エルマンノ・ボルゲーゼ1
王弟であるゲイブリエル・アッガルディの側近の一人としてこの学園に入学した俺はエルマンノ・ボルゲーゼ。
王国騎士団の団長であるボルゲーゼ侯爵の長男である俺は、幼少の頃から騎士団に入る事を目標に頑張ってきた。騎士団の一角で、剣の稽古に励む俺と共に稽古に励んでいたのがゲイブリエル殿下とデュラン・チェルコーネという宰相殿の息子だった。
同じ歳なのと、強くなりたいという同じ目標を持っている者同士、仲良くなるのはあっという間だったと思う。
三人で稽古をして早3年、今日も稽古をしようと訓練所へ行くと、俺たちより小さい見慣れない子供がゲイブリエル殿下の後ろにいた。
「今日から一緒に稽古をすることになったダヴィデだ。兄上の子供なんだ。ほら、二人に挨拶してみろ」
ゲイブリエル殿下が優しく促すと、その子供が一歩前に出て息を大きく吸い込んだ。
「ダヴィデ・アッガルディだ。俺はこの国の王となる」
それだけ言えば、満足そうに胸を張るダヴィデ殿下。正直、全く可愛くない。どう返事をすればいいのかと思っているとデュランが先に答えてくれた。
「挨拶をありがとうございます。私はデュラン・チェルコーネと申します。以後お見知りおきを」
微笑と共に挨拶をしたデュランだったが、目は笑っていなかったのを俺は見逃さなかった。
「私はエルマンノ・ボルゲーゼと申します。これからどうぞよろしくお願いします」
当たり障りのない無難な挨拶をしておく。
「お前たちは強いのか?」
突然質問して来たダヴィデ殿下にゲイブリエル殿下が答える。
「二人とも強いよ。きっと同じ歳の子の中ではトップクラスだろう」
ダヴィデ殿下に目線を合わせて答えるゲイブリエル殿下。その中でもお前が一番強いだろうと俺は心の中で愚痴る。
「そうか。なら大きくなったら俺の側近にしてやる」
偉そうに言うダヴィデ殿下を見て、俺は絶対に嫌だと思った。こいつはこのままだと立派な王にはならない、俺が側近になるならゲイブリエル殿下だ。そう強く思った瞬間だった。
案の定、ダヴィデ殿下は全くと言っていいほど稽古には来なかった。どうやら勉強も逃げ回ってしていないらしい。先代の王が病で早くに亡くなってしまい、学園を卒業と同時に王位を継いで結婚してと、非常に慌ただしく王になった今の王は仕事にかかりきりでダヴィデ殿下とはほとんど会う時間がないらしい。
隣国の三女だった今の王妃も、突然結婚が早まる事になった上に、まだこの国に慣れないうちに出産してしまったせいで、なかなか時間を作ることが出来ないでいるようなのできっと寂しい思いをしているのだろうが、継承権第一位なのにこれではと思ってしまうのはきっと俺だけではない。
俺たち三人はというと、共に順調に強くなり、学園に入る頃にはもう騎士団に入る事を許されていた。
俺はそのまま騎士団に入り、デュランは騎士団に入りつつも将来は宰相の仕事を引き継ぎたいと思っているらしい。
ゲイブリエル殿下も騎士団に入りつつ、ダヴィデ殿下が王太子になったら王位継承権を返上して公爵になるつもりだと言っていた。
ちょうどその頃、ダヴィデ殿下の婚約者が決まった。アリアンナ・ヴォルテーラ。ヴォルテーラ公爵家の次女で『神を呼ぶ聖なる声』を持っているらしい。公の場には一切出て来ないので、幻の聖女とか言われていたという事ぐらいしか知らなかったが、あんな愚かしい男の元に嫁がされるなんて可哀想だと思った。
王立学園での生活は順調だった。Aクラスの中でもトップ争いをする俺たち三人は見事なまでにモテていた。俺としては、剣の稽古の妨げになるような事は避けたいので特に相手をしていない。
ゲイブリエル殿下もデュランもその辺は思考が一緒のようで、適当にあしらって見事にかわしている。
本来ならば、ここで婚約者を探せと言われるのだが、俺は割と自由にさせてもらっている。卒業する頃、もしくはその後でも全く問題はない。心から愛する事が出来る子がいれば……まあ、なかなか難しいだろう。
3年生が終わる少し前、父から執務室へ来いと呼び出された。訓練の後、執務室へと向かう。怒られる要素はなかったはずだと考えながら入ると意外な事を聞かれた。
「エルマンノ、お前はこの先、ダヴィデ殿下とゲイブリエル殿下のどちらにつきたい?」
「それは側近という立場で、ということですか?」
あまりにもふんわりとした質問に、こちらも質問で返してしまった。
「はは、賢い息子で良かった。今は側近として、だ」
「今は、ですか。勿論ゲイブリエル殿下です。今はと言わずこの先も」
ニヤッとした顔で返せば、父も同じ顔をする。父によく似た俺はオレンジがかった赤い髪にグレーの瞳、身長はもうすぐ父と並ぶ。三人の中で一番大きい。筋肉量はまだ足りないかなと思うがこればかりは一朝一夕でどうにかなるわけではない。
「予想通りの答えだな。よし、このまま引き続き励め。そして俺を超えてみせろ」
そう言って大きく笑った父を見て、悔しくも追い越すのは当分先だと思ってしまった。
そして俺たちが4年生になって、ダヴィデ殿下と彼の婚約者であるアリアンナ・ヴォルテーラ嬢が学園に入学してきたのだった。