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ゲイブリエル・アッガルディ1

 久しぶりの再会に、恥ずかしくなるくらい緊張していた。


彼女と出会ったのは3年以上前になる。いつものようにエルマンノとデュランの三人で剣の訓練を終え、バラが咲き誇る中庭でお茶を飲みながら休憩している時だった。


 中庭の向こうにはバラ園があり、そちらからひょこっと現れたのは、まだあどけなさの残る少女だった。


「ん?どうした?迷子か?」

最初に気付いたエルマンノが、少女へと声をかける。

「あっ、申し訳ございません。この時間なら誰も居ないと思ってしまって」

ペコリと頭を下げ、素直に謝る少女に驚いたように声を掛けたのはデュランだった。


「アリー?」

そう言われてピクッとなった彼女は、声の主を見て途端に笑顔になった。まるで咲きかけのバラが一気に開いたように眩しい笑顔だった。


「デュラン兄様!」

ワンピースの裾が大きく翻るのも気にせず、駆け寄ってきた少女は迷いなくデュランの胸に飛び込んだ。


「アリー、一体王城で何をやっているんだい?」

女性に対してクールなデュランにしては珍しく、優しく彼女を受け止め愛しそうに見つめている。


「ダヴィデ殿下とのお茶会だったのだけれど……」

「ダヴィデ殿下と?もしかしてアリーが婚約者?」

デュランが驚いた顔で彼女を見た。


「そうなのですって。でも……私、あの方を好きになれないわ。挨拶もそこそこにお前は俺の妃になるのだから、常に黙って俺の後についていればいい、なんて言うのよ」

「ああ、言いそうだな」

エルマンノが溜息と共に賛同した。


「あ、私ったら」

俺たちの存在を思い出したらしく、デュランの腕の中から出て、綺麗なカーテシーで挨拶をしてくれた。

「ヴォルテーラ公爵家次女、アリアンナ・ヴォルテーラと申します。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません」


「いいんだ、気にしなくていい」

私が笑顔で言うと、私を見たまま固まってしまったアリアンナ嬢。一体どうした?

「……ゲイブリエル殿下?」

「私を知っているのか?」

会ったことはなかったはずだ。こんなに美しい子を見ていたら絶対に忘れない。


「申し訳ありません。デュラン兄様からお話を聞いていたので」

「おっ、じゃあ俺の事もわかるかい?」

「はい、エルマンノ・ボルゲーゼ様ですよね」

「はは、正解。君は『神を呼ぶ聖なる声』の持ち主だよね」

「はい、そうらしいです」

少し声のトーンが落ちた。あまり嬉しくないようだ。


「アリアンナ嬢は『神を呼ぶ聖なる声』をあまり嬉しくは思っていないのかな?」

「……はい、そうです。そのせいでダヴィデ殿下の婚約者に選ばれたそうですから」

「ダヴィデはそんなに嫌?」

「……嫌です、ごめんなさい」

紺のような深い緑のような、不思議な色合いの瞳がウルウルしてしまった。


「ああ、気にしないでいい。謝る必要なんてない。君がそう思う事を誰も咎めはしない」

「はい……ありがとうございます」

大きな瞳に涙を溜めて、はにかみながら礼を言う姿にビビッときてしまった。


「俺たちで良かったら、いつでも話し相手になるから。デュランと一緒に遊びにおいで」

「はい!」

嬉しそうに笑った顔を自分に向けられたことに、たまらない気持ちになった。


そして時々、デュランと共にやって来たアリーと接するたびに、俺は抱いてはいけない感情に苛まれる事になってしまった。


彼女がダヴィデの元に嫁いでくるのを、素直に祝福なんて絶対に出来ない。そう思った俺は、早々に王位継承権を手放して臣下に下る事を望んだ。しかし兄王は、自分の唯一の息子が不出来であることを認識していた為、なかなか色よい返事をくれなかった。


義理の姉である王妃は、若い年齢で結婚、出産を経験したせいなのか、ダヴィデを産んでからは体調を崩しやすくなってしまった。流石にダヴィデ一人ではよくないと、周りから側妃をという案が出されたが、国王は頑としてそれを受け入れず、俺を継承権第二位のままでいさせた。


そんな兄王も、何度も懇願する俺にとうとう折れて、ダヴィデの成績如何では学園を卒業した後に継承権を返上してもいいと言ってくれた。

しかし、こんな事になった以上、俺の継承権返上は夢のまた夢となってしまった。


「1年以上経つか?アリーに最後に会ってから」

エルマンノの言葉で意識が浮上する。

「そうだな。仕事を回されるようになったのと、彼女の王妃教育が始まったのが重なってしまったからな」


きっと綺麗になっただろう。まさか俺たちを忘れてはいないよな。くだらない事ばかり考えていたらデュランが声を掛けた先に彼女はいた。こちらに気付くと嬉しそうに微笑んだ。これはヤバい……彼女は想像以上に美しくなっていた。周りの男達の彼女を見る視線が気に食わない。自然と俺は、彼女を迎えに足を向けていた。


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