プロローグ ルート"α"
「…………ん、ふぁぁ〜………」
深い眠りから覚めた俺は、のっそりと上体を起こして腕を真上に伸ばし、眠たげな欠伸を一つ。
んぁ〜、よく寝たぁ………。
やっぱり今も昔も、休日に昼近くまで眠る快感はたまりませんな。
薄い布団をどかして、まだ寝ぼけている頭をかきながら眩しく朝日の指す窓を開く。
すると、そよそよと草木をなびかせた風が頬を撫でて寝室に入り、家の横に立った木からは子鳥の綺麗なさえずりが聞こえてきた。
うむ、今日も空は快晴で風もいい感じ!
絶好のゴロゴロ日和だ。
え?こういう日こそ出かけなきゃもったいない?
ふっ、これだから素人は…………考えてもみろ。
太陽で程よく温められた草原に寝っ転がって昼寝するの、めちゃくちゃ気持ちいいに決まってるじゃん。
それに俺は圧倒的なインドア派なのだ。
たまにのピクニックなども好きだが、結局こうしてダラダラと過ごすのが一番好き。
やっぱりこういう事考える度に、こんな良い場所に家を建てられてラッキーだったと思う。
まさに俺がスローライフを過ごすためにあるようなもの、と言っても過言では無いはずだ。
窓枠に腰掛けながら改めて一人でそう頷く。
と言うのもこの木造建築二階建ての我が家、建っているのはなんと"クーラン草原"という、世界一広いと言われている丘のど真ん中。
さらにはその下に栄える村、"カディア"が一望できる絶好の名所なのだ。
ちなみに誰しもが最初は思う、名前に"草原"とついているのに"丘"とはどういう事なのか、という疑問。
これは実際に来てみると分かりやすいんだけど、ここってほとんど目立った起伏がないんだよね。
俺の住んでる所は多少上下してて、特に家がある所は高くなってる。
けどそれ以外はあんまり見た目が草原と変わらず、極わずかな傾斜があるだけ。
だから町の人達はここを"丘"って呼んでるけど、違う場所から来た人達は"草原"って呼ぶ。
地球ほど明確に定義されそれが浸透している訳でもないので、さらにこの地形ともなると食い違ってしまうのも当然だ。
正直どっちでもいい。
ただ観光名所として有名になってるのは、"クーラン草原"の方の名称らしい。
最近では村の人達でも"丘"って呼んでるのは、昔からここに住んでるお年寄りくらいになっている。
若者の間では"草原"の方が浸透してるみたいだ。
…………あ、そうそう。
言い忘れてたけどここって結構有名な観光地なんだって。
そりゃまぁ世界一広い草原(丘)だし、もう一つの理由としては"草原の剣聖"こと俺がここに住んでるからだ。
自分で自分の二つ名を紹介するとか新手の羞恥プレイにしか思えないけど…………。
最初にそう呼び出したのは、どこからか来た冒険者パーティの人達だったんだけど、今やそれが世界中に知れ渡る名前になるとは。
まぁそもそも、その人達が"草原の剣聖"なんて呼び始めたのは村の人達が原因なんだけどね!
あいつらマジで一生許さん。
この村が作られた時からずっとここに住んでいるせいか、俺は村人から"剣聖様"と呼ばれ敬われている。
下手したら村では俺の事を守護者として祀ってるくらいだ。
わざわざ丘を登って差し入れしてくれる人まで居たりする。
それもこれも俺が昔に立てた功績あってこそだろう。
…………とまぁ一旦それは置いておいて、改めてこう村を眺めていると感慨深いものを感じる。
昔なんて村自体がもっと小さくて、行商人もほとんど居なかったからね。
それが今や、ここまで大きくなった。
そりゃあそこら辺の立派な町に比べれば小さいし活気も足りないかもしれない。
けれど自分が作るのを手伝った村ともなると、より一層なぁ…………。
「ご主人様、朝ですよ〜。もうそろそろ…………あ。おはようございます、ご主人様」
ガチャッと優しくドアが開く音がして振り返ると、部屋の入口の前にラフなワンピースに花柄のエプロンを付けた少女が立っていた。
人族よりとんがった耳と並外れた美貌を持つ彼女は、かのファンタジー作品ではお馴染みの種族…………エルフ族のアイリスだ。
アイリスは少女と言うには主張の激しすぎる膨らみの前で手をぽんと合わせて、可愛らしい微笑みと共に朝の挨拶を口にした。
エプロンを押し上げる二つの膨らみが妙にえっちい。
そんな彼女の華奢な首には、光を反射して黒く輝く首輪が付けられている。
少女には似つかわしくない首輪は、この世界で奴隷の証として使用されている"隷属の首輪"。
つまりアイリスは俺の奴隷なのだ。
「おはよう、アイリス。皆はもう起きてる?」
「はい。…………と言うか、ご主人様が遅すぎるんですよ?」
「ごもっとも」
「また夜更かししてたんですか?もっと規則正しくとまで行かなくても、九時くらいには起きないと健康に良くありませんよ〜」
「分かったよママ………」
母性の塊のような表情のアイリスにそう言われては頷くしかあるまい。
のんびりした返事を返しながら、アイリスは俺の脇に手を入れて窓枠から下ろし、シャッ!とカーテンを開ける。
身長がそこまで変わらないはずなのに、こうも軽々と持ち上げられるのはさすが魔法のある異世界と言うべきか…………。
「じゃあ俺も着替えたらそっち行くから」
「は〜い。ちなみに今日の朝ごはんは、ご主人様の大好きなフレンチトーストですよ」
「お、それは急がないとな」
アイリスの作るフレンチトーストは絶品だ。
正直、お店で出しても爆売れする予感しかない。
いやぁ〜………毎日アイリスの手料理を食べてるおかげで完全に胃袋を掴まれた。
家事も万能だし、本当に俺にはもったいないくらいの女の子だ。
「ご主人様、目やにがついてますよ。私が取りますからちょっと動かないでくださいね?」
「ありがと〜…………っていや、それくらい自分でんむっ!?」
「んっ、ちゅ………ちぅ…………っ、ぷはぁ………!」
「─────ぷはっ!?………はっ…………はっ………ちょ、いきなり何してんの!?」
「何って、もちろんおはようのキスですよ、キス!( • ̀ω•́ )ドヤッ」
かなりディープめだったね!
危うく窒息死するかと思ったわ!
離れた二人の間に細い銀の糸が繋がり、光を受けて艶めかしくてらてら輝く。
ごめん、朝のキスってもうちょっと穏やかなものじゃなかったっけ。
いきなり舌が入ってきてびっくりしたんですけど。
「はぁ………♡ご主人様、そんな可愛らしい表情をされたら…………何だかムラムラして来ちゃいました♡」
「わっ、こら!」
至近距離で頬を赤く染めたアイリスが、そのまま身長差を利用して覆い被さるように布団に俺を押し倒す。
くっ、倒れた勢いでアイリスのけしからん胸が思いっきり押し付けられてる………!
ふよん、ふよよんって!
けしからん…………実にけしからんぞ!
とか思ってたらまたアイリスの顔が近づいてきて、問答無用で本日二度目のディープキス。
今度はがっちりと体がホールドされているので、一切の逃げ道がない。
まさにされるがままだ。
そして散々アイリスに口内を貪られ、やっと開放されたかと思いきや。
「はぁ、はぁ………ご主人様、このままシちゃいましょう………?」
「しちゃうって何を!?」
思わずそうツッコんだが、全く意に返さず馬乗りの体勢で俺のパジャマのボタンを一つずつ外していくアイリス。
あーこれはあれですね、完璧にスイッチが入っちゃってる感じですかね!?
どうやらオオカミさんになってしまったらしいアイリスさんは、グリグリと魅惑のヒップを俺の下腹部に押し付けて刺激を与えつつ、露わになった素肌を人差し指でなぞって感嘆の息を漏らす。
熱に浮かされた今の彼女は、ぺろりと舌で唇を舐める仕草一つですらとても艶めかしい。
そしてついに、アイリスも自身のワンピースに手をかけ、太ももの絶対領域を超え女子の秘密の花園を露わにしようとした、次の瞬間。
「シロ様?さっきアイリスが起こしに行ってたけど────────って、あーーーっ!?アイリス、何やってるの!?」
アイリスがワンピースを持ち上げる直前、開けっ放しだったドアから赤毛の少女が顔を覗かせた。
まだ幼さが残る顔立ちの少女は瞳も髪色も燃えるような紅色で、可愛い水色とピンク色の部屋着を身にまとっている。
首にはアイリスと同じ首輪があり、それが彼女も俺の奴隷であることを示していた。
名をミリア。
彼女のおかげで、日中の寝起きにいきなり襲われるという特殊イベントを避けることができた。
ナイスタイミングだミリア!
アイリスがミリアの襲来に驚いて固まっている隙をついて、すぐさま布団から抜け出しリビングに逃げる。
決して後ろを振り返ってはダメだ。
「あっ、ご主人様!?」
「"あっ、ご主人様!?"、じゃないわよ!まったく、目を離せばすぐにシロ様を襲って………!」
「だ、だってしょうがないじゃないですか!ご主人様を見てたら─────」
「だからって──────」
「「そ──────」」
背後で二人が何か言い合っているのが聞こえるが、扉二つを隔てたリビングまで来るとほとんど聞こえなくなってしまった。
すまんミリア、俺は二人の前では無力だ。
君の勇姿は忘れない…………!
「………ん〜。主、ドタバタ聞こえたけど無事?」
「あはは、まぁ何とかね………」
一息ついてソファーに腰を下ろすとすぐに、とてとて歩いてきた猫耳少女が当たり前のようにポスンッ、と俺の太ももの上に座る。
曰く、ここは自分の特等席なのだとか。
俺も慣れたものなので、クロが座りやすいように少し足の位置を調節してあげる。
しっくり来たのか、クロはむふーっ!と満足気に鼻息を漏らした。
「まったく、アイリスさんは油断も隙もありませんね〜。寝起きのご主人様を襲うとは…………」
「いや、アイリスもイナリには言われたくないと思うぞ?この前、発情期で昼夜問わず襲ってきただろ」
「あ、あれ〜、まさかの反撃です!?て言うかそれは仕方ないじゃないですか、発情期は獣人の習性なんですよ!」
さらに、キッチンから出てきた少女が俺の隣に腰掛け、腕を掴んだかと思うとその豊満な胸に抱きしめる。
おふぅ、予想外の攻撃!
極力顔に出さないようにしていたが、どうやら膝の上のクロには感じ取られていたようで。
能面のような無表情のクロがイナリに向かってトゲのある言葉を放つ。
「イナリは年中発情期」
「ふむ、確かに」
「ひどい言われようですぅ!」
あんまりだぁ、と涙目の少女の頭上では、獣人の証たるケモ耳が抗議するよりにピクピク動いている。
時々頬に当たってくすぐったい。
しっぽも心做しかいつもよりぶんぶん振られているような。
あー、可愛い癒されるぅ………。
うちの癒し系少女達は今日も絶好調なようだ。
実はこの二人も首輪が示す通り俺の奴隷で、若干口下手な黒髪の子は猫の獣人のクロ。
アイリスと同じ時期にうちに来た俺の相棒だ。
クロは日向ぼっこが好きだから、時々二人で草原に昼寝しに行ったりするんだよね。
で、もう片方の茶髪の子はキツネの獣人のイナリ。
イナリは元々奴隷じゃなかったんだけど、とある事情で助けたら、自分から俺の奴隷になりたいとここを尋ねてきた。
鶴の恩返しならぬキツネの恩返しか………。
そして最後に。
「主様、おはようございます。何か飲みますか?」
「おはよう。じゃあお茶を貰おうかな」
頭に黒い小さな角が生えた、サキュバスと吸血鬼のハーフであるリーン。
ちなみに特有の翼は普段は邪魔なので背中に収納しているらしい。
今は先端がハートマークの細い尻尾がゆらゆら背後で揺れてる。
この五人が俺と共にこの家で暮らしている、奴隷改め大切な家族達だ。
どうだ諸君、羨ましいだろう!
だがこれで終わりじゃないぞ、実はさらにもう少し居住者がいたりする。
「ワタシを呼んだか、なのだぁ!!」
勢いよく扉を開けてリビングに入って来たロリっ子が一人。
この子こそ、その住居者の一人であるノエルだ。
銀に水色が混じったかのような不思議な色の髪は結ぶことなく雑に膝下まで下ろされ、左右の触覚にはピンクの髪飾りが一つずつ付けられている。
二百年以上も前から苦楽を共に生きてきた、一番付き合いの長い俺の嫁だ。
実は彼女の他にあと一人居るのだが、今は買い物中なので紹介はまた今度にしよう。
「む、どうしたのだマシロ。そんなにワタシを見つめて」
「…………いやー、ついあの頃を思い出しちゃってさ。皆に出会ったばかりの頃を」
ノエルに至ってはもう二百年以上も前のことなんだけど、そう言われても実感わかないなぁ。
つい数年前の出来事だったかのように、今でも脳裏に鮮明に刻まれているあの時の記憶。
当時は色んなことが重なって、今より忙しかったからスローライフどころの話じゃなかった。
だがそれも今ではいい思い出だ。
もちろん皆と出会ったことも。
と言うか、起こったイベントの数と濃さで言えば、クロ達に出会ってからのここ数年が圧倒的に濃かったけどね。
良い意味でも悪い意味でも。
「懐かしいな………」
こんな話をしていたせいか、ふとあの頃の記憶が頭をよぎった。
俺は皆の顔を見ながら、あの懐かしき記憶を思い起こす。
そう、俺が異世界転生を果たしたあの頃の事を。
※本作は作者の妄想垂れ流しのスローライフ物語となっております。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
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