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第4話 行き倒れの老人

王都を出発してから四日目の昼。

水と食糧が底をつきかけてきた頃、俺は行き倒れの老人に出くわした。

急いで駆け寄り抱きかかえると老人はうっすらと目を開け「み、水……」と口にした。


俺は残り少ない水を老人に飲ませてやる。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ……生き返ったよ。ありがとうお若いの」

老人は水を飲むと嘘のように元気になった。

俺は三十六歳と決して若くはないのだが老人から見たらまだまだ若い部類に入るんだな。


「何があったんですか?」

「わしはこのずっと先の小さな村で村長をしとるガゼフという者じゃが、王都にいる冒険者に依頼をお願いしようと思いここまで歩いてきたのじゃ……しかし力尽きてしまってのう」

ガゼフさんは俺の目をしっかりと見て話す。


「冒険者に依頼ですか?」

「うむ、うちの村にモンスターが現れたのじゃ。とても頭のいい奴でのう、人間の言葉を話しよるんじゃ」

「人間の言葉をっ!?」

「そうじゃ」


人間の言葉を話すモンスターなんて【紅の旅団】で活動していた時だって聞いたことがない。

もしそんな奴がいるとしたら明らかに最上位種のモンスターだろう。


「あの失礼ですけどなぜガゼフさんが伝令役を? いくら村長だといってももっと若い男性がやるべきでは……」

「男たちはみな海に出ておる。村にいる男はわしを含めた年寄りと子どもだけしかおらんのじゃ」


辺境の地では男が遠方に漁に出て半年から一年帰ってこないというような生活をしている村があると聞いたことがある。

きっとガゼフさんの村もそうなのだろう。


「そのモンスターは家畜をすべて食い殺した後こう言ったんじゃ。二日後にまた来るから家畜を用意しておけ、さもなくば村人を皆殺しにすると」

「そんな……」

「じゃからわしは急がんといかんのじゃ」

ガゼフさんが立ち上がろうとする。


でも……。

「ちょっと待ってください。俺は王都から来たんですけどここまで来るのに三日かかったんですよ。だからガゼフさんが今からどんなに急いでも二日後には間に合わないですよ」

「なんということじゃ……王都はそんなに遠いのか……」


王都までの距離すら知らないなんて、かなり外界と隔離された村から来たようだな。


「ではわしたちはどうすれば……?」

すがるような目で俺を見てくる。


「酷なようですが村を捨てて逃げるしかないでしょう」

「駄目じゃ、それだけは出来ん。飢饉からも津波からも長年耐え抜いた村じゃ、モンスターごときに明け渡してたまるかっ」

「でも――」

「それに村を捨てたら男たちはどこに帰ってくるというのじゃ! 家族がバラバラになってしまうわい!」

ガゼフさんは悔しそうに自分の膝を何度も叩いた。



「あの……」

落ち着け、俺。冷静になれ。

今一瞬頭をよぎったバカな考えは口にするな。

俺は心の中で自分に言い聞かす。


「あの……俺、実は……」

やめろ、言うな!


「つい四日前までSランクの冒険者……でした」

あー……言ってしまった。


「お主が冒険者……?」

「は、はい」

ガゼフさんのやるせない様子を見ていたら俺はとんでもないことを口走ってしまっていた。


「確かSランクというのは冒険者の中でも最高位じゃったはず……それは、それは本当かのう?」

「はい、一応そうです」

バカバカ、俺のバカ!

戦闘経験ゼロのただのお荷物おっさん鍛冶職人のくせに!


「な、なんという奇跡じゃ。こんなところでSランクの冒険者さんにお会いできるとはっ。これぞまさしく神のお導きじゃ」

俺の言葉を受けてガゼフさんの表情は一転してぱあっと明るくなった。


「お主、いや、あなたのお名前はなんというのですかっ、うかがってもよろしいかな?」

「えっと、俺の名前はバランといいます」


こうして中途半端な見栄と正義感が災いした結果、俺はこの後一人で最上位種のモンスターと戦うことになるのだった。

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