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第1話 鍛冶職人バラン

これからよろしくお願いいたしますm(__)m

ベルーガ国の第一王子で剣の達人、生まれながらのエリート勇者セフィーロ。

魔法学院を首席で卒業、セフィーロの親友であり百年に一人の天才魔導士ゾーン。

動かざること山の如し、無敵の盾の異名をほしいままにする重戦士ランドルフ。

女神の生まれ変わりと称えられる弱冠十五歳の才女、聖者マリア。

そして縁の下の力持ち、パーティー全員の装備品を一手に担う鍛冶職人バラン。


Sランクパーティー【紅の旅団】のメンバーである俺たち五人は冒険者として最高の地位と名誉を得ていた。



……いや、違うな。正確には俺以外の四人がだ。


俺はというとSランクパーティーのお荷物的存在として世間から認知されていた。

それもそのはず、【紅の旅団】の最年長にして一番の古株である俺はベルーガ国王の幼なじみという理由だけでセフィーロが城を旅立つ時に勇者パーティーの鍛冶職人として任命されたに過ぎないからだ。


セフィーロたちの武器や防具、装飾品に至るまでの製成、点検、修復の一切を任されているが普段は何もすることがないためマリアの荷物持ちを進んで引き受けている。

また、モンスターとの戦闘の際にはみんなの邪魔にならないように陰からそっと見守るだけの文字通りのお荷物鍛冶職人だ。


だがそれでも俺は別によかった。

世間からどう思われようが仲間の役に立てているのならと俺は自分を奮い立たせていた。


しかし宿屋に泊まったある晩のことだった。

用を足すために起きた俺がセフィーロの部屋を通り過ぎようとした時、少しだけ開いたドアの隙間から怒鳴り声が聞こえてきたのだ。

今思えばふと足を止め聞き耳を立てたのが間違いだったのかもしれない。


「いい加減にしてくれよ、親父! あいつなんにもしないんだぜ!」

どうやらセフィーロは父親であるベルーガ国王と電話で話しているようだった。


あいつ?

誰の事を言っているのだろう。


「親父の幼なじみってことはわかってるけどよ、あいついつまでもおれの兄貴面してくるんだぜ! そのくせ戦闘になったら逃げだすしよ!」


あいつ……ってまさか、俺のことか?


「だから今まで我慢してきただろうが、このくそ親父っ!」


ガチャン! と受話器を叩きつける音。


「どうだった? 親父さん。考えてくれるのか?」

「駄目だ。あいつは外すな、の一点張りだ」

「ベルーガ国王は何をお考えなのだろうな、まったく」


セフィーロ以外の声が聞こえた。

ゾーンとランドルフもいるのか?


「じゃあバランの奴はこれまで通りってことかよ、セフィーロ」

やっぱり。ゾーンの声がする。

いつもと違いゾーンは俺のことを呼び捨てにしていた。


「そうなるな」

「マジかよ、くそっ」

「バランどのは決して悪い人間ではないのだが正直言って我々の足手まといでしかない」

とランドルフ。


「ランドルフさんは甘いんだよ。あいつは戦いもしないのにちゃっかり金と戦利品は受け取るんだぜ。なあゾーン」

「それにマリアの荷物しか持たねぇしよ。どうせなら全員分持てってんだよなぁ」

「あいつマリアのこと好きなんじゃねぇの、ひゃっはっは」

「三十六歳と十五歳じゃやべぇだろ、ははっ」

「話がそれているぞ。ベルーガ国王が動いてくれないのならば我々でバランどのを追い出すしかないだろう」


セフィーロたちは俺のいないところで俺をパーティーから追い出す算段をしていたようだった。


……どういうことだよ。

俺ってそんなに嫌われていたのか?

よかれと思ってマリアの荷物を持っていたのにそんな風に思われていたなんて……。


と、とにかくマリアがここにいないことだけがせめてもの救いだ。

もしマリアまで俺の悪口を言っていたら――。


「マリアはどう思うよ? 実際のところ」

セフィーロがマリアに問いかけるような口調で言った。


……え? まさかマリアもいるのか?


「わ、わたしはバランさんはいい人だと思いますけど……」

マリアの声だ。


「思いますけど、なんだよ?」

ゾーンが問い詰める。

やめろ、ゾーン。もうやめてくれ。


「えっと、年が離れているのでお話がかみ合わないというか……その……」

「要はつまらないんだろ」

「……は、はい」


俺が聞くことが出来たのはそこまでだった。

四人の会話はまだ続いていたが俺のメンタルは既に限界に達していたのでそっときびすを返すと自分の部屋へと戻った。



☆ ☆ ☆



そして翌朝。


「おはよう、バランさん」

「おはようございます。バランさん」

「おはよう、バランどの」

「バランさん、おはようございます」


セフィーロたちは何事もなかったかのように普段と同じく接してきた。


「バランさん、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」

マリアが訊いてくる。


「お前たちの話を盗み聞きしたせいで眠れなかったんだよ!」とは言い出せず、

「問題ないよ」

とだけ返した。


「お疲れならばバランどのは養生された方がいいかもしれませんぞ」

とランドルフが俺の肩に手を置く。


「今日は休めば?」

「セフィーロの言う通り休んだらどうですか? バランさん」

セフィーロとゾーンも口にする。


昨日の話を聞く前ならば俺を気遣っての言動だと素直に思うことが出来ただろう。

もしかしたらあまりの優しさに涙してたかもしれない。

だが今は違う。


「いや、大丈夫。今日もダンジョン探索頑張ろうな」



俺は複雑な心境のままセフィーロたちとともにダンジョンへと繰り出したのだった。

『ダンジョン・ニート・ダンジョン ~ダンジョン攻略でお金が稼げるようになったニートは有り余る時間でダンジョンに潜る~』という小説も書いています。よかったらご覧になってください。

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