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第17話 第一試合

一夜明け、

「これよりベルーガ国王主催の格闘大会を始めたいと思います!」

マイクを握った司会者のキスギさんが石畳のリングの上に立つ。


「その前にまずはベルーガ国王による開会宣言を頂戴したいと思います! では国王陛下どうぞ!」

「おおーっ!」

「国王陛下ー!」

「陛下万歳っ!」

会場がわく。


VIP席に鎮座していたベルーガ国王が立ち上がり観客たちに手を振った。

この素晴らしき日にどうたらこうたらとベルーガ国王が挨拶しているのをよそに俺たち本選出場の決まっている四人は控室からその様子を眺めていた。


「はっ、ベルーガ国王が何か小難しいこと言ってるぜ」

本選出場者の一人であるアントワネットがストレッチをしながら口を開く。

褐色の肌を惜しげもなく見せつけるようなビキニアーマーを装備したアントワネットはレベル205の女戦士だ。


「……お決まりの定型文を読んでるだけ」

つばの広い大きな帽子を目深にかぶったマーレがぼそりとつぶやいた。

顔が見えないが声からして少女であろうマーレはレベル178の魔法使いらしい。


「そんなことよりあんたがあの有名なSランクの勇者パーティーをクビになったバランだったなんてな~……」

背の高い剣士ダーソンが俺の顔を覗き込むようにして見てくる。この男のレベルは俺の三倍近い400だそうだ。

「昨日会った時に言ってくれればよかったのに」

「わざわざそんなこと言うわけないだろ」


ついさっき本選出場者の名前が発表されたので俺の素性はここにいる三人にも、集まっている観客たちにも、そしてVIP席にいるベルーガ国王にも知られている。

遅かれ早かれ知られることは覚悟していたが内心はドキドキしていた。


観客たちはきっと俺のことをコネだけで勇者パーティーにいた役立たずのずるい奴とでも思っているのだろう。

自分なりに仲間のために働いていたつもりだが実際のところはその認識で間違ってはいない。

はぁ……観客の前に出るのは気が重い。


「ベルーガ国王ありがとうございました! さあ、それではいよいよ本選の始まりです! 第一試合アントワネット選手対バラン選手! お二人はリングに上がってください!」

アナウンスが聞こえてくる。


「あたしの番だね。おっさん、死にたくなかったらさっさと場外に落ちるかギブアップしなよ」

アントワネットは首をこきこき鳴らしながら俺に目を向けた。


「そっちこそ俺のエクスカリバーが目覚める前に棄権してくれ」

エクスカリバーは殺しもいとわない性格のようだからな。


「ひゅー。言うじゃんかおっさん」

口角を上げ楽しそうに言うアントワネット。

俺たちはお互いを見合いながらリングへと上がった。


すると、

「バラン、また国王様のコネで出場させてもらったのかっ?」

「引っ込め、おっさん!」

「王都に来るなっ!」

「卑怯者っ」

予想通りというか案の定というか観客席から大ブーイングの嵐。


「セフィーロ様たちがダンジョンで大怪我したのはあんたのせいよっ」

なんておよそ俺とは関係ないヤジまで飛んでくる始末。

っていうかセフィーロたち大怪我したのか。大丈夫かな?


「ひえー、なんだこりゃ。おっさん、あんためっちゃ嫌われてんな」

とアントワネットが観客席を見ながら口にする。


「まあしょうがないさ」

勇者パーティーにベルーガ国王の幼なじみだからという理由だけで入ったくせにろくに戦闘にも参加しないギャラ泥棒。

世間からはそう思われているし、事実その通りだったから反論出来ない。

物が投げ込まれてこないだけマシだ。


「では第一試合、始めっ!」


キスギさんの合図とともにアントワネットが飛び掛かってきた。

戦士なのに背中の剣は使わずに両手で掴みかかってくる。

手を握り合い力比べの体勢になった。


「ぐっ……なんで剣を使わない。て、手加減してるのか?」

「あたしは初めての相手とやる時はこうやって力比べをするって決めてんだよっ」


俺のレベルは150。だがアントワネットは205。しかも戦士だから力が強い。

俺はアントワネットの圧にじりじりと押し負けそうになる。


「うぐぐっ……」

「あ、あんたこそ腰の派手な剣は使わないのか?」

「ぐ……手を放したら使ってやるよ」

俺がそう言うとアントワネットは俺から手を放し後ろに跳んで距離を取った。


よくわからないが助かったぞ。

あのまま場外まで押し切られていたら負けていたかもしれない。


いくらダメージキャンセラーでダメージをゼロに出来るといっても場外負けになったら意味がないからな。


アントワネットが背中の剣を抜いて構える。

「さあ、あんたも剣を抜きなっ」


俺は腰に差していたエクスカリバーを引き抜くとアントワネットに向けた。


「行くよっ、やぁっ!」

「はぁっ!」

キィンと剣がぶつかり合う。


そこからさらにアントワネットの連撃が襲い掛かってくる。

俺は剣術など学んだことがないのでアントワネットの剣撃を受けるのが精一杯でなかなか攻撃に転じられない。


「なんだ、あんた世間でいろいろ言われてる割には結構やるじゃないかっ」

「防戦一方だけどなっ」


観客も固唾を飲んで見守っている。

もうヤジを飛ばしている者は誰もいない。


とその時、

「よそ見してる暇はないぞっ!」

アントワネットの斬撃がお腹をかすめた。


ブシュッ。と血が出ると思ったがダメージキャンセラーのおかげで血は出ていないし痛くもない。

服こそ破けたが斬られたはずのお腹も無傷だ。


「何っ!?」

「今だっ」

一瞬ひるんだアントワネットの隙をつき俺はエクスカリバーを思いきり横に振り抜いた。

アントワネットの横っ腹を打ち抜きそのまま場外に吹っ飛ばす。


「がはぁっ……!」

場外に吹っ飛んだアントワネットは観客席の前の壁に激突した。



少しの間があって、


「し、勝者バラン選手!」


勝ち名乗りのアナウンスが会場にこだました。

「おおーっ!」

観客席から歓声が上がる。


だがその直後、

「や、八百長だっ! あのおっさんが勝つなんて八百長に決まってるっ!」

会場から男の声が降ってきた。


はぁ……ヤジがなくなったと思ったのにやっぱりまだあるか。

俺は会場をちらっと見上げたが誰が言ったのかはわからなかった。

その時たまたまベルーガ国王と目が合う。ベルーガ国王は何か言いたげな顔をしていた。


……。


勝った余韻に浸ることなく俺は控室に戻ろうと歩き出す。

すると、

「……誰だ今八百長って言った奴っ! あたしがぶっ殺してやるから下りてきなっ!」

壁に手をつきながらよろよろと立ち上がったアントワネットが声を上げた。


「あたしは全力でやって負けたんだ、今の戦いを汚す奴はあたしが許さないっ!」


会場が静まり返る。


「……ちっ、臆病者が」

舌打ちを一つするとアントワネットは脇腹を押さえながら俺の方に歩いてきた。


「……手、貸そうか?」

「バカ言うな、おっさんの手なんて借りるかよ」


そう言うとアントワネットは控室に入っていった。

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