造られた真実
「ふっ、矮小なだけでなく"破邪"もお粗末なものだな」
「げぅっ………!?」
刹那、いつの間にか腹にめり込んでいた拳が衝撃波で内臓ごとズタズタにし、くの字に折れ曲がった体は激しく吹き飛ばされる。
何が何だか分からない。
思考の大半をハテナが占める中、霞む視界が捉えたのは目の前に迫るエビル。
「ぁ…………がふっ………!?」
再び腹に衝撃。
今度はけたぐりがヒットし、ボキバキッ!としちゃいけない音と共にミリアの体を浮かび上がらせた。
大きな土煙を上げながら地面に落下し、勢いが収まるまでめいいっぱい転げ回ったミリアが激しく吐血する。
内蔵はズタボロ、肋骨も数本逝ってしまったようだ。
動くだけで走る激痛に顔を歪めながらなんとか上体だけ起こすと、脂汗が頬を伝って地面に落ちる。
本当に一瞬の出来事だった。
今でも何が起こったのかイマイチ理解出来ていない。
「〈絶界〉…………ククッ、これは避けないと死ぬぞ?」
「ごほっ…………はぁ、はぁ…………。…………?」
あいつは何を言っているのだろう。
こちらを向いた掌には一向に何も現れない。
不発?
馬鹿な、このレベルの魔王がそんなミスする訳───────!?
"危ない"。
本能でそう理解すると同時にその場から離れた直後に、何かが破裂してミリアの体は軽々と吹き飛ばされた。
透明で、かつ圧倒的な衝撃波。
見覚えがありすぎる。
(これは…………あの時の………)
まるで爆弾でも爆発したかと思わせる巨大な砂埃が巻き上がり、爆心地にはクレーターが。
離れたところでも所々草木がなぎ倒され荒れ果てていた。
「〈絶界〉によって空気以外の物質を拒絶。それを圧縮し、解き放ったのだが………………まぁ今説明しても無意味だろうな」
やっと晴れた草原に佇むエビルが見下ろす先には、衣服も肌も傷だらけになって倒れ動かないミリアの姿が。
周囲には彼女のものらしき血が飛び散っている。
間一髪直撃は避けたものの、至近距離で喰らったためダメージは相当のものだろう。
最悪、このまま再起不能に───────。
エビルの眉がぴくりと動いた。
「ほう、立ち上がるか」
眼下で、おぼつかない足取りで体を起こしたミリアに多少なりとも驚きの表情を見せた。
「……………あたり………まえでしょ…………ごほっ……あんたを殺す、までは………!」
明らかにもう戦闘不能だ。
しかし、根性と怒りだけで立ち上がって見せた。
まだミリアの目は死んでいない。
むしろらんらんと燃え盛っている。
「お前では俺に勝てない。なぜだか分かるか?」
立っているのがやっとなミリアを前に、エビルは悠々と人差し指を立てると。
「スキルの格が違う。生きてきた、くぐってきた修羅場の数が違う。目的を達成するための熱量が違う」
「…………っ、煩いわね。あんたを殺したいって気持ちだけなら…………誰にも、負けないわよ………!!」
「フフッ、ハハハハハ………!それもだ!」
何がおかしいのか、エビルが突然大笑いしだした。
当然、ミリアは戸惑いを隠せない。
一体この男は何を……………。
「【拒絶せよ、封殺せよ、破邪の絶界、"幽獄牢"】!!」
詠唱によって効果を増幅された薄紫の薄い結界が、ミリアを四方から覆う。
異変に気づいて顔を上げたのもつかの間。
徐々に苦悶の表情を浮かべてじたばた暴れ出す。
「────────ぁ………かひゅ………ぉえ…………」
「これも、SSランクの冒険者とやらが使っていた魔法の応用なのだがな。どうも酸素のみを吸収することで毒になるやらなんやら言っていたが……………やはり分からんな」
エビル自身も"原子論"なんてものは知らなかったが、昔喰らった感覚と本人の話を元に再現した恐ろしい技。
〈絶界〉によって空気中に含まれる酸素以外の全ての気体を拒絶した。
すると残るのは、単体で取り込むと猛毒でしかない酸素が充満した空間である。
一度息を吸い込めば死に至る空間だ。
「─────────っ、ぁあ!!」
「む?」
しかし。
ガクガク痙攣するさなか、力を振り絞って殴った〈絶界〉にヒビが入り、粉々に砕け散った。
〈絶界〉が消滅すると同時に効力を失い、大気は構成成分を取り戻して無害なものに変化。
周りと寸分違わず混ざり合う。
ドサッと倒れる音がした。
どうやら最後の気力で動いたらしく、出た後はすぐに倒れて今にも死んでしまいそうなか細い呼吸を繰り返すだけであった。
「……………なぜそこまで俺を恨む?お前の故郷が滅びたのは、お前自身のせいだと言うのにも関わらず」
「………………!?」
言うに事欠いて、この男は何を言っている?
朦朧とする意識の中、未だ冷めやらぬ怒りのみがただひたすら燃え上がる。
だけど体は言うことを聞かない。
故郷が滅びたのは自分のせい?
意味が分からない。
「なぜ滅びなければならなかったのだ?そう、お前が居たからだ」
気丈に睨みつけるミリアを見下ろし、大仰に両手を広げたエビルは高々と叫ぶ。
「忘れたのか?幼き頃、お前が壊してしまった封石の事を!」
エビルの言葉を理解するのを頭が拒否している。
だが非情にも思考は止まることを知らず、強制的に忘れたはずの過去の記憶が引っ張りだされた。
村の外れの祠の奥にあった、仰々しい封印が施された古そうな石。
何やら恐ろしい魔王や怪物が封印されているとかで、誰一人近づく者は居なかった。
もちろん親が子に注意することも多々あった。
決して近づくな、と。
しかし純粋で無邪気な子供は時に予想外な行動に出る。
ある日、約束を破って祠に入ったミリアが、それを興味本位で触って壊してしまった。
だけど何も起こらない。
怒られるのが怖くてすぐにその場を離れた。
誰だって聞いたことがある、幼き日の一つの過ちにすぎない。
だがそれが─────────。
「その石こそ、もう一人の破邪を生み出すために造られた封石!そしてお前は見事"破邪"の力を授かった。俺達、"破邪"の使い手は同類の存在を感じ取れる。お前も覚えがあるだろう?」
「な、に………いって………」
否定できなかった。
一つ引っかかっていた事があったのだ。
なぜ自分は、名乗られた訳でもなかったのに、国を滅ぼしたのが破邪の魔王だと知っていたのか。
(それは、無意識に存在を感じていたから………?)
もしエビルの言うことが本当なのであれば、この疑問にも合点がつく。
でも納得はしたくない。
自分が憎むべき存在と同類だなんて……………死んでも認めたくない。
「ククク、お前は"矛の破邪"だ!俺に取り込まれ、力となる運命にあるのだ!分かるか?お前を炙り出すため………あの日、国は滅びた。お前が居なければあんな末路は免れたのになぁ!!」
「そんな…………暴論よ……!」
更なる力を得るため?
その源である自分が居たから国が滅びた?
ふざけるなと言ってやりたかった。
皆をなんだと思っているのか。
そんな自分勝手な理由であれだけの命を奪って…………。
─────────でも、言葉が出ない。
「いいや、暴論ではない正論だ!お前が生まれなければ、今頃お前の家族や友人は平穏な日常を送れていただろう。だが!不運にもお前が生まれたせいで!そいつらの運命は狂ってしまったのだ!!"お前が居たから……………お前のせいだ"。少なくとも、死んだあの国の連中はそう思っているだろうなァ…………!!」
「…………嘘よ、皆が………そんな事───────」
無意識に涙が出てきた。
頑張った。
皆の仇を取るために頑張ったはずだ。
でも、その原因を作ったのは自分。
昔の愚かな行動が、皆を殺した。
きっとこれを知ったら皆は自分を恨むだろう。
罵倒されて、全てを否定されて。
一体なんのために……………。
心の支えがプツンと切れてしまった。
「……………うぁ………ぁ………!」
ひたすらに泣き崩れる。
その言葉が心に深く突き刺さった。
"お前のせいで………"
草原に少女の慟哭が響き渡る。
もはやまともに呼吸することすら危ういのに、それでも枯れることの無い涙と声を流し続けた。
うずくまった少女が、魔王の浮かべた邪悪な笑みに気づくことは無かった。
クリスマスにこの話を投稿するのって中々……………。
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