別れと出会い
18時にも更新します
夢咲真白、二十歳。
神奈川県にある某大学に通う、彼女いない暦=年齢の悲しい男である。
俺という人間を一言で表すなら、まさに生粋のオタク。
もちろんネットで叩かれるような自意識過剰な彼氏面オタクではなく、後方腕組でうんうん頷くタイプの壁型オタクだ。
主にアニメや最近ではVTuberなんかにハマっている。
オタクと言うからにはそれらのグッズを集めることにも注力しており、一人暮らしをしている今、我が家の一室は完全に購入したアクリルスタンドやタペストリーでいっぱいだった。
眺めているだけで元気になるその風景を、二度とお目にかかれないなんて…………。
胸にぽっかり穴が空いた気分だ。
……………ああ、別に売ってお金に変えた訳じゃないぞ?
転売ヤーでも、ましてや飽きてもいないのにそんな事したら正気の沙汰じゃない。
推しじゃなかったら売るのは全然アリ(と言うかそのおかげで俺達は安く欲しいものを手に入れられる)だが、残念ながら俺は箱推し。
売る機会なんて無いに等しい。
じゃあ何故、二度と見れないなんて言ったのか。
─────そりゃあ死んだからだ。
休日のバイト終わり。
12時間という長い長いシフトを死ぬ気で生き抜き、既に限界を超えた体を引きずって何とか帰宅しようと奮闘していた俺の元に、制御を失った大型トラックが突っ込んで来た。
耳を劈くようなブレーキ音といくつものクラクション。
振り返った時には、ガードレールをぶち破ったトラックのナンバープレートがそこまで迫っていた。
その時、時速何km出てたかは知らないがかなりのスピードだったのを覚えている。
今まで受けたことの無い凄まじい衝撃が体を貫いて、目まぐるしく変わる景色が一瞬だけ星が煌めく夜空に固定された。
霞む視界でそれを捉えた直後に俺は意識を失った。
こんな感じで俺は死んだ。
俺が死んだところで誰も悲しまないだろ…………と、このままでは魔法使いどころか賢者になりそうな勢いだった俺の脳裏に卑屈な考えが浮かぶが、それは浮き出てすぐに消えた。
数少ない友達やゲーム仲間、そして両親。
何も悲しんでくれるのは恋人だけじゃない。
特に両親とは、一人暮らししてから年に数度しか会っていない。
親より先に死ぬとは…………親不孝も良いところだ。
機会があったら謝りたいが、それすらも叶わない望みである。
…………………あ。
今思い出したのだが、そういえばもう一人居たかもしれない。
数年前にたまたま秋葉原で会った銀髪の幼女。
おそらく外国人であったその子は道に迷っていたようで、親とはぐれたのかと思った俺は放っておけず話しかけた。
しかしどうやら話を聞いた限り、一人で秋葉原に遊びに来ていたそうで…………あの時は驚きと心配でどうにかなりそうだった。
まぁ結局は二人で色々と巡って遊び明かした訳だが、最後の別れ際に幼女は言ったのだ。
「また一緒に遊ぼう!」と。
その約束を破ってしまうことになったのは非常に心苦しい。
どうせ忘れているだろうと思う傍ら、少しでも良い思い出として残っていて欲しいという願望もある。
あの子は今、一体何をしているのだろうか…………。
────────悩みや思考が溶けて何かと一体化しようとしていたその時、天から優しい光が差した。
暖かく俺を包んでくれたその光の正体が知りたくて、その源に手を伸ばす。
光を掴んだ途端、誰かの声が聞こえた気がした。
そして、閉じた瞳を再び開けた時。
目の前には一人の幼女が立っていた。
腰まで伸びた髪は、銀色に少し水色を垂らしたかのような不思議な色合いで。
反対に肩甲骨辺りから生えた翼はまさに天使のごとく純白でシミ一つない。
歳の頃は十二くらいだろうか。
しかしその神々しさも相まって、年下とは思えない圧倒的な魅力を放つ。
どこか見覚えのある幼女は硬直して動けずに居る俺に目を向け────────。
「おぉマシロよ、死んでしまうとは情けない…………なのだ」
どこかで聞いたことのあるセリフを仰々しく言い放った。
…………良くずっこけなかったと自分を褒めてやりたい。
「………………誰?」
「ワタシか?ワタシは、マシロの世界で言うところの神様なのだ!」
得意げな表情の幼女は人差し指で自分を指しながらそう言い、背後の翼を見せびらかすようにバサッと左右に広げた。
それと共に、風に揺られ主の元を離れた無数の羽が光を反射しながら舞い落ちる。
俺はあまりに美しいその光景に、思わず何もかも忘れて見入ってしまった。
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最後に。
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