フランカ・ベラヴィーア2
アリー様から昼食を誘われた。しかも、私たち以外に男性も同席する事になると言われた。それだけでも驚いたのに、参加者の名前を聞いて腰が抜ける程驚いてしまった。
学園の令嬢方の人気を全てその三人で手に入れていると噂される人達だった。見た目、学力、権力。全てを兼ね備えているという。そんな人たちと食事だなんて、緊張して食欲がなくなってしまうかもしれない。そう思っていたが実際は全く違っていて、とても楽しい時間を過ごす事が出来た。
「ところで、さっきから気になっていたのだけれど、デュラン様とアリー様の関係って?」
デュラン兄様と呼んでいるのが不思議だった私は、思い切って聞いてみた。
「デュラン兄様のお父様と、私のお母様が姉弟なの」
「あ、なるほど」
確かに少し面差しが似ているかもしれない。デュラン様の髪色はブロンドで瞳も緑色だけれど。
「ふふ、私の事を気にしてくれているのかな?」
隣に座るデュラン様の顔が、すぐ近くに寄って来た。
「あ、あ、あの、アリー様からはお姉様のお話しか聞いてなかったもので」
「アン姉様か」
アリー様のお姉様の事を口にしたデュラン様は、アンニュイな顔をしてしまった。軽く溜息まで吐いている。言ってはいけなかったのかとアリー様を見れば、クスクスと笑うアリー様。
「デュラン兄様はアン姉様の事を恐れているのよね」
「そりゃそうだよ。あの人にはどう足掻いても勝てそうもないからね」
「つ、強いの?」
恐る恐るアリー様に聞いてみると、可愛らしい笑顔で微笑まれてしまった。
「強いのですわ。主に口が」
口が強いってどんな状況?私の頭の上にクエスチョンマークが飛び交った。
「ふふ、姉様は弁が立つのです。デュラン兄様でも敵わないくらいに」
なるほど、そういう事か。どうやら自分と同じ人種らしい。
「まあ、今は大分丸くなりましたわ。実はね、姉様のお腹には赤ちゃんがいますの」
うふふと笑って報告してくるアリー様が天使過ぎる。
6歳ほど歳の離れているアリー様のお姉様は、数年前に婿を迎えて領地の経営をしているらしい。
「じゃあ、近いうちに王都にお戻りになるの?」
子供を産むのなら、こちらの方が何かと都合がいいだろう。
「はい。あと1,2カ月したら、戻っていらっしゃるって」
デュラン様と違って、アリー様はお姉様の事が大好きらしい。とても嬉しそうだ。
「ふふ、今、私とは違ってアリーはアン姉様の事が大好きなのねって思ったでしょ」
「ひぃっ!」
怖い。変な声が出てしまった。
「な、なんで……」
「君って令嬢らしくないよね。考えていることが丸わかりだよ」
緑の瞳が煌いている。
「デュラン兄様、私の友達をからかい過ぎませんように。姉様が帰ってくるのですから」
笑顔で牽制してるアリー様。う、やっぱり可愛い。
「言うようになったね、アリー。でも可愛いから迫力はないかな」
「もう」
ちょっと拗ねたアリー様。もうホント、マジで可愛い。
ずっと大人しかったランザ様が口を開いた。
「あのぉ、先程からどうも背中がゾクゾクするのですが?」
「大変、風邪かしら?」
「いや、そうではなくてですね、周囲から不穏な気配というか、刺さるような視線を感じるのです」
言われて周りを見る。確かに周辺を令嬢方が囲っているように座っていた。
「この状況、怖いですわね。流石に」
「フラン様、気付くのが遅すぎですわよ」
「ランザ様はすぐに気が付いたのですか?」
「はい、私達が席に着いた途端から始まっておりましたもの」
小刻みに震えるランザ様。まるで小鹿がプルプルしているみたいで可愛い。
すると、隣に座っていたエルマンノ様が突然立ち上がった。そして、向かいに座っているランザ様の足元に膝をつく。
「ランザ嬢、何も怖い事はないから大丈夫だ。いざとなったら俺が守ってやる」
唐突な騎士宣言。周りの令嬢たちから悲鳴が……
「ふふふ、今まで女性に無関心だったエルマンノがねぇ。確かに彼女、小柄で庇護欲をそそられるね。でも私としては……」
言葉を切ったデュラン様。私の方へ身体を向け、そっと囁くように言葉を紡いだ。
「フランカ嬢の方が興味をそそられるよ」
「ぴゃ!?」
また変な声が出た。ヤダ、もう怖い。ちょっと涙目になってしまう。
「あはは、ごめんね。少し意地悪だったかな。でもね、今言った事は本当。これからも仲良くしようね」
首を軽く傾げて言うデュラン様。再び周りから悲鳴のような叫びが聞こえる。なんだろう、これってなんかもう逃げられない感じ?
斜め向かいに座っているアリー様が、私やランザ様を見てニコニコしている。ああ、天使。