王城、そして学園舞踏会
国王である兄上の執務室。
先日、アリーと別れたその足で王城へと出向き、自分の覚悟を伝えた。すると兄上は礼を言うと共に、これからの事を含めてじっくり話がしたいと後日、もう一度城に来るように言われそして数日経った今、再び執務室へと案内された。
中へ入ると兄上は勿論、宰相殿と何故かアリーの父上であるヴォルテーラ公爵もいた。
「おお、来たか。ゲイブリエル」
「はい……あのこれは?」
「これから話す。まずは王になる覚悟を決めてくれてありがとう。これで安心して隠居出来る」
「まだ引退するには早いです!俺はまだこれから覚えなくてはならない事がたくさんあるのに」
「ほっほっほ。分かっているさ。私もまだ今すぐ引退なんてせんよ。宰相の目が怖いからな」
「分かっていらっしゃったようで、良かったです」
「隠居はまあ言葉の綾だ。それほど安心したという事だよ」
「はい、それなら良かったです」
ほっと息を吐く。
「それにしてもお前は会うたびにいい男になるなあ。髪色は私と一緒で父に似たが、顔つきは完全に母に似たな。さぞかしモテるだろう、羨ましいなあ」
「兄上、義姉上に聞かれたら大変ですよ。それに、俺は誰にモテようが想いは一つなので」
「そうだな。今まで済まなかったな」
「いえ、謝って頂くことではないです。仕方のない事だとわかっておりましたから」
「それも含めて、これから王となるお前に話さねばならぬことがある。これは代々の王と宰相しか知り得ない事なんだ」
「そんなものが?」
「ああ、貴族の中で誠に国に忠誠を誓っている者なんて、ほんの一握りにしかすぎぬ。あとは自分至上主義ばかり。だからこそこの事は拡めてはならない事なのだ」
真剣な顔になった兄上。では何故この場にヴォルテーラ公爵がいるのか。それは、話を聞いて行くうちにわかる事になったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
無事にテスト期間が終わり、いよいよ結果が貼り出されることになった。
「結局、最後まで1位を守り抜いたな」
エルマンノがニヤニヤしながら言う。
「そういうお前は2位じゃないか」
5点差でエルマンノがデュランに勝っていた。
「がぁー!あの一問でひっくり返された!!」
頭を抱えて悔しがっているデュラン。
「ふっふっふ。最後にお前に勝てたのは爽快だな」
「くっそう、宰相としてのプライドがぁ」
「宰相って、おまえまだ宰相じゃないだろう。気が早くないか?」
「父上にはもう話しましたよ。そりゃそうでしょ。殿下が王になるなら宰相は俺で決まりでしょ」
「俺も父上に話した。護衛騎士になりたいって。まあ、俺を超えられないお前が何を偉そうにって一笑されて終わったけど」
「まあ、そもそも殿下が一番強いしね」
「それでもだ。側近で護衛騎士、いいだろ」
「はは、期待してるよ」
「あっ!こっちも貼り出されているわよ」
デュランがぐりんと勢いよく、声の主を探す。
「フラン!?」
見れば、フランカ嬢を筆頭にランザ嬢とアリーがやって来た。どうやら順位表を見に来たらしい。
「凄い!三人で上位独占なのですね」
フランカ嬢がキラキラして順位表を眺めている。
「エルマンノ様、私と一緒ですね」
「ランザ、じゃあランザも2位だったのか?」
「はい、なかなかアリーには勝てません」
「はは、それはこっちも一緒だよ。殿下はもう別次元だと思ってる」
「なるほど。アリーもきっとそうだわ」
二人でほのぼのとした空気を出していて微笑ましい。
ふと、ほんの少し前までアリーが居た場所に彼女が居ない事に気付いた。
「アリー?」
「あ、あの、ちょっと。順位表を見たいのですが」
微かに声が聞こえた方を見れば、人だかりが出来ていた。本当に、少し目を離すだけでどうしてこうなる?
「すまないが皆、どいてくれ」
すこし低い声で言えば、さあっと道が出来た。その先には、わたわたしているアリーが居た。
「全く、どうして君はすぐに囲まれるんだ?」
「そんなの、私にもわかりません」
彼女に手を差し伸べれば、キュッと握ってくれた。そのまま軽く引き、俺の前まで引き寄せる。乱れていた髪を梳いてやると、嬉しそうな顔をして礼を言われた。
「そういえばアリー、ドレスは届いたか?」
「はっ、そうでした。あんな素敵なドレス。ありがとうございます」
「はは、いいんだ。俺が贈りたかったんだからな。当日はエスコートさせてくれ。迎えに行くよ」
「はい。舞踏会、楽しみですね」
幾分か含みがあるような笑みを浮かべるアリーに、俺も応えるように笑顔を向けた。
そして、とうとう学園舞踏会当日を迎える。
「アリー、なんて美しいんだ。天使ですら嫉妬してしまいそうだ」
「ふふ、ありがとうございます。殿下も……なんだかお揃いみたいですね、私たち」
アリーは銀糸で織られた布とレースをふんだんに使ったドレス。同じ銀でも少し比率を変えて織られた布は、光のグラデーションが出来る作りになっている。そして、首と耳を飾るアクセサリーは、小振りながらも見事なブルーサファイア。
かたや俺は、同じ銀でも輝きすぎないように計算されている布地のフロックコート。襟元にはアレキサンドライトのピンを刺している。これでもアリーの複雑な瞳の色の美しさには敵わないが。
学園に到着して、まずは応接室で皆と待ち合わせる。
「いよいよだね」
「そうですわね」
デュランとフランカ嬢だ。こちらは鮮やかなグリーンのグラデーションになったドレス。彼の瞳の色に合わせたようだ。
「本当なら俺自身が動きたいがな」
「ふふ、今日は我慢ですわ、エルマンノ様」
ランザ嬢は、エルマンノの髪色に合わせたように、これまた鮮やかなオレンジがかった赤いドレスだ。
「もう舞踏会は始まっているようだな。では、我々も行くとしよう」




