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【本編完結済】最強ご主人様はスローライフを送りたい  作者: 卯月しろ
第二章 出会い アイリス、クロ編
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二百年経ちました(2)





依頼を受けてから数時間後、俺は小さなバックと剣を背負いながら、カディア村の数キロ先にある樹海(じゅかい)の中を走っていた。



一見ただの鬱蒼(うっそう)とした森か何かにしか見えないが、夕方から夜にかけて濃霧(のうむ)が発生し、それなりに高レベルの魔物が出現する厄介な場所だ。

一度霧に飲まれるとものの数分で平衡感覚(へいこうかんかく)が失われ、簡単に遭難してしまうらしい。

毎年この樹海での行方不明報告が絶えないのだとか。



「うへ〜、なんとか午前中に抜けたいな…………」



わざわざここを通らなくても迂回(うかい)する別の道があるのだが、そっちに行くと倍以上の時間と労力がかかるので、多少危険でも樹海を通った方が早いのだ。


それに危険な霧が発生するのは午後のこと。

午前中に抜けてしまえば問題ない……………って言って入った冒険者がだいたい遭難するんだけど、俺の足なら一、二時間で抜けられるはず。


現在地はおそらく全体の三分の一進んだあたりだから、この調子で行けば余裕を持って抜けることが出来るだろう。








周囲を警戒しながら道ならぬ道を進んでいると、不意に前方の(しげ)った草木の向こうからガサガサと何かが動く音がした。


魔物の気配。

しかも音がした方向だけでなく、四方を囲まれている。

前のやつは囮役、か。


どうやらこの魔物はそれなりに知性があるようだ。

数が少ないながら、単体で言えばスタンピードの時に戦った魔物より強いだろう。



『グルアァァァッ!』


「よっ」



真正面から大きく跳躍(ちょうやく)して襲いかかってきた狼の魔物を、足でブレーキをかけながら斬る。

すると間髪入れずに背後から残りの五匹の魔物が飛び出してきて、その鋭い爪を俺目掛けて振るう。


振り返りざまに地面から引き抜いた剣を横薙(よこな)ぎして二体倒し、残りは体を斜めに倒して避ける。

(くう)を切り硬直した狼達に向けて手をかざすと、無詠唱で発動した風の刃が高速で放たれ、空中にある狼の首をあっさりと斬り落とした。



二匹の狼は断末魔(だんまつま)さえ許されず、ドシャドシャと音を立てて地面に落下。

が、残り一匹は風の刃が当たる直前に、まるで空中に足場があるかのように蹴ってジャンプ。

見事に無傷だった。


この狼の魔物の固有魔法(その魔物だけが使える魔法の一種)だろうか。


しかしせっかく魔法を避けた狼の魔物も、お腹に強烈な後ろ回し蹴りを喰らい、派手に吹き飛んで大木(たいぼく)にぶつかって崩れ落ちた。

あまりの衝撃に大木は大きく揺れ、上の方から葉っぱが降り鳥が飛び立つ音がした。





その後も何回か魔物に襲われたが、全て同じように蹴散(けち)らして進んで行く。

やはり一般的には厄介とされているこの樹海の魔物も、俺が相手ではなんの問題もないようだ。


それからさらに一時間ほど経過し、樹海も三分の二ほどまで踏破した頃。



「…………何だろ、この気配」



前方から何かが近づいてくるのだが、何やら様子がおかしい。

人間でも魔物でもない気配…………いや、ごちゃ混ぜになった気配って言った方がいいのかな。

とにかく異質で気持ち悪い。


…………お、向こうも俺に気が付いたみたいだな。

咄嗟(とっさ)に左側に逸れてやり過ごそうとしてる…………ちょっと気になるな。


感覚を研ぎ澄まして相手の正確な位置を索敵(さくてき)し、グッと力を込めた右足を踏み込んで一息に気配の元に移動する。




「なっ!?お、お前、さっきまで向こうにいたはずなのに…………!?」



突然目の前に現れた俺に驚愕(きょうがく)し声を荒らげたのは、髭面の盗賊風の男とその仲間三人。

全員が不思議なローブで身を隠し、大きな麻袋を持っている。


気味の悪い気配はあのローブが原因だな…………。

しかもあの気配のせいで遠くからじゃ分かんなかったけど、あの麻袋(あさぶくろ)の中からも人の気配がする。


しかも小さな子供だ。

必死にモゾモゾしてるから、まだ抵抗する元気はあるのだろう。

それぞれ男達が一つ抱えてるから少なくとも四人か…………。



瞬時にそれを把握すると、男達が腰に装備していたダガーを抜く前に問答無用の手刀で気絶させる。

鑑定(かんてい)〉のスキルで職業が"盗賊"って出てたし、悪党に手加減は要らないね。

男達が意識と共に手放した麻袋を素早くキャッチし、そっと地面に下ろす。



「どうどう、今から紐を(ほど)くから、ちょっと待ってへぶぅ!?」

「くらえ、盗賊めぇ!──────ってあれ………?」



麻袋の中で暴れる子供を出してあげようと紐を(ゆる)めた途端、無理矢理(むりやり)出てきた少女の黄金の右ストレートが的確に俺の頬に突き刺さる。


完全に油断してたせいで魔力による身体強化も間に合わず(と言うかしたら少女の手が粉砕するので)、もろに喰らった一撃に思わずごろごろと地面を転げ回ってしまう。

たぶん他の子を守るために盗賊に抵抗しようとしたんだけど、あいにくのタイミングで俺がその盗賊を倒したせいで、代わりに俺が喰らってしまったのだろう。



この子、将来強くなるよ…………。



頬を擦りながら立ち上がると、例の少女がポカンとしながら俺の事を見つめていた。

どうやら予想外の展開に着いていけていないらしい。


改めて見ると、彼女の首にはごつく黒光りする首輪が付けられている。

"隷属(れいぞく)の首輪"というアイテムだろう。

あれが付いているという事は、この七、八歳の黒髪の少女は誰かの奴隷ということになる。



「お兄ちゃんが助けてくれたの………?」

「そうだよ。ほら、悪い盗賊さんはそこに縛ってある」



指さした先には、ぐったりとした様子の盗賊達がまとめて木に縛り付けてあった。

可能性はゼロに等しいが目覚めて暴れられても困るので、ちゃっちゃと縛っておいた。


少女が呆然としている隙に他の麻袋も開くと、予想通りそれぞれに一人子供が詰め込まれていた。

女の子と男の子、それぞれ二人ずつだ。

全員が最初の子と同じく首輪を付けている。



「ぐずっ、ゔぇ〜ん!こわかったよぉ………!」



泣きながら抱きついてきた三人を抱きしめ、よしよしと頭を撫でてあげる。

あんな袋に詰め込まれて誘拐されたんだから、そりゃあ怖かっただろうなぁ。

呆然としていた少女も、徐々に気持ちが追いついてきたのかぽろぽろと涙を流し始め、たまらずタックル気味に抱きついてくる。



「うぅ………ぐずっ、おにぃちゃん………ありがとぉ…………!」



四人分の涙と鼻水がべっちょり服に染み込んでいるが、今はそんな事は気にしないでおこう。

ひたすらみんなが泣き止むまでよしよしし続けていると、ふと黒髪の少女が何かを思い出したようにぐしぐしと涙を(ぬぐ)い、勢いよく顔を上げた。



「お兄ちゃん、アイリスお姉ちゃんがね!悪い人達に襲われてるの!」

「アイリスお姉ちゃん………?」



少女の剣幕(けんまく)に押されて目を白黒させながら聞き返すと、他の子供達も顔をさっと青ざめさせる。



「そ、そうだ、アイリス姉ちゃんがこいつらの仲間と戦ってるんだ!なんでかこいつら、強そうな魔物を味方にしてて………姉ちゃんの魔法が全然効かなかったんだ………」

「その隙に僕達はさらわれちゃって………」

「お兄ちゃん!お願い、アイリスねぇを助けて欲しいの!」




必死に服の袖を引っ張りながら俺を見上げる子供達。

よほどそのアイリスという人が大切なのだろう。

ならば返事は当然決まっている。



「分かった、お兄ちゃんに任せな!」







ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


誤字脱字報告、感想等やブクマ、評価などもぜひよろしくお願いします!!(*^^*)

広告の下にある☆を押していただければ、ポイントが入りますので



最後に。

次回もぜひ読みに来てください!







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