エピローグ
『これからどうするのじゃ?』
脳裏にニャルの声が響いてくる。
僕がセドリックを倒し復讐を果たしてから、丸一日が経っていた。
まだ暗い空の下、セドリックの屋敷から僕たちは逃げる様に脱出した。屋敷の人間は誰一人残っていなかったが、時間が経つと人が集まってくるからだ。
僕がセドリック達を殺したとバレると、当然お尋ね者という事になる。
衛兵や騎士に加え、グレゴリウス法典を破ったことになるため聖神教会が乗り出してくる可能性だってある。間違ったことをしたとは思わないが、身動きが取れなくなってしまうのは困る。
だから僕たちは宿にこっそり戻ってきたのだけど、やはり疲れていたのだろう。
丸一日ぐっすり眠ってしまい、今はその次の日の朝だ。
「ねぇねぇ、わたし、お腹すいちゃったよ」
セラが僕の腕を抱きかかえたまま、僕の顔を見上げて言った。
そう、僕とセラは朝食を食べに外に出てきていた。
まだ寝てる人もちらほらいる時間帯だったが、商業都市であるここヌベールは朝でも人通りが多く賑やかだ。
これからどうするか、は考えていた。
もちろん、今から食べる朝食の話ではない。
「僕は、セラにも家族の仇を討って欲しいと思っている」
ボドワン・ドロール子爵にめちゃくちゃにされた家族の仇を、セラ自身に討って欲しいと考えていた。僕はセドリックへ復讐を果たし、自分自身で一歩前に進めたような気がした。それをセラにも感じて欲しい。
『良いのではないかの。確かに自分自身で自分の過去にケリをつけなければ、見えぬ物もあろう』
『……ハシュはどちらでもいい。……めんどくさい』
姿を消している、ニャルとハシュの声が聞こえてくる。
ニャルも賛成してくれている。ハシュは、まぁ、そんなものか……。
「うん、分かった」
セラは、すこしだけ真面目な顔で頷いた。
「わたし、やるよ。アレスとニャルちゃんが言うならきっとそうなんだと思う。ボドワンさんを倒すよ」
そして、セラは「わたしの事を考えてくれて、ありがとうね」と微笑むと、僕の腕をぎゅっと抱きしめる。
腕に伝わってくる柔らかい感触とその微笑みに、気恥ずかしくなり思わず視線をそらしてしまう。
「……うん、まぁ、とりあえずは朝ごはんだね」
ごまかす様に言うと、セラが「ピザが食べたい!」と声を上げる。
「ピザか、いいね」
今日の朝食はピザで決まりらしい。
僕は、ふと、空を見上げた。
今日は晴天。どこまでも抜けるような青空。
僕の隣には、もうヴァレリヤはいない。
でも、僕を理解して応援してくれる人たちがいる。そして、この道はヴァレリヤの魂を救う事に繋がっているのだ。
だから寂しくない。
来世でまた会えるから。
――また会おうね、ヴァレリヤ。
第一章はこれで終わりです。
第二章も書き溜めてから一気に投稿しますので、まだ先になると思います。
その前に、ほかの長編を書き始めるかも。次はフツーの話にしますので、よろしくお願いいたします……。




