第2話 追放
神喰いのダンジョン。
踏破した冒険者はまだ誰もいない謎の多いダンジョンである。
最深階にはボスのミノケンタウロスが待ち構えているという噂だが生きて帰った者がいないため真偽のほどは定かではない。
神喰いのダンジョンを前にしていつも通りマリアの荷物を持った俺は、
「お前たちの荷物も持てるけど、ついでだから持とうか?」
さりげなく訊いてみた。
「えっ、いいよ別に」
「そうですよ。バランさんに悪いですよ」
昨日言いたい放題俺の悪口を言っていたとは思えない返事をするセフィーロとゾーン。
駄目だ、人間不信になりそうだ。
ダンジョンに入ってからも俺はこれまでの行動を正すように努めた。
モンスターとの戦闘ではみんなの邪魔にならないように注意しながらちょっとだけ遠距離攻撃をしてみたり、戦闘に勝った時のお金と戦利品を遠慮してみたりもした。
だが今さらそんなことをしても遅かったようだ。
空いてしまった溝はもう埋まらない。
「バランどの……もしかして、昨日の我々の話聞いてしまったのではないですか?」
ランドルフが意を決したように言葉を発した。
ごまかすことも出来たかもしれないがみんなの気持ちを知ってしまった以上やはり黙ってはおけない。
「……ああ、聞くつもりはなかったんだけどな」
「そっか、聞いていたのなら仕方ない。もう面と向かって言うよ」
セフィーロが俺に向き直る。
「バランさん、いや、バラン。もうおれたちのパーティーから抜けてくれ」
「親父はなぜかあんたを買ってるようだがおれたちにあんたは必要ないんだ」
「……一応訊くがそれは四人全員の総意か?」
俺は仲間たちの顔を順に見て言った。
「ああ。だよなみんな?」
「そうだ、紅の旅団から出ていけ。この際だからはっきり言うがお前のことは最初から嫌いだったよ」
ゾーンはお前呼ばわりしてくる。
「おれは必死に勉強して魔法学院を首席で卒業したっていうのにお前は王様の幼なじみってだけで勇者のパーティーに入りやがって。おれはそういう奴が大嫌いなんだ」
「我も言わせてもらおう」
ランドルフが続く。
「バランどのの作った盾は素晴らしい。だがそれだけだ。戦闘ではまったく役に立たないあなたは正直足手まといである。昨日の我々の話を聞いて多少は心変わりされたようだが既に我々とあなたとではレベルの差が開きすぎている。残念だがわかってほしい」
これまで戦闘にまったく参加していなかったのだから経験値も雀の涙ほどしか入っていない俺と第一線で戦っていたみんなとのレベル差は仕方のないことだった。
現にこいつらのレベルは300をゆうに超えているが俺のレベルは未だに一桁だ。
Sランクどころか最低のEランクの冒険者でさえ俺を雇おうとする者は皆無だろう。
「マリアも言いたいことがあるなら言っておいた方がいいぞ。これが最後だからな」
最後という言葉を口にするセフィーロ。
マリアはセフィーロに背中を押されて前に出てくる。
「……あの、いつもわたしの荷物を持ってもらってありがとうございました。そ、それからバランさんの作ってくれた杖、すごく使いやすいです、これからも大事にします。それと……バランさんには冒険者よりも職人さんとして頑張ってほしいです……その方がバランさんにとってもいいと思いますから」
俺の顔色をうかがいながらマリアは慎重に言葉を紡いでいった。
まあ、遠回しに言ってくれたが結局のところうちのパーティーには要らないってことだよな。
「これでわかっただろう。これまでおれたちの装備品を管理してくれていたことには少なからず感謝はしている。だがもう紅の旅団にあんたの居場所はない」
セフィーロは続ける。
「おれたちはこれから地下二階に行く。あんたとはここでさよならだ。じゃあな」
そう言うとセフィーロたちは階段を下りていった。
マリアくらいは振り返ってくれるかと淡い期待をして四人の背中を眺めていたが最後まで誰もこっちを振り返ることはなかった。
『勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~』
という小説も書いています。もしよかったら読んでみてくださいm(__)m