アイリス救出(3)
男の命令を聞き、まずは大剣を振りかぶったデュラハンが三体迫ってくる。
二メートルはあるであろう西洋風の甲冑がガシャガシャと接近してくるのは中々の迫力だ。
内、一体の振り下ろした大剣を微動だにせず黒剣で受け止め、残り二体は足元から出現させた土の杭で串刺し。
そのまま手首を返して目の前のやつも一刀両断する。
意外と力強かったな…………やっぱりこいつらのレベルと盗賊達のレベルが合ってなさすぎる。
明らかに魔物の方が格上だ。
こいつらが盗賊の男に従う理由が分からない。
もしかしてこいつらには親玉がいて、そいつが使役してたりとかするのか?
「ぎゃはははは!その程度でデュラハンを倒せると思うなよ!こいつらは不死身なんだ、何度でも蘇る!」
男が下品な笑いを見せた途端、杭に刺さって動かなくなっていた鎧がカタカタと痙攣し始めたかと思うと、石の杭を砕いて再び向かってきた。
杭に貫かれた胸も秒で治っている。
アンデットに物理攻撃は効かないってか。
確かにそれは定石だよな。
「おっと、浄化魔法を使ったって意味はないぜぇ!?魔法を完全に無効化する『防魔のゴーレム』がこっちにはいるからなぁ!」
甲高く叫んだ男の言葉の中に、一つだけ聞き覚えのある単語があった。
『防魔のゴーレム』。
確か昔読んだ文献によれば、大昔に魔王の一角を担っていた魔人が作り、結局欠点があって計画は破綻した人造兵器の名前だったはず。
全て破壊されたって書いてあったけど、全然残ってるじゃん………。
てかなんでそんな物をこいつが持ってるんだよ。
「こいつは無敵だァ!現にそこのエルフ族の女の魔法も無効化してたしなぁ!」
「お前こいつの欠点知らないの?魔法を無力化できるのはある一定の強さまでで、それ以上の高火力の魔法を喰らったら抵抗すらできずに壊れるんだよ」
まぁ要は火力のゴリ押しで撃退可能と。
アイリスさんのことを指さして(今ここで初めてアイリスさんがエルフ族なのを知った)自慢げに叫んでいる男を無視し、デュラハンの攻撃をいなしながら近くのゴーレムに火球を喰らわせる。
最初はなんとか抵抗していたゴーレムだったが、すぐに火球に押し負けて左半身を抉られ、目の光が消えたかと思うと次の瞬間、爆発四散した。
続いて二体目のゴーレムは魔力を纏わせた拳で胴体を貫き、内部から火属性の魔法で焼き尽くす。
ここまで計五秒。
あっという間に二体のゴーレムが倒されたことに、流石の男も顎をカックーン!とさせて驚いている。
「い、いや!まだ俺達にはデュラハンが…………!」
「〈魔法剣〉」
光属性の魔力を纏わせた黒剣で周りを囲んでいた三体のデュラハンを斬ると、その斬り口から紫色のモヤのようなものが流れ出し、やがて鎧はガシャガシャと倒れて動かなくなった。
残るはデュラハン五体とゴーレム三体。
先に面倒なゴーレムから倒そう。
コキッ、と鳴らした五指を突き出してゴーレムの胴体にめり込ませる。
「"龍の爪"!」
メキィ!とゴーレムの鋼鉄の体が悲鳴を上げ、波紋のように全方向に枝分かれして広がった亀裂から崩壊する。
やはり物理的な耐久値は普通のゴーレムと変わらないらしい。
その奥から仲間の亡骸を蹴散らして振り下ろされた拳を腕ごと斬り落とす。
一歩踏み込んで間合いに入ると、誰も目で負えないほどの神速の剣閃で細切れに。
頑丈なはずの古代のゴーレムがまるで豆腐のようにスパスパと斬られる様子は、色んな意味で滅多に見れない事だろう。
そして最後の一体は縦に真っ二つに斬って爆散。
立ち上る煙を斬り裂いて振り下ろされた大剣をバックステップで避け、その先でも脳天向けて振り下ろされた大剣を片手で楽々と掴み止め、粉砕する。
バキバキッ!と響いた音に首の紫色の炎が驚愕に揺れ、咄嗟に危機感を覚えたらしく必死に距離を取ろうとするデュラハン。
だが、それを逃す俺ではない。
逃げるデュラハンの懐に踏み込み、右手の剣を突き刺す。
「〈オクタグラム〉!」
そのまま剣技スキルを発動して真横に斬り、背後から接近していた二体も残りの七回の斬撃で斬り伏せる。
〈オクタグラム〉の一連の流れを終えた瞬間、ほんの一瞬だけ体が重くなった。
スキルによる威力のブーストが切れた証拠だ。
その一瞬を狙って、デュラハン達は一斉に敵を斬り裂かんと襲いかかる。
その動きはかなり俊敏。
この二体だけ他と比べてレベルが高い。
生前はさぞ強い騎士だったのだろう。
鋭い踏み込みで間合いを詰め、片方のデュラハンが袈裟斬りを繰り出す。
刹那の反応で体との間に剣を滑り込ませてガードすると、ガギィン!と耳障りな金属音が辺りに響き渡った。
それを上手い具合に力を逸らして受け流したあと、体勢を崩したデュラハンに跳ね上がるような神速の逆袈裟斬り。
胸から右肩にかけて大きな傷を負ったデュラハンがグラリと数歩後退する。
しかし、手負いのデュラハンは追わず、すぐさまその場でしゃがみ大剣の横薙ぎを躱す。
頭上を大剣が掠め、その太刀筋の延長線上にはそれだけで物を斬り裂くような大きな風圧が逃げていった。
しゃがんだ体勢でぐっ!と力を溜めて、地面を陥没させる勢いの踏み込みで突き技を喰らわせる。
それで終わりではない。
その勢いで後ろの負傷したデュラハンまでも貫く。
二体とも頭部の炎を揺らめかせて、鎧を残したまま消滅した。
これで魔物は全滅。
ふぅ…………。
一息ついて剣を背中の鞘に収める。
呆然として動けないでいた盗賊達はそのカチャッ!という音で我に返り、すぐさま何か喚いて逃げようとした。
そんな彼らには問答無用で手刀を叩き込み、仲良くお縄についてもらう。
「よしよし、とりあえずこれで一件落着かな」
一人でうんうんと頷く俺を、後ろで見守っていた少年少女達はキラキラした瞳で見つめるのだった。
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最後に。
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