リーンは進むよどこまでも!
「さて、今のうちに魔物の死骸の回収でもしとくか」
そろそろ血の臭いやらなんやらがキツくなってきた。
そりゃこんだけの数居ればさもありなん。
肉や血の匂いを嗅ぎつけて新しい魔物が来ても面倒だし、さっさと【ストレージ】に収納してしまおう。
手をかざして地面に大きな【ストレージ】の入口を開き、シュンッと数々の亡骸を吸い込む。
もちろん魔王のもだ。
なんか最近、出オチ魔王に合う回数が多いんだよなぁ。
魔王のバーゲンセールだ。
もちろん彼らが弱いから出オチするんじゃなくて、これに関しては相手が悪いの一言に尽きる。
何せ固有能力や魔王たる力を見せつける前に瞬殺だからね…………まぁ、もう少し粘っても良いとは思うが。
こいつらは後でギルドに買い取ってもらう。
たぶん結構な収入になるんじゃないだろうか。
ほとんどがリーンの功績なので、当たり前だが報酬も全部リーンに渡すつもりだ。
俺がやったのって魔王を殴っただけだし。
雑魚はリーンが重量魔法で一掃してたからな……………てかやっぱり臭いすごいな。
残った血や腐敗臭だけでもこの臭い。
早めに処理しないと。
そよ風を発生させる風魔法で周りに迷惑がかからない程度に臭いを分散させる。
血に関しては………………どうしよう。
服みたいに水魔法で吸収(シミ取り)って訳にも行かないし、土魔法で上から新しい土を被せるか?
それかもういっそ、これも【ストレージ】に収納してみるか………………あ、もしかしたら光属性の浄化魔法で何とかなるかも。
光属性中級魔法【浄化】。
アンデッドに対して大ダメージを与えるのはもちろん、物体から不純物を取り除くこともできるため、割と汎用性の高い魔法の一つだ。
地面に向かって使ったことは無いが、浄化する対象を血だけに絞り込めれば何とかなるかもしれない。
「試しに…………【浄化】っと」
広範囲に魔法陣が広がり、シュワァ…………と淡い光が立ち昇る。
すると、地面にこびり付いていた血やらなんやらが、まるで洗濯されたかのように剥がれ落ちて綺麗になった。
光が収まるとそこには元通りの地面。
おそらく成功のはずだ。
よし、これで安心安心。
仮に血が残ったままだったら、ふと通りかかった人が驚くどころの話じゃ済まないからな…………。
「マシロさん、着替え終わりましたよ。いかがですか?」
後ろから声がして振り返る。
そこには自慢げに胸を張るリーンと、ぷいっと顔を逸らした少女が居た。
体や髪の毛の汚れはすっかり落ちて綺麗な色を取り戻しており、赤毛はサイドテールに纏められ、用意したスカートには慣れていないのか少し下を気にしている。
なぜスカートなのかと言えば、理由はただ一つ。
もしこの服装のままスマッシュしようとすれば、必然的にスカートがめくれ、パンツが見えてしまうから。
少女の性格からして、俺にパンツを見られるなんて最も避けたいことだろう。
ふふふ、これでもう金的はできまい!
本当に痛いのよあれは……………。
それはさておき。
改めて見るとすごく可愛い子だ。
銀に赤をブレンドしたかのような髪を太もも辺りまで伸ばし、気が強そうな同色の瞳は未だ警戒心が抜けていないようで俺を睨む。
全体的に小さ……………こほん、華奢な彼女の首には似つかわしくない黒光りする首輪が付けられていて、ピンクの可愛らしい服との差がえげつない。
で、この子をこれからどうするかだが………………とりあえず、王都に店を構える奴隷商のダグラスさんの所に行こうと思う。
少し前にアイリスとクロを"買った"場所だ。
あの人ならこの問題を解決する方法を知ってるかもしれないからね。
「悪い。時間かかりそうだから、リーンは先に帰っててくれ」
「嫌です」
「まさかの即答!?」
何とか転移魔法もしくは飛行ないし走りで運ぶべく、シャー!と威嚇する少女と格闘する傍ら、ズバッとそう言い切ったリーンを思わず振り返る。
隙をつかれて引っ掻かれる俺の腕をギュッと抱きしめ、聖母のようににっこり微笑むと。
「私も連れて行ってください」
「い、いやでも、また突然リーンが居なくなったら皆心配するだろうし……………」
「大丈夫です。お父様は既にこの未来を見ていらしましたから。もう別れのご挨拶は済ませて来ました」
「え」
「ですので、このままマシロさんのお家に厄介になろうかと」
ふんす!と目をキラキラ輝かせて胸の前で拳を握り可愛らしいポーズをとるリーン。
えっ、待って聞いてないんだけど……………まさか行く前に、あんな仰々しい見送りをしてたのってこれが理由…………?
「え?あれ、お母様が伝えたと言っていたのですが……………」
昨日、リーンは王女としての仕事で全くと言っていいほど時間が取れなかったため、たまたま暇だったユラさんに伝言を頼んだそうなのだが。
……………さてはわざと言わなかったな?
"サプラ〜イズ!"とサムズアップするユラさんが易々と想像できる。
完全に見抜かれてるなこりゃ。
相手が俺だったから良いものの、普通なら追い返されても文句は言えないぞ……………。
ある意味、信用されていると捉えられない事はないが…………。
何かしら仕掛けてくるだろうと身構えていたが、まさかこのパターンだったとは。
予想外すぎる。
追い返すのは簡単だ。
しかし、その場合は色々な意味でかなり面倒な事に……………そもそも、リーンに帰る気なんてさらさら無いだろう。
そして俺もまた不覚にも、リーンと暮らしたら今よりもっと楽しく生きられそうだと思ってしまったのは事実だ。
……………………ここで"これがlikeなのかLoveなのか〜"ってくだりやったら、それはもうフラグだよなぁ。
いい加減に認めてしまえば良いものを。
「………………分かったよ、行こう」
「皆がなんて言うかは分かんないけどね」、と付け足す。
俺の言葉を聞いた途端、ぱぁ!と満開の笑顔を咲かせ、溢れ出す嬉しさのまま抱きつく腕にぎゅぅ……!と力を込めた。
二の腕を包む感触に決してニヤニヤしない。
ふにふにしててもっと触りたいとか思ってなんてない。
ないったらない。
平常心だ。
なぜなら目の前で冷ややかな視線がじーっとこっちを見ているから。
こほん。
それじゃあ早速王都に向かうとするか!
「あ、そう言えば名前聞いてなかったけど、なんての?」
「アンタに教える名前なんて無いわよ!」
「辛辣だ!?」
この子、基本的に男嫌いなのだろうか……………それとも俺、個人が嫌いなのか。
後者だった場合泣くよ?
「まぁ名前は今聞かなくても、どうせ後で分かるからいいんだけどさ……………」
「?ちょっと、それってどう言う────────」
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