訪問者(2)
立ち話も何なので、外に机やら椅子やらを出して座りながらとりあえず話を聞くことにした。
「護衛?」
「そう、マシロ殿には儂の娘の護衛をして欲しい」
首を傾げる俺に対してルイスは厳かに頷く。
彼から話されたのは、ルイスの娘…………つまり王女様の護衛の依頼だった。
と言うのも、どうも最近ルイスの周りがきな臭いらしい。
理由は主に二つ。
まず一つ目。
現在、政治上対立状態にある財務大臣の動きが怪しいという点だ。
この財務大臣はあまり信用出来ない。
何故かと言うと、かの財務大臣には様々な疑惑が浮上しているからだ。
財政に関する書類の改ざん、そこで発生した金の着手、更には裏社会との繋がり疑惑まで。
今の財務大臣に変わってからこう言った噂が絶えず囁かれている。
もちろん噂は噂。
それを真に受けて罰しようとしている訳では無い。
ただ実際に予算と決算で謎の空白の金額があったり、最近羽振りが良くなったりと。
大きなものから小さなものまで、その財務大臣がお金に手をつけた事を後押しするようなものも出てきている。
しかし当然、問い詰めてもしらばっくれるだけ。
確たる証拠もない。
だから未だ逮捕までは至っていないらしい。
もちろんこれだけではなぜ王女様に護衛が必要なのか分からない。
大事なのはこの後。
実は先週、王城に賊が侵入したらしい。
「ちょっと待って、それ初耳なんだけど」
「情報は伏せていたからな。あまり大事にはしたくないのだ」
狙われたのは王女様。
寝室で寝ていたところ、突然襲われたそうだ。
幸いにも賊はすぐに捕まった。
しかし、護衛をしていた近衛騎士の一人が重傷を負うなど、結構被害があった。
疑問なのが、なぜその賊は誰にも見つからず侵入出来たのか。
なぜ迷いなく王女様の部屋にたどり着けたのか、だ。
その後、尋問が行われた。
なんとそこで賊は、暗に財務大臣との繋がりをほのめかしたのだ。
当然、かの財務大臣は知らぬ存ぜぬの一点張り。
再び両者が立ち合っての尋問をしようと牢屋に訪れると………………賊は何者かに殺されていたそうだ。
明らかに口封じ。
この一件でより財務大臣への疑惑の声は高まり、また対立の溝も深くなった。
政治的に言えば財務大臣は孤立状態である。
今は勢力差で黙らせてはいるが、今後何があるか分からない。
最悪の場合を想定し、俺に護衛をして欲しいとの事だ。
「そんな奴、さっさと捕まえちゃえばいいのに」
「儂だってエイナに危険が及ぶ前に…………いや、もはや手遅れに近いが、危険を及ぼす芽は摘んでおきたい。だが政治と言うもの、そして国王と言う立場はそう簡単では無いからなぁ……………」
「………………なんか、ルイスが真面目に王を語ってるのに違和感しかないわ」
「酷いな!?」
「これでも国王になってから何十年も経っとるわい」
と苦笑いのルイス。
そういう割には中身があまり変わって無さそうだが………………まぁ、ツッコまないでおこう。
さてさて、話を戻して二つ目の理由に行こう。
こちらは前者とは少し毛色が違う。
どうも最近、王都周辺に生息する魔物の様子がおかしいらしい。
凶暴化し、度々人々を襲っているとの報告が上がるそうだ。
おまけにこの前は、そこに生息しているはずのないドラゴンを見たという目撃例もあるくらいである。
これまたきな臭い。
そしてつい先日、ルイスをここに来させるのを後押しする出来事が起こった。
例のドラゴンの調査に向かった小隊が、たった一人を残し壊滅したのだ。
かなりの実力者を集めた小隊だったので、上層部に走った衝撃は相当のものだったと言う。
一体何があったのか。
唯一の生き残りの騎士曰く、偵察の最中にとんでもない数の魔物に襲われた。
すぐさま撤退しようとするも、退路を巨大なドラゴンに阻まれて部隊は壊滅。
運良く生き延びた彼は、必死に逃げるさなかドラゴンの背に誰か乗っているのを見たと言う。
漆黒のフードを被った二人組。
性別は分からない。
しかし、微かに聞こえた声によれば、おそらく男と女。
二人の口からは"原初"の二文字が紡がれたらしい…………。
「…………………それ、本当?」
「ああ。儂も信じたくはないが……………」
ルイスは原初について少し知識がある。
王様になった時、先代の王様……………つまりルイスのお父さんから聞かされたそうだ。
多少なりとも昔の資料も保存されているため、代々王族間で受け継がれているらしい。
だからルイスも原初の脅威は十分理解しているのだ。
なるほどね、そりゃ俺を頼ってくる訳だ。
ただ魔物が凶暴化しただけなら、SランクやSSランクの冒険者に依頼すれば良い。
しかし原初ともなれば話は別だ。
本当にその二人組が原初かどうかは知らないが、もし本当だった場合、容易く国が滅んでしまう。
「原初が再び動き出した…………ありえなくは無いな。この前戦ったし」
「ん?待て、そんなの初耳だぞ」
「そりゃ言ってないし」
エルムに引き続き他の原初達も動き出したと考える事はできる。
しかし厄介なのは、エルムと違い今回は明確な敵意があるという事か。
原初が全力で殺しに来た時、さすがに俺も止められるか分からない。
実際に本気じゃないエルムにボコボコにされたしね。
「……………分かった、そういう事なら話は別だ。引き受けるよ」
「そうか………!」
「ただし、俺の要求も飲み込んでもらうぞ」
「うむ。無理のない範囲ならなんでも応えよう」
エイナ(王女)ちゃんや先代国王、そしてルイス他もろもろ。
王都には知り合いがいっぱい居る。
さすがに見捨てる訳には行かないだろう。
あと例の財務大臣ってやつは俺が嫌いなタイプっぽいから、ついでに証拠を集めて社会的に殺ってしまおうと思う。
で、俺の要求についてだが……………。
「…………………そんな事でいいのか?」
「むしろこれを"そんな事"で済ませられるのが驚きなんだけど」
個人的には結構大きな要求をしたつもりだったんだけどなぁ…………。
まぁともかく、こんな感じで少しの間エイナちゃんを護衛する事になった。
何も起こらないことを願うばかりだ(フラグ)。
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