デュラン・チェルコーネ3
「告白するの早かったね」
皆でデートの翌日。学園で授業の後、応接室で仕事をしていた私たちはエルマンノの惚気話を聞いていた。
「どうした?羨ましいか」
余裕な表情で言うエルマンノにむかつくが、図星だから仕方ない。
「デュランは変なところで臆病になるよな」
「慎重と言ってくれる?」
「はいはい。慎重な」
全ての発言が上からな感じがして本当にむかつく。
「まあ、でも。ずっと女性に興味を抱かなかったエルマンノがついにだね。しかもいい娘なのは間違いないし。卒業前には婚約かな?」
「ああ、父上と母上にはもう話した。近いうちにランザの両親にも挨拶に行こうと思っているよ」
「エルマンノ、悔しいけどおめでとう」
「はは、ありがとう。デュランもちゃんと言ってやれよ。気持ちは固まっているんだろうから」
「そうだね。俺もちょっと頑張るよ」
街へ行く当日、フランカ嬢の送り迎えを買って出た。迎えに行った時は、柄にもなくドキドキしながら彼女の屋敷を訪ねた。家の者に呼ばれて2階から現れた彼女は、淡い色のブロンドをポニーテールにして水色のワンピースに身を包み、いつもより少し幼さが残る可愛らしい感じに仕上がっていた。
「可愛いね、フランカ嬢」
素直に褒めれば、少し顔を赤らめながらお礼を言う彼女が増々可愛らしかった。
デート中は三人のレディ達が眩し過ぎて、ずっと見ていると目が溶けてしまう気さえした。中でもやはり、俺の目に飛び込んでくるのはフランカ嬢で、他の二人を先導するかのように好奇心旺盛に動き回る彼女が可愛くて仕方がなかった。
俺たちが少しでも彼女たちから離れれば、まるでそれを狙っていたかのように、男たちが彼女たちに声を掛けてくる。街慣れしていない彼女たちは、キョトンとしてしまって自分たちの危険に気付いていない。
そんな事が数回続いて、もう我慢しきれなくなった俺たちは、彼女たちの手をそれぞれ繋いで危機回避することにした。
「あの、デュラン様。どうして私の手を?」
「どうして?どうしてなのかわからないの?あんなに何度も見知らぬ男たちに声を掛けられて……何を普通に楽しそうにそいつらと会話してるの?」
「え?何をって。あそこの露店のオジサンの頭は実はカツラだとか、パン屋のおばさんを怒らせると固いパンで殴られるとか、そんなお話を聞いていただけですわ」
「はああぁ、あのね。あの男たちは楽しい世間話をしつつ、君たちを何処かに連れてってしまおうと思ってるような連中なんだよ。貞操の危機!だったんだよ」
「……貞操?」
一生懸命考えているらしいフランカ嬢。すると、顔がみるみる驚いた表情に変わる。
「えええええっ!?」
「遅いよ」
「つ、つまり。あのまま私たちを手籠めにしようとしていたと?」
「その通り」
「あ……あわわ、よ、よかったぁ、何もされなくて」
自分で自分の身体を抱きしめてプルプルしている。今頃かよと突っ込みたいが、仕草が可愛くて怒る気力も失せた。
「フランカ嬢は可愛いんだから。いつどこで狙われるかわからないんだからね」
「うう、はい。ありがとうございます」
「わかったら、ちゃんと俺と手を繋ぎ続ける事。わかった?」
「はい、わかりましたわ」
それからはずっと、屋敷に送り届けるまで手を繋いでいた。チョロ過ぎてホント、心配になる。
屋敷の前でそっと手を離す。凄い名残惜しいけどここはスマートにしなければ。
「デュラン様。今日はありがとうございました。とっても楽しかったです」
「俺も楽しかったよ。危なっかしくてドキドキさせられたけどね」
離れた手をじっと見つめるフランカ嬢。
「どうしたの?」
「なんだか……デュラン様の手が離れた事がとても寂しく思えて……」
何、この子。俺を煽ってるの?抱きしめそうになる手を無理矢理引っ込める。
「もっと繋いでいたかった?」
「そう、ですね。デュラン様の手は暖かくて、なんだかドキドキしました」
「どうしてドキドキしたの?」
「……どうしてでしょう?」
どうもこの子は鈍い。自分の事に対しては特に。
「じゃあ、宿題を出してあげる。どうしてドキドキしたのか考えてみて。俺の事をたくさん思い出して」
「ぴっ」
最後の方は耳元に口を寄せて言ってやった。変な声が出てたけど、それがまた可愛いからもうしょうがない。
「そしてそれがわかったら、もう逃げられないという事も覚悟しておいてね」
「逃げられない?」
「そうだよ。絶対に、ね。逃がしてあげられないから」
そう言って、俺は彼女の元を去った。これで、少しでも自分の気持ちに気付けばいいと心の底から思う。
「早く抱きしめたいなぁ」
そんな独り言を呟きながら、屋敷へと帰ったのだった。




