襲来(2)
「──────ちっ、まさかあんな所にこれほど高位な結界が張られていようとは…………。一体何者の仕業だ?」
しかも高位なだけでは無い。
〈破邪〉を使ってですら破壊できなかった。
いや、正確には違う。
破壊はできた。
しかし、破壊した傍から新しい結界が張られてしまい、ほとんど微動だにせず。
(あれはおそらく俺を相手に想定された結界……………なぜ、ここへ来るのが分かっていた?)
漆黒の中から姿を現したのは、身長三メートルはありそうな巨体を西洋の騎士のような鎧で武装し、背に銀色の大剣を携えた大男。
頭上には漆黒の角が二本生えており、口から覗く牙とうねるしっぽは彼が人外である事を顕著に示す。
"破邪の魔王"エビル。
それがこの男の名前だ。
滅ぼした国や街は数知れず、討伐に当たったSSランクの冒険者すら返り討ちにして今も尚、猛威を振るい続ける古参の魔王。
その歴史は数百年前まで遡る。
また、魔王として覚醒した理由など出自は全て不明であり、未だ謎多き魔王の一体でもある。
階級はあの"紅魔の魔王"と同等の天災級。
しかし能力だけで言えば神話級にも食い込むであろうチートっぷり。
出会ったら即人生終了な未曾有の大厄災だ。
こいつの気分次第で国が……………いや、世界が半壊する。
「さて、手始めにこの小さい村を潰すか。そのうちアレも出てくるだろう」
そこら辺のコンビニ行ってくるわ〜、みたいなノリで村を滅ぼそうとするのはやめて欲しい。
微かに聞こえるざわめきを無視し、村に向けてかざされた掌に火球が生成される。
見た目は小さいが威力は申し分ない。
着弾した途端、カディア村は跡形もなく消え去ってしまうだろう。
「…………そんな事、させないわよ!!」
「むっ!?」
突進気味に横薙ぎされた剣を片腕で防いだものの、勢いを殺しきれず弾き飛ばされた。
もうもうと立ち込める土煙を突っ切って突進する少女、ミリアがそのまま剣を振り上げ、いつの間にか抜剣していたエビルと衝突する。
一見、倍以上の体格差にミリアが不利と思われがちだが、ちゃんと鍔迫り合いで拮抗している。
修行の成果だ。
「お前は……………」
「あら、覚えてないのかしら?まぁあんたみたいな奴が覚えてるはずないわよね。……………私はミリア、あんたに滅ぼされた国の生き残りよ!」
瞬間的にミリアの魔力が高まり、エビルを押し返してお互いに距離が空く。
(目の前の敵に集中よ……………これが終わったら、ちゃんとあいつに謝るの)
だから今は──────────。
ギリッと歯を食いしばったミリアから紅の魔力が溢れ出し、己の剣に集って形状を変化させる。
〈無効貫通〉発動。
(だから今は、怒りのままこいつを叩き潰す………!!)
少し前にマシロに言われていた。
怒りは人を強くする。
でもそれに呑まれたら最後、取り返しのつかないものを失ってしまうかもしれない。
だから怒りの中に冷静さを同居させるんだ、と。
その時は一理ある、たしかに冷静さをかいてしまえば相手に後れを取ることもあるだろう。
と勝手に納得して、そうする事を心がけた。
でも。
いざ皆の仇を目の前にしたら、そんな事を言っている余裕はなくなっていた。
胸の奥からふつふつ湧き出る怒りがマグマのように心を煮え滾らせ、冷静な思考力をどんどん奪っていく。
今、残っているのはたった少しの理性だけだ。
これだけは失わないと決めたものだけが、心の隅でか細く生きながらえている。
五体に魔力が駆け巡るのを感じ、掌に爪が食い込むほど強く握った剣を思いっきり上段から振り下ろす。
紅の衝撃波がエビルを後ろへと追いやり、立て続けに追撃の袈裟斬りが大剣を捉えた。
ギャリギャリと甲高い金属が擦れ合う音と共に漆黒と深紅の視線が交差。
エビルの口角が不気味に吊り上がる。
「そうか…………お前が"矛の破邪"の使い手だな!待ちわびたぞ!!」
ヴヴッ!
と大剣の漆黒が深くなり、再び弾かれた二人の間に絶妙な距離ができた。
(私のスキルが相殺された…………ってことはあれが〈絶界〉ね)
草原を駆けて幾度となく剣と大剣が衝突を繰り返す。
エビルはどちらかと言えばその巨体を生かしたパワータイプだ。
対してミリアは小回りの利くスピードタイプ。
力での勝負に持ち込まれたら負けるのは分かりきっているので、ヒットアンドアウェイに徹した戦術で攻撃の手を緩めない。
「はああああ!!」
渾身の回し蹴りが顔面にヒットし、エビルを仰け反らせて数歩後退させた。
しかし、体勢を立て直したエビルの笑みは未だ消えない。
気味が悪い。
何かを狙っているのか。
(早めに決着をつけた方が良さそうね…………!)
さらにギアを上げる。
もっと怒りを込めろ。
感覚を研ぎ澄ませ。
手の甲を返して剣の切っ先を下に向け、剣技スキルによってブーストされた紅の刃を、不敵に笑うエビルの首筋へ──────────。
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