をおすすめする。
中央区にさえ行けば憲兵の駐屯場もあるし、そこから行きたい区のメインストリートに向かえばきっとなんとかなるはず。
また案内屋と呼ばれる、観光客向けの職業の人に任せるのもありだ。
少しお金は必要だが、目的の場所への案内や穴場のお店の紹介などお得な情報を教えてくれる。
王都自体の品格にも直結する仕事なので、信頼度もバッチリだ。
そんな王都を囲む外壁には各区に繋がる七つの門があり、そこの受付で入門チェックを終えると中に入ることができる。
目的の第三区の門には受付が五つあり、今回はたまたま空いていたのですぐに通り抜けられた。
しかし、普段はこんなに空いていない。
前回来た時は第二区の門から入ったんだけど、二時間以上も待たされたんだよなぁ…………。
あの時の行列の長さはマジで凄かった。
まるで某夢の国に来たかのようだった。
受付のお兄さん達も死にそうな顔で頑張ってたから、さすがに文句を言う人はいなかったけど。
皆、同情の眼差しで受付のお兄さん達を見ていた。
一番大変なのはあの人達だもんね。
俺達は早速第三区の受付から入門し、メインストリートのど真ん中をゆっくりと馬車で進んでいく。
昼時だと言うこともあり、賑わう食べ物の露店やお店に子供達の目は釘付けだ。
が、飲食店が集まる通りはさらっと過ぎて、門から十分くらい離れた場所にある大きな建物の前で馬車を止める。
入口の横には"ダグラス奴隷商館"の文字。
上半分がガラス張りのドアを開けて中に入ると、正面にいた受付の女性にシゼルさんから貰った紹介状を渡す。
「マシロ様ですね。オーナーから伺っております、こちらへどうぞ」
すると、すぐに奥の部屋に案内された。
子供達とアイリスとは一旦ここでお別れだ。
服にしがみついて離れようとしない子供達にあとでまた会いに行く事を約束し、渋々ながら離れた子供達に手を振ってから、受付の女性に着いて客室と思われる部屋に入る。
そこには長方形の机を隔ててソファーが並んでおり、その片方に腰を下ろした。
「それでは少々お待ちください」
受付の女性はぺこりとお辞儀をすると、そっとドアを閉めて建物の奥に向かって行った。
手持ち無沙汰になってしまった俺は、謎の気まずさを紛らわすように周りに視線を巡らせる。
…………なんか、バイトの面接を思い出すな………。
この謎の気まずさよ。
だいたい慣れない場所に一人で待たされるから誰とも話せないし、かと言ってスマホを弄る訳にもいかないし…………。
無駄に貼ってある掲示物とか自分の爪を眺めたりして担当の人が来るのを待つんだよね。
そんな感じで辺りを眺めていると、ふと目に入った窓際の花瓶に目が吸い寄せられる。
その花瓶には一本だけ花が差し込まれていた。
近寄ってみると、それは萎れた白いバラの花だった。
なぜ一本だけ…………しかも萎れたバラの花が飾られているのだろう。
取り出す時にこの一本だけ忘れたのだろうか。
いや、そんな事ある?
実はこのバラには何か意味があったりして───────。
「その花が気になりますか?」
「ふおっ!?」
バラの花を見つめていると、突然背後から声をかけられてビクッとなってしまう。
不意に出てしまった変な声を恥ずかしく思いながら振り返ると、いつの間にかドアの前に初老の男性が一人佇んでいた。
優しそうな顔立ちながら、どこか威厳を備えた商人風の男性。
「私がダグラスでございます。"マシロ様"でお間違いありませんか?」
「はい、今回依頼を受けさせていただいた冒険者のマシロです」
ダグラスさんがソファーに座るのを見て慌てて俺も戻り、【ストレージ】の中から例の機密文書とやらを取り出して渡す。
受け取った文書の中身をパラパラと確認すると、ダグラスさんは手元の鈴を鳴らして女性を呼び、何か喋ると女性はすぐに奥の部屋に引っ込んでいった。
どうやら彼女もここで働く一人らしい。
少しして、トレーにお茶を載せた女性と小さな袋を持った受付の女性が部屋に戻ってきた。
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