襲来(3)
しばらくして。
涙でぐしゃぐしゃになった顔にはもう元の活気は見当たらず、目は生気を失って影が指していた。
もう起き上がる気力も無いのだろう。
「ククク。脆い脆い………!人間どもは実に愚かで浅はかな生き物よ。……………さて、仕上げとしようか」
自分の手首に添えた大剣を引き、ドバドバと溢れる赤黒い血をミリアの方に向けると。
血がまるで生きているかのように蠢き、一斉にミリア目掛けて覆いかぶさった。
しかしミリアは動かない。
いや、動けない。
手足に微塵も力が入らず藻掻くことすら出来ず、ただ迫り来る血の波を焦点の合わぬ瞳で見つめ。
最後に一滴の涙を垂らしたミリアがうわ言のようにぽつりと呟いた。
────────────ごめ………ん……ね………。
本当は面と向かって言いたかった。
でも無理そうだ。
迫る血の波を前に目を瞑り、静かに最後の時を─────────。
バシャッ!!
………………………………?
おかしい。
今、確かに波がぶつかる音がしたのに…………。
ついに体の感覚までおかしくなったのか。
違う。
この包み込むような温かい気配は───────。
「………………あんた………なん、で………」
恐る恐る目を開くと。
そこには自分を抱き起こし、己の半身を盾に血を防ぐマシロの姿。
助けに来てくれた。
その事実に少なからず喜んでしまった反面、どうしても自分が情けなくて仕方がなかった。
せっかく過保護なほど面倒を見てもらって、修行までして。
それなのにこんなにボロボロな姿を見せて。
(ごめんなさい………………)
また涙が出てきた。
枯れたはずの涙が溢れ出る。
せめて謝罪しよう。
迷惑かけてごめんなさいって。
涙でぼやける視界の中、マシロの顔を見つめ─────────そしてある事に気がつき、心臓が凍てつくのを感じた。
夢と同じなのだ。
右半身だけ赤黒い血で濡れたマシロ。
その正面には漆黒の存在。
自分はただ見ている事しか出来ず──────。
(……………い、いや…………もう、これ以上失うのは……………いやよ…………!)
青ざめたミリアから目を離し、邪魔をされて怒るエビルと睨み合う。
「お前は…………そうか、お前が"草原の剣聖"だな!」
怒りに燃える瞳が一転、まるでハイになったがごとく腕を掲げ高々と笑い声を上げる。
こいつ……………相当頭がイってやがるな。
わざわざここまで痛めつけてから取り込もうとするとは。
胸の中のミリアをちらりと見て、俺は再び強い怒りを感じた。
「おい"矛の破邪"よ、聞いているか?またお前のせいで人が死ぬぞ………!俺の血は猛毒だ、〈絶界〉の力と相まってこいつを細胞から消滅させる!もちろん発狂レベルの痛みを伴ってなァ!!」
「……ぇあ…………?」
何を言ってるんだと疑問に思ったのもつかの間。
胸ぐらを力なく掴まれて視線を下ろし、ぎょっとした。
ミリアの様子がおかしいのだ。
顔はこれでもかと青ざめてガクガク震え、まるで何かに怯えるように俺へと縋り付く。
一体どうしたと言うのだろう。
「………お、お願い…………これ以上、大切な人を失いたくないの…………。せめてあんただけでも………生きてよ…………」
瞳が影に染まり、涙ながら俺の胸元に顔を埋めるミリア。
昨日までなら考えられなかった行動に戸惑いを隠せない。
ずいぶんと精神的に追い詰められてるみたいだな…………。
懇願するミリアの額に手を添え、〈鑑定〉やらなんやらで見てみた結果。
………………………ふーん、なるほどね。
どうりでエビルが愉快そうに笑ってる訳だ。
とんだ性格の悪いクソ野郎じゃないか。
ため息一つ。
俺は顔を上げたミリアの目を見つめ、先程の願いに応えるべく───────。
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