旅路(3)
『キシャァーーーーー!!』
「いやあああああーーーー!!クモは嫌ですぅぅぅぅ!!!」
砂漠を横断し、森林の手前で一泊した次の日。
あの灼熱の太陽は何だったんだと言いたくなるような程よく暖かい日差しが木々を照らすお昼頃、森に響き渡るのは多数の咆哮と一つの悲鳴。
ガサガサと雑草を掻き分ける音と共に、断片的にカサカサと何かが地を這う音も聞こえてくる。
背丈の五倍はありそうな立派な木々の間をすり抜けるように走り、リーンを抱えた俺はひたすらに逃げる。
奴らとの距離を少しでも離さないと…………!
小さな崖から飛び降りざまにちらりと後ろを振り返ると、三十メートルほど離れた場所にものすごい勢いで追いかけてくる大量のクモ達を捉えた。
しかも大きさが半端じゃなく、少なくとも普通サイズの犬くらいはある。
そんな奴らが数えられないほどいる上に、八つ足を巧みに動かしながら顎をキシキシ動かして我先にと接近してくる。
おまけに異世界だからか知らないが、ものすごく厳つくグロい見た目。
もはや軽くホラーだ。
既にこいつらとの鬼ごっこは十五分を優に超えていた。
本当にしつこすぎる。
別にナワバリを荒らしたり刺激した訳じゃないのに、本当に何で!?
未だにここまで粘着質に追いかけられる理由が見当たらない。
何か奴らが追いかけるに至るようなホルモンでも分泌しているのだろうか。
ちなみにリーンは相当クモが苦手らしく、はたと出会ってその赤黒いキューティクルな目が合った途端、うぼぁ…………と白い何かを吐き出して卒倒してしまった。
そのため、こうして俺が抱えて逃げているという訳だ。
いつもの雰囲気はどこへ行ってしまったのか、腕の中で生まれたての子鹿のようにぶるぶる震えている。
そんなにクモ怖いのか…………。
正直俺もあれがGだったら同じ反応をしてる自信があるので、気持ちはすごく分かる。
こんなのトラウマ確定だ。
て言うか何であんなに厳つくなってるんですかね!?
表面の輝き方とか完全に鎧のそれだし、なんか足の先っぽはカマみたいに鋭いし。
クモの口とか目ってこんなに凶悪だったっけ?
これ完全にあかんやつじゃん……………しっぽの針は一体何に使うのか…………。
「これでもっ、喰らえ!」
『キシャア!?』
風魔法を発動し、空気が圧縮された無数の翠色の刃が群がるクモ目掛けて飛んで行き、手前を走っていたクモ達を一刀両断するだけでは飽き足らず遠くの方まで一直線に風穴を開ける。
これで結構な数が減ったはず。
が、すぐさまどこから来たのか新しいクモが現れ、また俺達を追いかけ始めた。
くそっ、倒しても倒してもキリが無いな……………。
こいつら無限に湧き出てくんの?
そう思ってしまうくらい、先程から倒しても倒しても数が減らないわ勢いは衰えないわ。
俺、前世でそんなにクモに嫌われるようなことした…………?
生態系を破壊しちゃうから派手な魔法は使えないし…………ええい、面倒な。
ここが森じゃなくて更地だったら辺り一帯を焼き尽くせたものを。
火属性魔法の中でもトップレベルに火力の高い魔法を惜しげも無く使ったものを!
………………どうしよう、このままじゃ埒が明かない。
案内役のリーンもこんな感じだから国までの距離も分かんないし。
いやまぁこんなの引き連れていったら迷惑でしかないから、さすがに着く前には振り切らなきゃ行けないんだけどさ。
「………………あっ、マシロさん、あいつらが何か──────!」
「え」
やっとこさ復活したらしいリーンが俺の首に手を回して抱きしめながら、恐る恐る後ろを見て驚愕の声を上げる。
釣られて視線を向けると、なぜかクモ達が走りながら状態を少し逸らしてググッと何かを貯めていた。
顎が開いて口から飛び出したのは、きらりと陽の光を跳ね返す綺麗な糸。
それを木に巻き付けたかと思うと。
「スパ〇ダーマンかよおぉああああああ!?」
どこぞの某アメコミヒーローのように糸を使って器用に木々の間を抜け、色々な角度から着実に距離を詰めてくる。
あまりにも華麗すぎて不覚にも一瞬クモがかっこよく見えてしまった。
再び見た時には意味が分からないしか出てこなかったが。
ともかく、奇しくもその光景をガン見してしまった俺は目の前に崖が迫っている事に気が付かず、そのままスカッと空を蹴って宙に身を投げ出してしまう。
そしてそんな突っ込みを叫びながら、高さビル五階分はありそうな崖から落下した。
幸い下にはまだ森林が続いており、落下の衝撃も木々が全て受け止めてくれたので無傷で済んだ。
あのまま地面に叩きつけられてたら俺はともかく、リーンが危なかったもんな……………。
この木達に感謝しないと。
「これは………もしかして振り切れましたか?」
「……………そうみたいだね………。さすがにあいつらもここまでは追って来れなかったか…………」
クモが空からダイビングしてきたらさすがに俺も発狂すると思う。
"晴れのちクモ"なんて天気があってたまるか…………………はぁ、精神的にすごく疲れた。
「ですね………ここは静かですし、少しだけ休んで──────────」
ビュッ………ボトッ!
ボトッ、ボトボトボトボトボト!!
「「…………………………」」
『『『キシャァーーーーー!!』』』
「うぼぁ」
「あ、リーン!?」
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