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旅路






朝食を済ませ、テントを解体したり焚き火を消したりと後始末を終えた俺とリーンは、森林に隣接する荒野を突っ切ってとある峡谷(きょうこく)までやって来た。


一国を分断するかのようなこの巨大な峡谷は、最大で上下の標高の落差が富士山並もあり、剥き出しの岩壁には当然ながら整備された道なんてない。

(かろ)うじで使える足場も(もろ)くいつ崩れてもおかしくないほどボロボロだ。

ほんの少し足を踏み外しただけで死に直結する非常に危険な場所である。



ちらりと視線を下に落とす。



V字の溝はどこまでも続き、ある一定の距離より先は暗黒に包まれて風の吹く音だけが不気味に響くのみ。

あそこより下は未開の地だ。

何があるか知る人は居ない。


過去何度も冒険者や専門家を含む捜索隊が選出され探索を試みるも、未だかつて一度たりとも帰ってきた前例が無いのだ。

今ではその恐怖も相まって、この峡谷には歴代最強の魔王が隠れ住んでいるだの、ドラゴンの巣窟だの。


そう言った都市伝説なんかが後を絶たない。

突拍子が無さすぎて「いくら何でも…………」と思ってしまうが、実際にこの峡谷では()()()魔力が拡散してしまい魔法が使えない。

まぁ別格の魔力があれば七、八倍ほどの魔力で、常時の十分の一ほどの効果の魔法が一応使えるが……………あまりにも割に合わなすぎる。


という訳で、あながち間違ってるとも言いづらいなんとも不思議な峡谷なのだ。

とりあえず下に何かはあるんだろうね。

アーティファクトかはたまた本当に魔王が居るのか、実は単純に自然の成す現象なのか…………答えは分からないが、じゃないと魔力の拡散の説明がつかない。


え、自分で見に行けばって?

嫌だよ怖いじゃん。

俺は暗い所が苦手なんですよ、っと。

岩から岩へと飛び移り、岩壁に背を預けながら下を見てごくりと喉を鳴らす。


ぜっっっっっったいあんな所行きたくない…………。

もう嫌な予感がビンビンするもん。

細心(さいしん)の注意を払って進まなきゃ。


もし落ちちゃったらシャレにならん………………今はフィジカルに頼るしかないからね。

いざと言う時は岩壁を走るか…………?



「あ、マシロさん、そこの岩は崩れそうですから気を付けてください」

「マジか、助かる」



足場のないはずの真横からリーンの声が聞こえた。

………………なんかこう言うと少し怖いが、決してなんて事なくただ腰の翼をはためかせて飛んでいるだけである。

リーンは魔力無しで普通に飛べるから楽でいいな…………。

言われた通り目の前の岩を飛び越して着地し、再び歩を進める。



「えっと、どこまで話しましたっけ」

「パートナーを見つけるために旅に出た〜、って所までだね」




またここに来るまでに、リーンの話も聞いていた。

(いわ)く、リーンは生まれてから一度も他人の血を飲んだ事がなかったらしい。


と言うのも初めては運命の人に捧げると決めていたらしく……………。

それ自体は一途で素晴らしい理由かもしれない。



しかし、吸血鬼にとって血とはまさに生きる糧であり生命線。

血を長い間摂取しなければ思うように力を発揮出来ず、最悪の場合日常生活すらままならないほど衰弱してしまう事もあるそうだ。

それを十数年続けたって、ある意味すごすぎる。

国に居た頃は毎日周りの人達に心配されまくっていたそうな。


そりゃそうだ……………。



で、いつまで経っても運命の人が現れない事に痺れを切らしたリーンは、思い切って国を出て(無断)、運命の人探しを始めた。

しかし例の森林に入った直後に突然、魔王ゼグラルが現れて襲われてしまった。

当然、血を吸っておらず、力が全く発揮できないリーンは一方的にボコられて手も足も出ない。


万全の状態ならむしろボコボコにしてやれたらしいが………………結局はそのゼグラル(バカ)のおかげで、俺と出会えた訳で。

運命の人……………運命の人ねぇ。

何を基準に運命の人と判断してるのだろうか。



「そんなの、血の匂いと味に決まってるじゃないですか!他の人の血だと、どうも匂いだけで受け付けられず……………どうしてでしょう」

「知らんがな………」



そんな事ある?

まぁ吸血鬼だから血が好きだろと決めつけるのは良くないが、ある特定の一人の血以外吸えないって…………。

もしその特定の一人が見つからなかったらどうなっていた事か。

偶然とは言えクエストであの森林に来てて良かったな、本当に。



「ふふっ、これこそまさに運命ですね!」



嬉しさを隠しきれず微笑みながらガッツポーズするリーンに対して、俺は反論なんて野暮な事をする気にはなれなかった。

リーンを花嫁にするかは置いておいて。




『グアアアアアア!!』


「お?」

「え?」



先程まで俺とリーンの声しか聞こえなかった峡谷に、鳥類特有の鳴き声が響き渡る。

バサバサと巨大な翼を羽ばたかせながら上空から飛来したのは、トンビ顔負けの厳つい見た目をしたバカでかい鳥。

爪や(くちばし)がものすごく鋭く、俺とリーンを睨みつける獰猛(どうもう)な朱色の瞳がすっと細められた。


いや、デカすぎない……………?

建物より巨大なこいつはマスルバードと言って、これでも現存する普通の生物なのである。

たしか魔物を除外した純生物の中で一位二位を争う大きさだったはず。


こいつの生息地ってここだったのか…………。








補足


マシロは割に合わないだけで、使おうと思えば魔法は全然使えます




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