第13話 百枚の金貨
「家畜なんですけどどこで手に入りますかね?」
朝ご飯の最中ガゼフさんに訊いてみた。
村の家畜はミノケンタウロスに全部食べられてしまったので今は村には一頭も家畜がいないのだ。
「そうですなあ、他の村の者に譲ってもらうか町で仕入れてくるしかないでしょうな」
「でもおじいちゃん、他の村の人たちだって生活があるし、町で仕入れてくるにもたくさんのお金が必要よ」
リエルも会話に加わる。
「そうじゃなあ……」
「お金ってどれくらいかかるんですか?」
「牛は金貨二枚、ヤギ豚ニワトリは金貨一枚ってところでしょうかな。村人全員分となると金貨百枚は必要でしょうなあ」
金貨百枚か……。とてもじゃないが今の俺には手が出ない。
冒険者時代に稼いだお金はすべてセフィーロたちに返すつもりで宿屋に置いてきたから俺は現在無一文なのだ。
「村の者たちにそこまでの蓄えがあるとは思わなんだしなあ」
「それに領主様に納める分の税金もあるものね」
リエルが言う。
「領主様?」
「はい。バランさんにはまだ言っていませんでしたか? この村はゼニール様という領主様の土地なんです。なので毎月農作物と税金を納めているんですよ」
「ふーん、そうだったのか」
「リエル、あんな奴のこと様をつけて呼ぶ必要はないわい。ゼニールで充分じゃ!」
「おじいちゃん……」
ガゼフさんは箸をテーブルにばしんと置いた。空気が少しピリつく。
「ゼニールって嫌われてるのか?」
俺は小声でリエルに訊ねる。
「えーっとですね……」
すると、
「ふんっ、金の亡者ですじゃ」
俺の声が聞こえていたらしくガゼフさんが代わりに答えた。
年の割に地獄耳だな。
「前の領主様の息子さんなのですけれど、ちょっと横暴な方で……」
「代替わりした途端税金を三倍にふっかけてきたのですじゃ。わしらの足元を見よってからに」
「三倍ですか。それはひどいですね」
「おかげで村の財政は火の車ですじゃ」
この村の財政状況はそのゼニールとやらの影響もあってか決してよくはないようだ。
まいったな……。
村のみんなからお金を集めるのは無理そうだぞ。
どうやって家畜を手に入れたらいいんだ?
俺は頭の中で考えを巡らせていた。
と、
『他の村には家畜が沢山いるんでしょ。だったら奪ってきちゃえばいいじゃない』
唐突に頭の中に女性の声が響く。エクスカリバーの声だ。
「バッ……」
「バ?」
「どうかしましたかな? バランどの」
突然のエクスカリバーの声に反応してしまった。
リエルとガゼフさんが俺の顔を不思議そうに眺める。
「あ~……いや、なんでもないです」
「そうですか」
おい、いきなり喋りかけるなよ。反応しちゃったじゃないか。
『反応って……下ネタ? キショいわねあんた』
なわけないだろっ。
心の中でツッコミを入れる。
エクスカリバーとはお互いに声を発さなくても意思疎通が出来るのだ。
『で、どうなのよ。私の意見は』
却下だ。そんな盗賊みたいな真似出来るわけないだろ。
仮にも勇者パーティーの一員だったんだぞ俺は。
『ふんっ、みじめに追い出されたくせに』
お前なぁ……。
「バランさん? 大丈夫ですか? お加減でも悪いのですか?」
ふと顔を上げるとリエルが心配そうにみつめていた。
「い、いや。全然平気。ちょっと考えごとしてただけだから」
「そうですか。それならよかったです」
ほっとしたように胸の前で手を合わせるリエル。
上手くごまかせたようだが若干胸が痛い。
これからは人前ではエクスカリバーと会話するのは控えたほうがいいな。
☆ ☆ ☆
そしてその後も家畜を手に入れる打開策がみつからないまま三日が過ぎた。
そんな時だった。
「おじさん、これ見てよ!」
ザジーが一枚の紙きれを持って走ってきた。
「なんだザジー?」
「いいからこれ見て!」
背伸びしながら俺の顔の前に紙切れを突きつけてくる。
俺はそれに書いてある文字を声に出して読んでみた。
「えーっとなになに、ベルーガ国王主催の格闘大会開幕。武器防具使用可。参加者募集中。優勝賞金は、金貨百枚っ!?」
「母ちゃんが話してたんだ。お金があればまた牛や豚が飼えるって。この大会におじさんが出て優勝すればいいんだよ。ねっ!」
ザジーは無邪気に笑う。
「いや、でも俺は……」
よりによって大会の主催者は幼なじみのベルーガ国王だ。
そんな大会に出たらまたコネだなんだと言われて後ろ指差されるかもしれない。
「大丈夫だよ! おじさんつえーもん、絶対優勝できるって!」
澄みきった青空のような目を輝かせるザジー。俺を信頼しきった様子で見上げてくる。
「みんなを驚かせてやろうよ!」
……そうだ。俺はもうあの頃の俺ではない。
パーティーの仲間から煙たがられていた俺とはもう違うんだ。
今の俺はバラン村の村長だ。
「……ザジー、わかったよ。村のみんなのために俺がこの大会優勝してやる」
「やった、そうこなくっちゃ!」
俺はエクスカリバーを握りしめやる気をみなぎらせていた。
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