ランザ・マラガーニ3
「ならばこういうのはどうだろう?」
ゲイブリエル殿下が何を言うのかと待っていたら、凄い事を口にした。
「俺たちが護衛として同行するって言うのはどうだ?多分、最強の護衛だと思うぞ」
「なるほど、いいな。3対3でデートだ」
「確かに最強の護衛になりますね、賛成です」
デート?デートってなんだっけ?美味しい物だったかしら?そもそも食べれたっけ?聞きなれない言葉に思考が付いて行けてない。グルグルと頭が回ってはいるが、働いてはいないようだ。
フランを見ると口をパクパクしている。フランの頭も回っていないみたいだ。
アリーはいいの?と嬉しそうに三人に言っていた。
そしてあれよあれよと、週末の予定が決まってしまった。
当日。
貴族だとバレないように、質素なワンピースに身を包む。山吹色のワンピースで髪はハーフアップにする。装飾は特に身につけず、ハーフアップにした髪にリボンのみ。
どこかおかしい所はないかと鏡の前でくるりと回ると、弟が入ってきた。
「姉さん、どこかに出かけるの?」
「うん、お友達とね。お友達のお姉様が妊娠していて、何か美味しい物を買ってあげたいのですって」
「ふうん……」
そんな会話をしていると執事がやって来た。
「お嬢様、お迎えが来ましたよ」
「はい、今行きます」
「僕もお迎えの人見たい!」
私の前に弟が走り出す。先に到着していた弟は、彼を見て目をキラキラさせていた。
「姉さん、どうしてボルゲーゼ様が?」
「ご一緒して頂くの」
「凄い!騎士団の中でも5本の指に入ると言われている実力者なんだよ。姉さん、友達なの?凄いよ!」
エルマンノ様に興奮気味の弟。
「あの、姉さんとお友達なのですか?」
普段は私なんかよりよっぽど大人っぽい弟が、エルマンノ様を前にして今は年相応に幼く見える。
「ああ、友達だ、今はな」
ウィンクをして弟と話をするエルマンノ様。
「今は?ではゆくゆくは?」
「これはまだ内緒なのだが……ゆくゆくは妻にと思っているのだが、どうだろうか?」
「是非!そうしたら僕に剣を教えてくれませんか?僕はもっと強くなりたいんです」
「そうか。いい心構えだな。いつでも教えてやるぞ。姉さんに話を通してもらえれば」
「勿論!うわぁ、僕、友達に自慢しちゃおう」
常に、私を守ってくれた弟がエルマンノ様に簡単に落ちてしまった。
「今日は、最後まで姉さんの護衛をするから。心配すんな」
頭をわしゃわしゃと撫でられて、弟がとても嬉しそうにしている。そして、私に視線を寄越したエルマンノ様は、ドキッとするほどの笑顔で私を見た。
「ランザ、今日はいつもと違うな。制服姿も可愛らしいが、そのワンピース姿も可愛らしい。よく似合っているよ」
イケメンに褒められると、どうしてこう熱くなってしまうんだろう。頬だけじゃなく全身が熱い。
そんな私にスッと手を差し出してくれるエルマンノ様。私の心臓を誰かが叩きまくっているらしく、バカみたいにうるさいが、なんとか平静を保ちながら手をそっと掴んだ。
「今日は君を全ての災いから守り抜くから。心配せずに楽しもう」
超絶爽やかな笑顔で言われてしまった。なんだかビリビリと電気が走ったような気がする。
「はい……あの、よろしく、お願いします」
「ああ」
再びの笑顔に、私は不安になる。
『今日一日、私の心臓持つかしら?』
結論から言うと、恥ずか死ぬ寸前だ。皆で合流して、和気あいあいとしている時はまだ良かった。でも、ふとした時にすぐに手を握られ、肩を持たれ、挙句腰を抱かれて。スキンシップが激し過ぎる。
助けを求めたくても、フランもアリーも同じような事になっているのでどうしようもなかった。
「ホントにデートだった」
帰り道、思わず呟いた言葉を拾いあげられた。
「デートって言っただろう」
「言ってましたね」
ぐったりした私を見て、エルマンノ様の顔が曇った。
「もしかして……迷惑だったか?」
しょぼくれた大型犬のように見えてしまった私はもう、すっかり毒されているようだ。
「そんなことはないのです。ただ、初めての距離感でなかなか慣れなくて……」
「これから少しずつ慣れればいいさ。慣れた頃には婚約者だ」
「へっ?」
「俺はランザが好きだ。可愛くて仕方ない。そう遠くない未来、お父上の元へ挨拶しに行かせてもらいたいがどうだろうか?」
「えと、あの……本気、ですか?」
「ああ、本気だ。好きだ、ランザ」
「こんな本ばかり読んでいる私でも?」
「本を読むのはいい事じゃないか。それにこんななんて言うな。俺にとっては唯一無二だ。ランザだけが欲しいと思う」
きっと今、私の顔は真っ赤になっているだろう。こんなにストレートに告白されるなんて想像もしていなかった。
「私も……私もエルマンノ様が好き、です」
言い終わると同時にそっと腕を掴まれ引き込まれた。エルマンノ様の腕に優しく包まれ、恥ずかしいけれど幸せな気持ちになる。
「可愛い俺のランザ。幸せにするから、大事にするから結婚してくれ」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
こうして、1年生が終わる少し前、私達は婚約する事が出来たのだった。




