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ゲイブリエル・アッガルディ、ダヴィデ・アッガルディ

 手を握ったことは何度かある。しかし、彼女と手を繋いで歩くなんて一生ないと思っていた。決して小さくはない彼女なのに、握った手は俺の手にすっぽりとおさまってしまった。少しだけ冷たくて細い指。それが愛しくて仕方がなかった。


素直に握られている彼女を見て俺は調子に乗って、指を絡ませて繋ぐ方法に切り替えた。一瞬驚いたのか俺を見上げたアリーは、柔らかい笑みを浮かべてそれを受け入れてくれた。


そんな彼女を抱きしめたいという衝動にかられたが、理性を総動員して抑え込む。


 結局、皆と別れ屋敷まで送り届けるその時まで、俺たちは手を握り続けていた。

屋敷に到着し、門扉を抜け玄関ポーチまで来るとそっと手を離した。途端に寂しそうな顔をする彼女の頭を撫でる。


「ゲイブリエル殿下、今日は本当にありがとうございました。とても楽しかった。姉様にもいいお土産が買えたし。美味しいケーキも食べられたし、ウィンドウショッピングも出来たし……」

俺の顔を見つめるアリー。


「一番楽しかったのは殿下と手を繋げたこと、なんて」

いたずらっぽく言って、肩を竦める彼女を抱きしめたかった。抱きしめて、許されるなら口づけてしまいたかった。しかし、それを許されない立場にある俺たち。


「アリー、もしもダヴィデとの婚約を解消できる方法があるとしたらどうする?」

「そんなの!勿論試すに決まってるわ!」

「そうか……その選択に後悔は伴わないか?」

「後悔なんてしない。今までが後悔の連続だったのに」

真っ直ぐに俺を見つめるアリーを見て、今度は俺が決意するときなのだと思った。


「もし、ダヴィデと婚約解消出来たら、アリーは俺の妻になってくれるか?」

彼女の目が大きく見開かれ、それから破顔した。

「私の夢は昔から変わらないの。それはね、ゲイブリエル殿下のお嫁さんよ」

泣きそうな顔でそう言ってくれたアリー。


「そうか、ありがとうアリー。おかげで決心がついたよ。今度ちゃんと話しに来るから。それまでは……ごめんな」

そっと彼女の襟元に飾られた、俺の瞳と同じ色のリボンをスルッと撫で玄関を開ける。

「じゃあな、アリー」

優しく背中を押し、彼女を中に入らせると俺はそのまま王城へと向かった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あの女、チョコを受け取ったくせに食ってないとぬかしやがった!」


アリアンナにチョコを贈り、丁寧にメッセージカードまで付けて感想を聞くために夕方、彼女の屋敷を訪れた。


ところが対応したのは父親のヴォルテーラ公爵。

「せっかく久しぶりにお越しいただいたのに、申し訳ございません」

「アリアンナはどうした?俺はアリアンナに会いに来たのだぞ」

「アリアンナは、少し前から臥せっております。少しですが熱が出ておりまして。風邪だとしたら殿下にうつすわけにはいきませんので、今日はお会い出来そうもございません」

物腰は柔らかいのに、何故か有無を言わせない圧があるんだよな、この男には。


「そうか、なら俺が贈ったチョコは食べたのか?」

もしかしたら食べて身体がほてっているのかもしれない。もうそうならば、王子の権限で無理矢理にでもアリアンナに会おう。そう思っていたのに、期待した返事は帰って来なかった。


「殿下から頂いたチョコですか?」

ヴォルテーラ公爵は執事の方を見ると執事が代わりに答えた。

「僭越ながらお話させていただきます。アリアンナお嬢様は頂いたものをまだ口にはしておりません。学園から戻ってすぐに寝てしまわれたのです」


「そう、か」

食べていないなら仕方ない。食べた頃を見計らってまた来るか。

「また来る。その時は彼女に俺が贈ったチョコを食べるように言え」

「かしこまりました。そのように申し伝えます」


くそっ、せっかく俺の手で散らしてやろうと思ったのに。



翌日、ファビオにその事を伝える。

「何か他に作戦を考えた方が良さそうですね」

「どんな作戦だ?どうせならアイツから俺に縋りつくようにしたい」

アリアンナが俺に縋りついてくる姿を想像する。ゾクっと身体が震えた。これは堪らない光景だ。


「少しお時間を頂けますか?いい案を考えてまいりますので」

「わかった。絶対に上手くいく案を出せよ」

「勿論です」


 そして翌々日、ファビオがファブリツィアと共に俺を中庭に呼び出した。

「おい!なんでこんな所に呼び出す?」


「ダヴィデ殿下、先日の作戦の為です。他の人間に聞かれるのはまずいでしょう。それとファブリツィアがちょっと……」

「ファブリツィアがどうした?」

「ダヴィデ殿下、私、神様とお話出来るんです」

頬を上気させそんな事を言うファブリツィア。


「は?どういう事だ?」

「私から説明させて頂きます。そもそも今からお話するこの作戦は、ファブリツィアが神と交信して得た作戦なのです」


「神と交信って『神を呼ぶ聖なる声』の持ち主でもないのに?」

「そうなんです。昨日突然、上から声が聞こえてきて『お前の兄にこの作戦を教えてやれ』そう言われたんです」

一体どういう事だ?アリアンナは偽物だったのか?イマイチ情報を処理しきれない。


「まあいい。まずはその作戦とやらを話せ」

俺はファビオから作戦を聞いた。


「あはははは、いい作戦じゃないか。アリアンナが泣きそうな顔で俺に縋りつく様が想像できるな」

アリアンナが偽物なのかは知らないが、これであの女をモノにできる。俺はその事を考えるだけで堪らない気持ちになるのだった。


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